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その7「アマノ一家とユニコ」




ナツキ

「ダメよいっくん。お友だちにそんな事言ったら」


イツキ

「何がだよ」


ユニコ

「…………」


ナツキ

「はじめまして。私はアマノ=ナツキ。いっくんのお母さんよ」


ヤーコフ

「アマノ=ニコラエヴィチ=ヤーコフ。こいつの親父だ」



 ヤーコフは、イツキの頭に手を伸ばした。


 そして、ぐりぐりと撫でた。



イツキ

「触んな」



 イツキは、ヤーコフの手を払い除けた。



ユニコ

「…………」


ユニコ

「私はユニコです」


ヤーコフ

「名字は?」


ユニコ

「…………」


イツキ

「記憶喪失なんだってさ」


ヤーコフ

「身元が分かる物とか無いのか?」


ユニコ

「……はい」


ヤーコフ

「すると、施設で保護されることになるのか」


ユニコ

「そうみたいですね」


イツキ

「施設……」


イツキ

「それって遠いのか?」


ヤーコフ

「多分な」


イツキ

「良い所なのか?」


ヤーコフ

「知らねーよ」


イツキ

「何だよそれ」


ヤーコフ

「もし悪い所だって言ったら、どうすんだ?」


イツキ

「どうって……」


イツキ

「別に……俺に出来ることなんて、何も無いだろ?」


ヤーコフ

「出来る出来ないの話か?」


イツキ

「違うのかよ?」


ヤーコフ

「もし自分に出来ることが有ったら、彼女に何かしてやりたい」


ヤーコフ

「お前はそう思ってんだな?」


イツキ

「悪いか?」


ヤーコフ

「いいや」


ヤーコフ

「そういう事らしいぞ。ユニコ」


ユニコ

「…………」


ユニコ

「どういうことか分かりませんけど」



 ユニコは、イツキたちを見ないようにして言った。



ナツキ

「あっそうだ」


イツキ

「唐突」


ナツキ

「ユニコちゃんが良かったら、家に住まない?」


ユニコ

「……良いのですか?」


ナツキ

「もちろんよ。だって……」


ナツキ

「いっくんが、女の子と仲良くしてるのなんて、あの事件以来だし……」


イツキ

「母さん……!」


ユニコ

「事件……?」


ナツキ

「あらあら。ごめんなさい」


ナツキ

「とにかく、ぜひ家に来てちょうだい」


ユニコ

「お気持ちはありがたいのですが……」


ユニコ

「私は……ワケアリの身の上です」


ユニコ

「得体の知れない連中に、この身を狙われています」


ユニコ

「私を保護することで、あなた方の身に、危険が及ぶかもしれませんよ?」


ヤーコフ

「心配すんな。ウチのマンションは、セキュリティがしっかりしてるからな」


ユニコ

「……そういう問題なのでしょうか?」


ヤーコフ

「施設に行けば、人に迷惑がかからない……」


ヤーコフ

「なんてのは、間違いだ」


ヤーコフ

「保護施設なんて所には、最低限のセキュリティしか無いからな」


ヤーコフ

「もし、ユニコがさらわれたら、捜索のため、たくさんの人が動くことになる」


ヤーコフ

「それよりも、警備が厳重なウチに来た方が、手間はかからないと思うぜ?」


ユニコ

「そんなに良いマンションなのですか?」


ヤーコフ

「多分な」


ユニコ

「そこは、断言して貰いたかったところですが」


ヤーコフ

「んじゃ、世界一位ってことで」


ユニコ

「はあ」


ユニコ

「……そういうことでしたら、お世話になります」


ユニコ

「構いませんか? アマノさん」


イツキ

「良いけど」


ユニコ

「はい」


ナツキ

「決まりね。それじゃ、お店に寄って行きましょう」


