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その11「アマノ=イツキとその生き様」



ユニコ

「どうしてこのようなことを?」


イツキ

「言わなかったか? 強くなるためだよ」


ユニコ

「あなたは十分に強い。そう思いますけど」


イツキ

「いや。オリハルコンの力に頼ってるだけさ」


イツキ

「こいつが無かったら、夢魔を1体倒すのに、軽く30分はかかる」


ユニコ

「それで十分だと思います」



 常人は、そもそも夢魔を倒せない。


 プロでも、1人で安定して夢魔に勝てる者は、少ない。


 十二分な戦果だ。


 ユニコには、そう感じられた。


 イツキが何を卑下しているのか、理解できなかった。



イツキ

「……俺は負け犬だ」



 イツキは、俯いて言った。



ユニコ

「アマノさん?」


イツキ

「男には、負けちゃいけない勝負ってのが有る」


イツキ

「それに負けると、男は男じゃ無くなる」


イツキ

「道から転げ落ちて、負け犬になるんだ」


イツキ

「どうしたら這い上がれるのか……俺にはまだ分からない」



 ユニコには、イツキが何を背負っているのかは、分からない。


 ただ、イツキが自分に、弱みを見せてくれている。


 そのことだけは、分かった。



ユニコ

「初対面の女子に、そんな事、話すんですね」


イツキ

「……変かな?」


ユニコ

「思ってたよりも、センチな方なんですね」


イツキ

「別に、いつもはこんな風じゃない」


イツキ

「……その筈だが」


イツキ

「見損なったか?」


ユニコ

「いえ」


ユニコ

「……アマノさん」


ユニコ

「あなたが自分を嫌いでも、私はあなたのことが好きですよ」


イツキ

「好きって……」


ユニコ

「恋では無いですよ。まだ」


イツキ

「ちぇっ」


ユニコ

「出会ったばっかりじゃないですか。私たち」


イツキ

「まあな」


イツキ

「けど……まあ……」


イツキ

「お前のヒーローも、誰か別に居るさ」


イツキ

「俺みたいな負け犬じゃない、男のヒーローがな」


イツキ

「ユニコは、そいつを好きになれば良い」


ユニコ

「そうですかね」


イツキ

「そうさ」


ユニコ

「…………」


ユニコ

(私はあなたに、この身を救われているんですけど?)


ユニコ

(大切な恩人なんですけど?)


ユニコ

(そのヒーローとやらは、私に何をしてくれやがるんですかね……?)




