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その14「反省会とお弁当」



イツキ

「何を怒ってんだ?」


イツキ

「2人だけの即席パーティにしては、上手く行った方だろ?」


タクミ

「けど……!」


イツキ

「俺はマジメにやったさ」



 そう言って、イツキは教室奥のアンコを見た。



イツキ

「そうだろう? 先生」


アンコ

「そうだな」


タクミ

「本気でやって、アレだってのか?」


イツキ

「ああ」


タクミ

「マインドスキルは?」


イツキ

「使ってたさ」


タクミ

「え……?」


タクミ

「お前……俺たちより強いんだろ?」


イツキ

「実戦ならな」


タクミ

「…………?」


タクミ

「先生……!」



 タクミは救いを求め、アンコを見た。



アンコ

「私は知らんぞ」



 アンコは、突き放すように言った。



アンコ

「お前の望み通り、アマノと組ませてやった」


アンコ

「そこから先を、モノに出来るかどうかは、お前次第だ」


タクミ

「…………!」


イチロー

「タクミ」



 イチローが、タクミに近付いてきた。



イチロー

「上手くいかなかったみたいだな?」



 小馬鹿にしたような顔で、イチローはそう言った。



タクミ

「お前もな」



 タクミは言い返した。



タクミ

「随分と、早いお帰りじゃねえか」


イチロー

「それは……お前のせいだろ……!?」


イチロー

「いきなり盾役-タンク-が抜けて、パーティがまともに機能するわけ無いだろ……?」


タクミ

「タンク……ねぇ」



 タクミは、含みの有る表情を見せた。



イチロー

「何だよ?」


タクミ

「タンクが居なきゃ、まともに攻撃も捌けねえのかよ」


イチロー

「それは……役割が違うんだから仕方ないだろ……!?」


タクミ

「ああそう」


タクミ

「それで? 嫌味を言いに来たんなら、帰ってくれるか?」


イチロー

「戻って来い。タクミ」


イチロー

「今なら許してやる。その方が、お互いのためだ」


タクミ

「断る」


イチロー

「タクミ! 意地を張るな!」


タクミ

「別に、感情で言ってるんじゃねえよ」


タクミ

「ただ、今のままじゃ、4組に行ける気がしねえ」


タクミ

「それだけだ。悪いな」


イチロー

「っ……」


イチロー

「俺たちと組むより、そいつと組んだ方が、上に行けるっていうのか?」


タクミ

「多分な」


タクミ

「今回のシフトも、初めて組んだにしては悪くなかった」


タクミ

「だよな? 相棒」


イツキ

「誰が相棒じゃ」


イツキ

「瞬殺された俺に、キレちらかしてただろ?」


イツキ

「古巣に帰れ。故郷は良いぞ。青い鳥が待ってる」


タクミ

「……はぁ」



 タクミは呆れたような顔で、ため息をついた。


 しょうがない奴だな。こいつは。


 そう思っているようだった。



イツキ

「俺が悪いみたいな反応、止めろや」


イチロー

「本当に……戻って来る気は無いんだな?」


タクミ

「ああ」


イチロー

「後悔するなよ」



 イチローは、タクミに背を向けた。


 そして、パーティメンバーの方へと帰っていった。



イツキ

「良かったのか?」


タクミ

「あ?」


イツキ

「このまま、俺と一緒に沈むつもりか?」


タクミ

「心配してくれんのか?」


イツキ

「別に」


タクミ

「……アマノは、俺がタンクに向いてるって思うか?」


イツキ

「全然」



 タクミのスキルは、隙の大きい火力特化だ。


 防御には使えない。


 タクミは攻撃担当-アタッカー-に向いている。


 それがイツキの考えだった。



タクミ

「だよな」



 イツキの意見を受けて、タクミは嬉しそうな様子を見せた。



タクミ

「良し。それじゃ、豚戦の反省会やるぞ」


イツキ

「マジメか」


タクミ

「マジメだよ」


イツキ

「……だよな」


アンコ

「アマノ~。サボリはダメだぞ~」


イツキ

「はいはい」



 話し合いのため、タクミはイツキと椅子を向かい合わせた。


 やる気の少ないイツキは、背もたれにぐで~んと体重を預けていた。



タクミ

「俺たちの編成じゃ、豚の突進を捌ききれねえ」


タクミ

「だから、豚が見えたら、一旦カドまで退く」


タクミ

「それで、カドで相手のスピードが死んだ所に、同時攻撃を叩き込む」


タクミ

「どうだ?」


イツキ

「…………」


タクミ

「俺の作戦が、不満か?」


イツキ

「……いや。理に適ってると思う」


タクミ

「そうか。それじゃあ作戦通りに頼むぞ」


イツキ

「ああ。豚が見えたら逃げる」


タクミ

「良し。次に、この先に出る迷獣だが……」


イツキ

「…………」


アンコ

「ふふっ」



 2人の様子を見て、アンコが小さく笑った。



イツキ

「あれ? なんか今イラっとした」


タクミ

「ナンデ!?」


「困るんだよね。そんなことじゃ……」


イツキ

(ん……?)