ナツキ

「ユニコちゃんの、歓迎パーティをしないと」


イツキ

「パーティて。あんまはしゃぐなよ。母さん」


ナツキ

「あらあら。母さんだなんて、他人行儀ね」


ナツキ

「いつもみたいに、ママって呼んでくれても良いのよ?」


イツキ

「呼んでねえからな!?」


ナツキ

「ふふっ。ユニコちゃん」


ユニコ

「?」


ナツキ

「あんなこと言ってるけど、一番嬉しがってるのは、いっくんなのよ」


ユニコ

「なるほど?」


イツキ

「…………」



 ヤーコフは、担当の警官に、ユニコを引き取ることを告げた。


 ヤーコフの申し出は、妙にあっさりと承諾された。


 人1人の人生が、決まるのだ。


 もっと色々と、有るのではないか。


 イツキはそう思ったが、結果に不満は無いので、口には出さなかった。


 4人はヨコミゾ警察署を出た。


 駐車場に、ヤーコフの車が止まっていた。


 シルバーのプレミアムセダン。


 国産車だった。


 4人は車に乗り込んだ。


 ヤーコフの運転で、ショッピングモールへ向かった。


 そして、車から下りると、まずは服屋に向かった。


 ユニコがずっと、検査着のような格好をしていたからだ。


 服屋でざっくりと、ユニコの服を揃えた。



ユニコ

「申し訳有りません」



 白基調の服に身を包み、ユニコが言った。


 髪色とお揃いになるよう、ナツキが選んだ服だった。



ナツキ

「良いのよ」


ユニコ

「ですが……」


ナツキ

「もし恩義を感じるのなら、いっくんに返してあげてね」


ユニコ

「…………」



 そう言われ、ユニコはちらちらとイツキを見た。



イツキ

「何をふきこんでんだよ」


ナツキ

「うふふ」



 服屋の次は、スーパーマーケットに向かった。


 料理の手間を考えると、あまり時間はかけられない。


 手早く買い物を済ませ、ショッピングモールを発った。


 次は、マンションの駐車場へ。


 車を停めると、マンションに入った。


 オートロックを抜け、エレベーターに乗った。


 3階でエレベーターを降り、自宅へと向かった。


 イツキは玄関前に立つと、鍵穴に鍵を差し込んだ。


 鍵を開け、扉を開いた。



イツキ

「ただいまー」



 玄関の奥には、廊下が有った。


 廊下は、いくつもの扉に面していた。


 扉が、2つ開いた。


 扉から、女子と男子が、一人ずつ出てきた。


 2人とも、イツキよりも体が小さい。


 年下のようだった。



ユーリ

「お帰り。にーちゃん」



 10歳くらいの銀髪の少年が、イツキに言った。


 次に、中学生くらいの少女が口を開いた。



アキヒメ

「イツキ。帰って来たんですね」



 少女の眉根は固い。


 ツンとした視線が、イツキに向けられていた。


 彼女の髪はロングヘアで、イツキと同じ色をしていた。


 少年の容姿はナツキ似。


 少女の容姿はヤーコフ似だった。


 少年の美貌はまだ未完成だが、美男美女であると言えた。



イツキ

「帰ってきたら悪いか?」


アキヒメ

「別に。ただ、警察署のご厄介になったと聞いたので……」


アキヒメ

「牢屋で臭い飯でも食べて、帰って来ないものかと」


イツキ

「お前の中で、俺は何したことになってんの?」


ナツキ

「こら。ダメよ。喧嘩なんてしたら」


アキヒメ

「…………」


ユーリ

「にーちゃん、鉄砲で撃たれたってホント?」


イツキ

「誰に聞いたかは知らんが、嘘だぞ」


ユーリ

「じゃあ何したの?」


イツキ

「轢き逃げされたんだよ」


ユニコ

「……申し訳有りません」


ヤーコフ

(制服に、丸い穴が開いてるんだが……?)