 ……。




 イツキは敵を待った。


 すぐに、次の夢魔が現れた。


 イツキは夢魔を斬り、殺した。


 血が乾くと、また手首を斬った。


 マインドブラッドをばらまいた。


 するとまた、次の夢魔がやって来る。


 その繰り返しだった。


 複数の夢魔と、同時に戦うことさえ有った。


 ひたすらに戦いを続けた。


 そして……。



ヤーコフ

「…………」



 150体ほどの夢魔を倒したところで、ヤーコフが現れた。



ユニコ

「あっ。パパさん」


ヤーコフ

「時間だぞ」


イツキ

「了解」



 イツキは刀を、鞘に収めた。


 そして、地面に置いた。



イツキ

「…………」


イツキ

「おらあああああああああぁぁぁっ!」



 イツキはヤーコフに殴りかかった。



ユニコ

「えっ?」



 ユニコは呆気にとられた。


 リビングで、似たような1幕が有った。


 だが、あの時は、ヤーコフの軽口というきっかけが有った。


 今回のヤーコフは、何も言ってはいない。


 前触れ無く、戦いが始まっていた。



イツキ

「はあっ!」


ヤーコフ

「ふうっ!」



 ヤーコフはイツキの拳をかわした。


 そして、そのまま腕を取って、投げた。



イツキ

「っ……!」



 イツキは地面に転がった。


 そんなイツキの顔面に、ヤーコフは蹴りを叩き込もうとした。


 イツキは転がって、ヤーコフの足を回避した。


 そしてすぐに立ち上がり、拳を構えた。



イツキ

「ふぅ……!」


ユニコ

「あの」



 闘志を燃え上がらせたイツキに、ユニコが声をかけた。



イツキ

「何だ?」



 イツキは体の側面を、ユニコに向けた。



ユニコ

「何をしているのですか?」


イツキ

「クールダウンだよ。夢魔狩りの」


ユニコ

「ヒートアップしてません?」


イツキ

「血が渇くまでは、ここを離れるわけにはいかないからな」



 そう言って、イツキは地面を見た。


 そこには、イツキのマインドブラッドが残留していた。


 それは、夢魔を引き寄せる匂いを放っていた。



ユニコ

「ああ……」


ユニコ

「パパさんのダンジョンに、夢魔が入るといけませんからね」


イツキ

「そういうこと」


イツキ

「それで、父さんに稽古をつけてもらってるってワケさ」


ユニコ

「なるほど」


ユニコ

「急に、バ○VS勇○郎が始まったので、ビックリしました」


イツキ

「○キって誰?」


ユニコ

「高名なグラップラーです。得意技は打撃です」


イツキ

「グラップリング要素どこ行った?」


ユニコ

「はて?」


イツキ

「もう良いか?」


ユニコ

「はい」


イツキ

「それじゃ……」


イツキ

「死ねええええええええええぇぇぇっ!」



 雄叫びと共に、イツキはヤーコフに襲いかかった。



ユニコ

「……………………」


ヤーコフ

「甘い」


イツキ

「うげっ!?」



 イツキは地面に転がった。




 ……。




 イツキとヤーコフは、30分ほど組み手を続けた。


 組み手と言うには、技が過激だったようにも見えたが、気のせいだろう。


 途中で1度、夢魔が襲ってきたが、ヤーコフが始末した。



ヤーコフ

「お疲れ」


イツキ

「…………」



 イツキは地面に倒れ伏していた。


 ヤーコフの技を受け続け、精根尽き果てた様子だった。


 一方、ヤーコフは涼しい顔をしていた。


 定時帰宅のホワイト社員のように、安らかに、ヤーコフは離脱していった。



ユニコ

「…………」


ルー

「みゃー」



 倒れているイツキに、ユニコとルーが歩み寄った。



ユニコ

「だいぶ、クールダウン出来たみたいですね」


イツキ

「……まあな」


ルー

「みゃあ」



 ルーがイツキを、ぺろぺろと舐めた。


 マインドな唾液が、イツキの頬を濡らした。


 イツキは立ち上がった。


 先程、激闘が有った。


 にも関わらず、彼の体には、傷一つ無かった。



イツキ

「それじゃ、俺たちも戻るか」


ユニコ

「はい」



 イツキは刀を手に取ると、目を閉じた。


 マインドボディを、心層から離脱させる。


 現実へ。


 ベッドの上で、イツキは目を覚ました。



ユニコ

「…………」


イツキ

「うわっ!?」



 イツキは驚きの声を上げた。


 ユニコがイツキの顔を、覗き込んでいた。



イツキ

「な……何やってんだよ!?」


ユニコ

「ハーフシフトは退屈なので、アマノさんの顔を眺めていました」


イツキ

「……勝手に部屋に入るなよ」


ユニコ

「すいません。ですが、実に退屈で」


ユニコ

「危うくエンド○スエイトの長○有希と化すところでした」


イツキ

(誰?)