 大きめの声が聞こえてきた。


 イツキは声の方を見た。



スミレコ

「ごめんなさい……」


イツキ

(イバラギ……)



 スミレコが、頭を下げているのが見えた。


 パーティの仲間に責められているようだった。


 何かミスをしたらしい。



イツキ

(どこも大変みたいだな)


イツキ

(まあ、どうでも良いか)



 ダンジョン実習なんて、ほどほどにやれば良い。


 イツキの考えは、入学当時からずっと、一貫していた。




 ……。




 授業が終わった。


 生徒たちは、クラスの教室へと移動していく。


 イツキは、特別教育に残った。


 クラスメイトが、居なくなるまで待つ。


 そして、アンコと二人きりになった。



イツキ

「先生。やってくれましたね」



 単刀直入に、イツキはアンコを責めた。



アンコ

「まだ言ってるのか」


イツキ

「俺だけの問題じゃない」


イツキ

「仲間に裏切られたって思ったら、メンタルにも影響が出ます」


イツキ

「マツイのパーティは、間違いなく成績が落ちますよ」


アンコ

「まだ1年。それも1学期だ」


アンコ

「大いに悩めば良いさ」


イツキ

「潰れなきゃ良いですけど」


アンコ

「その時は助けてやれよ。クラスメイトだろ?」


イツキ

「他力本願ですか」


アンコ

「安月給なんでな」


イツキ

「俺、あいつらとそんなに仲良くないですけど」


アンコ

「なら、ほっとけ」


イツキ

「良いんですか? それで」


アンコ

「……現場は厳しい」


アンコ

「これくらいで潰れるやつは、プロのシフターになんて、なるべきじゃ無いんだ」


アンコ

「それに……」


アンコ

「学校でコケる分には、まだ取り返しがつく」


イツキ

「……ですかね」



 イツキはアンコに背を向けた。



アンコ

「アマノ」



 アンコはイツキを呼び止めた。



イツキ

「はい?」


アンコ

「学校は楽しいか?」


イツキ

「別に」


イツキ

「資格が欲しくて、通ってるだけなので」


アンコ

「そうか」


アンコ

「これからきっと、楽しくなるぞ」


イツキ

「…………」


イツキ

(グータラ教師のくせに、いまさら何だ?)


イツキ

「興味ないです」



 イツキは特別教育を出た。




 ……。




 昼休みになった。


 イツキは通学カバンから、弁当箱を出した。


 そこへ、タクミが声をかけてきた。



タクミ

「アマノ。一緒にメシ食おうぜ」


イツキ

「えぇ……」


イツキ

「いつものフレンズと食えよ」


タクミ

「知ってるだろ? 絶縁状を叩きつけられた身だ」


イチロー

「…………」



 イツキと話すタクミを、イチローがチラチラと見ていた。



イツキ

(向こうは未練タラタラに見えるが……)


イツキ

「普段は仲良くして、授業中だけケンカしろよ」


タクミ

「そんな器用なこと出来るか」


イツキ

「じゃあ一人で食えば?」


タクミ

「あ? そんなしみったれた事できるかよ」


イツキ

「…………」



 イツキはいつも、1人で弁当を食べていた。


 嫌われ者なので、当然にそうなっていた。



イツキ

(悪かったな。しみったれてて)


タクミ

「いつもどこで食ってんだ?」


イツキ

「教室だよ。いつも居るだろ」


タクミ

「そうか。気にも留めて無かったぜ」


イツキ

「…………」



 タクミは弁当箱の包みを、イツキの机に置いた。


 そして、自分の椅子を持ってきて、イツキの机の隣に置いた。


 椅子に座ったタクミは、包みから、弁当箱を取り出した。



イツキ

「手作り弁当派か」


タクミ

「ああ。お前は?」


イツキ

「俺もだ」



 イツキも包みから、弁当箱を取り出した。


 そして、弁当箱の蓋を開いた。



イツキ

「えっ……」



 イツキは唖然とした声をあげた。



タクミ

「ハート……?」



 お米の部分に、桜でんぶでハートが描かれていた。



イツキ

「これは……」


イツキ

「悪ふざけが好きなんだ。ウチの親」



 イツキの弁当は、ナツキが作っている。


 今までに、こんなイタズラをしてきた事は無かった。


 いきなりどうしたのか。


 イツキは内心で混乱していた。


 だが、タクミに弱みを見せたくは無い。


 表面上は、平然とふるまっていた。



タクミ

「ふーん?」



 ハート弁当を見ても、タクミはあまり、気にしていない様子だった。



イツキ

「笑わないんだな?」


タクミ

「人の弁当を笑う奴は、嫌いだ」



 タクミはそう言って、弁当箱を開いた。


 イツキはタクミの弁当を見た。


 その弁当は、お世辞にも美しいとは言えなかった。



イツキ

(ぐちゃぐちゃだな。こいつの弁当……)


イツキ

「人のダンジョンを笑うのは、良いのか?」


タクミ

「悪かったって言ってるだろ」


イツキ

「…………」


イツキ

「……弁当、自分で作ってるのか?」


タクミ

「いや。妹だ」


イツキ

「珍しいな。普通は親だろ」


タクミ

「かもな」



 2人は弁当を食べ始めた。



タクミ

「そうだ。携帯の番号とか交換しようぜ」


イツキ

「どんだけ踏み込んで来るんだよ。お前」




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