アキヒメ

「お父さん、その人、誰?」



 少女がユニコを見て言った。



ヤーコフ

「イツキの友だちのユニコだ。家で保護することになった」


アキヒメ

「保護って……」


ヤーコフ

「家に住むってことだな」


アキヒメ

「えっ……!? 聞いてない……!」


ヤーコフ

「全部イツキが決めたことだ」


イツキ

「えっ?」


ヤーコフ

「文句を言うなら、お兄ちゃんに言ってくれ」


アキヒメ

「っ……! 最低ですね……!」


イツキ

「そんな悪いことしてるか? 俺」


アキヒメ

「そういう重要なことを決めるには、あらかじめ相談が有ってしかるべきでしょう?」


イツキ

「そりゃ悪かったが……」


イツキ

「ユニコは行く所が無いんだ。受け入れてやってくれ。頼む」



 イツキは頭を下げた。



アキヒメ

「っ……!」


アキヒメ

「別に……構いませんよ」


アキヒメ

「悪いのはイツキであって、ユニコさんでは有りませんから」


イツキ

「助かる」


アキヒメ

「…………」


アキヒメ

「アマノ=ヤーコヴレヴナ=アキヒメです。よろしく」


ユーリ

「俺ユーリ! よろしくね。ユニコちゃん」


ユニコ

「ユニコです。よろしくおねがいします」


アキヒメ

「はい。……それでは」



 アキヒメは、すぐに部屋に引っ込んでいった。



ユニコ

「妹さんですか?」



 ユニコはイツキに尋ねた。



イツキ

「ああ」


ユニコ

「反抗期みたいですね」


イツキ

「俺が悪いんだろう。多分」


ユニコ

「…………?」


ヤーコフ

「で、いつまで荷物持ってりゃ良いんだ? とっととリビングに行こうぜ」


イツキ

「そうだな」


ナツキ

「いっくんは、着替えないとダメよ」


イツキ

「分かった」



 アキヒメ以外の5人は、リビングダイニングに向かった。


 そして、ダイニングテーブルに荷物を置いた。


 ナツキは荷解きを始めた。



イツキ

「着替えてくる」


ユニコ

「はい」


ヤーコフ

「ユニコはその辺、テキトーに座っといてくれ」



 ヤーコフはリビングのソファを、親指で指した。



ユニコ

「どうも」



 ユニコは、リビングの方へと歩いた。


 2つのソファが、L字型に設置されていた。


 彼女は、その片方の端に、腰をかけた。


 ヤーコフがやって来て、もう片方のソファに座った。



ユーリ

「…………」



 人懐っこいユーリは、ユニコの隣に座ろうとした。


 それをヤーコフが招き寄せた。



ヤーコフ

「ちょいちょいちょい」


ヤーコフ

「お前はこっちだ」


ユーリ

「どうして?」


ヤーコフ

「そこはイツキの席だからだ」


ユーリ

「そうなの?」


ユニコ

「別に……そういうわけでは……」


ユーリ

「だってさ」


ヤーコフ

「良いから、我慢しとけ」


ユーリ

「え~?」



 ユーリは納得がいかない様子だったが、強くは逆らわなかった。


 ヤーコフは、そんなユーリの頭をわしわしと撫でた。


 一方のイツキは、自室で着替えで済ませた。


 部屋着姿になると、リビングダイニングに戻った。


 ソファの方を見ると、ユニコと目が合った。



ユニコ

「…………」


イツキ

「…………」



 イツキはソファの方へ歩いた。


 そして、ユニコと同じソファに、彼女と少し距離を置いて、座った。



イツキ

「…………」


ユニコ

「…………」


イツキ

「テレビでも……見るか?」


ユニコ

「アッハイ」


ユーリ

「とーちゃん。隙間有るよ。隙間」



 ユーリは2人の間を見て言った。



ヤーコフ

「あれは、挟まっちゃダメな隙間なんだ」


イツキ

(何の話だ?)


ヤーコフ

「さて……ユニコ」


ヤーコフ

「お前を家に住まわせるにあたって、最初に決めておく事が有る」


ユニコ

「はい」


ヤーコフ

「まず、家は4LDKだ」


ユニコ

「中々の物件ですね」


ヤーコフ

「ありがとう。それでだ……」


ヤーコフ

「1つは夫婦の寝室、そして、残りの部屋を、イツキたち兄弟が使っている」


ヤーコフ

「ユニコは、どの部屋に住みたい?」





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