イツキ

「退屈なら、ヒメと話してれば良いだろ」


ユニコ

「シフト中に、巧妙な会話が出来るほど、器用では無いので」


イツキ

「それなら、とっとと離脱すれば良かったんだよ」


ユニコ

「有意義でしたよ」


ユニコ

「どさくさに紛れて、夢魔の経験値を、たくさん吸わせていただきました」


イツキ

「経験値ドロボーめ」



 心層の獣を倒すことで、得られる力が有る。


 獣が死ぬ時に、何からの力が放出される。


 それをマインドボディが吸収することで、強化が行われる。


 戦いに参加しなくても、近くに居るだけでも、吸収は可能だった。


 距離が近いほど、多くの力を吸えると言われていた。


 力は、ロールプレイングゲームにたとえて、経験値と呼ばれることがあった。


 だが、ゲームの経験値と比べて、現実のそれは、軽視されていた。


 ちまちまと経験値を集めなくても、ダンジョンを攻略すれば強くなれる。


 経験値の価値は、Dレベルがもたらすパワーと比べ、遥かに小さいと言われていた。



ユニコ

「ふふふ。お休みなさい」



 冗談で毒づいたイツキに、ユニコは笑顔を返した。



イツキ

「ああ。お休み」


イツキ

「ついでにリンカー返しといてくれるか?」


ユニコ

「はい」



 イツキはユニコへと、リンカーを放った。


 ユニコはそれを受け取ると、イツキに背を向けた。


 そして、部屋から出ていった。


 イツキはベッドから立ち上がり、刀を箪笥に入れた。



イツキ

「コカゲも、お休み」



 イツキは愛刀に声をかけると、箪笥を閉じた。


 それからジャージに着替えた。


 パジャマの代わりだった。


 着替えが終わると、イツキはベッドへと戻った。




 一方、廊下に出たユニコは、リビングへ向かった。


 もう夜中だが、リビングの明かりはついていた。


 リビングに入ると、ソファにヤーコフの姿が有った。


 そこから心層へと、シフトしていたらしかった。



ヤーコフ

「おやすみ」


ユニコ

「はい。おやすみなさい」



 ヤーコフは、部屋から出ようとして、ユニコとすれちがった。



ユニコ

「あ……」



 ユニコの声が、ヤーコフを呼び止めた。



ヤーコフ

「何だ?」


ユニコ

「インターネットを使わせてもらえませんか?」


ユニコ

「ちょっと……調べたいことが有るので」



 ヤーコフは親指で、リビングのローテーブルを指し示した。



ヤーコフ

「そこのノートPCに、無線が繋がってる。好きに使え」


ユニコ

「ありがとうございます」



 ヤーコフは廊下に出て、夫婦の寝室の扉を開いた。



ヤーコフ

「おまたせ」



 ナツキに声をかけると、寝室の扉を閉めた。


 ユニコは、リビングのソファに座った。


 リンカーを外し、ローテーブルに置いた。


 そして、赤いノートPCを、自分の方へ引き寄せた。


 閉じられていたPCを開き、電源を入れた。


 モニターに光が宿った。



ユニコ

「…………」



 ユニコは起動画面が終了するのを待った。



ユニコ

(今日、アマノさんが倒した夢魔は、150体以上……)


ユニコ

(そして彼は、5年前からアレを続けている)


ユニコ

(彼は……1年間に5万体の夢魔を倒しているということになる)



 やがて、PCが使用可能な状態になった。


 ユニコはインターネットブラウザを起動した。


 初期ページはヤ○ージャパンになっていた。


 ユニコは○フーでググると、情報を検索した。



ユニコ

「やっぱり……」



 ユニコがたどり着いたのは、厚生労働省のウェブサイトだった。


 そこには、夢魔災害の発生件数の、データが記載されていた。


 それを見ると、毎年の災害発生件数の推移と、死傷者数の推移も分かった。



ユニコ

(ここ5年で、夢魔災害の犠牲者が、少しずつ減少してきている……)


ユニコ

(ただの偶然だと言うには、アマノさんの生き方は、凄絶に過ぎる)


ユニコ

(アマノさんが戦った分だけ、人が襲われにくくなっているんです)



 夢魔の数は多い。


 その繁殖方法すら分かっていない。


 イツキ1人で、根絶やしに出来るような存在では無かった。


 今でも、毎年多くの人が、夢魔によって命を絶たれていた。


 だが、それでも、眼前のグラフは、明確な右肩下がりを示していた。


 それがイツキの功績だという、明確な証拠は無かった。


 それでもユニコは、イツキを信じることに決めた。



ユニコ

「何万という人々の命が……あなたに救われているんです」


ユニコ

「たとえ、誰もそれを知らなくても……」


ユニコ

「あなたは、負け犬なんかではありません」


ユニコ

「立派なヒーローですよ。アマノさん」



 そう言ったユニコの目は、少し潤んでいた。




 ……。




 ヨコミゾ警察の留置場。


 牢の中のベッドに、男の姿が有った。


 赤いバイクを駆り、ユニコを追っていた男だった。


 イツキに倒され、牢屋へと放り込まれていた。


 男は目を開き、上体を起こした。


 そして、首を押さえた。



オウジロウ

「あ~いてぇ……」


オウジロウ

「あのガキ……。マジの跳び蹴りくれやがって……」


オウジロウ

「さて……」



 男はベッドから立ち上がった。


 そして、自身のセカンドシャドウに手を伸ばした。


 右手に手応えを感じると、男は牢の扉に向かった。


 すると、扉が開いた。


 鍵がかかっていたはずの扉が。



オウジロウ

「ヌルいな。警察ってのは」



 男は牢から出た。


 見張りの制服警官が、男に気付いた。



警官

「貴様……! どうやって……!」


オウジロウ

「あ? そんなことも分からねえのかよ」



 警官は、腰のホルスターに手を伸ばした。


 そして、銃を抜き、構えた。


 標準装備のリボルバーだ。


 装弾数は5発。


 弾丸は9ミリ弾だった。



警官

「止まれ……! 動いたら撃つ!」



 実戦経験が無いのだろう。


 銃口は、安定せずに揺れていた。



オウジロウ

「チッ。鉄砲かよ」


オウジロウ

「鉄砲は相性が悪いんだよなぁ。俺は」


オウジロウ

「だから死ね」



 男は、凶暴な笑みを浮かべた。



警官

「…………!?」



 制服警官の視界が、赤く染まった。





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