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その1「ダンジョン科と孤独な少年」

対戦よろしくお願いします



 1945年、8月6日。


 第二次世界大戦末期。


 アメリア合衆国は、アシハラ国に、D兵器を投下。


 ヒロシマは、草木も生えぬ荒野と化した。


 同月、9日。


 D兵器、ドラグーンの『二次被害』が発生。


 ナガサキが崩壊した。


 アシハラのミカドは、連合国に降伏を申し入れた。




 ……。




 1963年、11月。


 アメリア合衆国、テキサス州ダラス。


 アメリア大統領、ケネディが暗殺された。


 ケネディは往来で、衆人環視の中で、銃殺された。


 彼の死に関する真相は、CIAによって、闇へと葬られた。


 ケネディの死によって、ジョンソンは大統領の地位に登りつめた。


 ジョンソンは、1969年の1月まで大統領を務めた。


 ジョンソンの後、大統領の座は、ニクソンが継いだ。


 同時に、ジョンソンが推し進めていた『計画』も、次の政権へと引き継がれた。


 そして、1969年11月……。



 世界は、変わった。




 ……。




 世界が変わった日から、半世紀以上が経過した。


 アシハラ国首都、トーキョー。


 その西部。


 『Dクエイク』による人口変動が原因で作られた、24番目の区、ヨコミゾ区。


 塔見-トウケン-高等学校という名の、高校が有った。


 その校舎の、特別教室。


 30人の生徒たちが、大きな椅子に腰掛けていた。


 通常の授業に用いるような椅子では無い。


 革張りの、どっしりとした椅子だった。


 値段も張る。


 『ダンジョン実習』のための椅子だ。


 1年5組の授業が始まろうとしていた。


 5組は『ダンジョン科』だ。


 トウケン高等学校は、国内で有数の、ダンジョン科が有る高校だった。


 その名の通り、ダンジョン関係の授業を行う学科だ。


 実習では、実際にダンジョンに潜ることになる。


 今回の授業が、それに当たった。


 教室の奥側に、スーツ姿の女教師が立っていた。



アンコ

「それじゃ、いつものように、4人か3人でパーティを組んでくれ」



 ダンジョン実習の教師、イトー=アンコがそう言った。


 身長167センチの、すらりとした体型の女性だった。


 赤い髪を、短くラフに刈っている。


 顔には、細いフレームの眼鏡をかけていた。


 アンコの声を受け、生徒たちは、椅子から立ち上がった。


 そして、それぞれが、素早く組を作った。


 無駄な時間は使わない。


 慣れている。


 組を作るメンバーは、予め決まっていた。


 あっという間に、組が7つ出来た。


 そして、一人だけが余った。


 クラスの人数は30人だ。


 4人で組を7つ作ると、2人余ることになる。


 だが、余ったのは1人だった。


 4人の組が6つに、5人の組が1つ。


 1人だけが、仲間ハズレにされていた。


 アンコにも、そのことは予想出来ていた。



アンコ

(いつもどおりだな……)



 そう思いつつ、アンコは余った少年に声をかけた。



アンコ

「アマノ」


イツキ

「構いません」



 少年は、簡潔に答えた。


 繰り返された光景だ。


 やり取りが簡略化されていた。


 少年の名は、アマノ=イツキ。


 クラスの嫌われ者だった。


 薄緑髪の少年で、身長は178センチ。


 無表情だが、両の目はきりっとしている。


 意志の強さを感じさせた。


 少年の『2つ目の影』が、アンコの方を向いていた。


 この世界の人間は、誰もが影を、2つ持っていた。


 光源によって出来る影と、もう1つ。


 そして、2つ目の影は意識の方角へと向く。



アンコ

(悪いが……)


アンコ

(そこまで給料貰ってるわけでも無いんでな)



 イツキの置かれている状況は、良いものでは無い。


 イジメと言っても良いだろう。


 だが、アンコは所詮、授業の一つを受け持っているだけだ。


 クラス担任ですら無い。


 アンコには、クラスのゴタゴタに関与するつもりは無かった。


 アンコがイツキと組めば、一応は授業を進行出来る。


 それで良いと思っていた。


 イツキの方も、それを気にする様子を見せなかった。



アンコ

「それじゃ、『リンカー』を取りに来てくれ」



 そう言ったアンコの左隣。


 床に、金属の箱が置かれていた。


 箱の中には、金属質の腕輪が有った。


 様々な色の物が有る。


 カラフルだ。


 ただの装身具では無い。


 リンカーと呼ばれる、特殊な腕輪だ。


 機械と言っても良い。


 組のリーダーたちが、アンコの居る方へ向かった。


 そして、色が揃うようにして、人数分の腕輪取っていった。


 リーダーは、パーティの仲間の所へ戻り、彼等に腕輪を手渡した。


 それぞれが、腕輪を装着した。


 パーティ毎に、異なった色の腕輪を装着していた。


 別のパーティと、腕輪の色が被ることは無かった。


 イツキを除き、腕輪の分配が終わった。


 生徒たちは席に戻った。


 そして、背もたれを倒していった。



アンコ

「それでは、各自、『レイヤーシフト』を許可する」



 アンコの許可が下りた。


 生徒たちは目を閉じた。


 一瞬、生徒たちの体が光った。


 『シフト』する者が放つ、『マインドパワー』の輝きだった。



「……………………」



 教室内に、沈黙が訪れた。


 アンコとイツキ以外、皆が、目を閉じたまま動かない。


 眠ったように見える。


 事情を知る者なら、睡眠では無いと分かったはずだ。


 彼らの精神は、『心層世界』へと旅立った。


 ほんの少し世界の理を知っていれば、分かることだった。



イツキ

「…………」



 アマノ=イツキが、席を立った。


 そして、アンコの近くまで歩いた。


 箱に向かってしゃがみこむと、言った。



イツキ

「今日は、何色にします?」


アンコ

「赤かな」


イツキ

「どうぞ」



 イツキはアンコに、赤色の『マスターリンカー』を手渡した。


 そして、自分の手首に『スレイブリンカー』をはめた。


 腕輪をはめると、イツキは自分の席に戻った。



アンコ

「…………」



 アンコは黙ったまま、目を閉じた。


 アンコの体が光った。



アンコ

「良いぞ。『ハーフシフト』した」



 アンコは目を開き、言った。


 生徒たちとは違い、意識を失わなかったようだ。



イツキ

「はい」



 アンコの言葉を聞いて、イツキも目を閉じた。


 イツキの体が、マインドパワーの輝きを放った。


 そして……。


 イツキの精神は、心層世界へと降り立っていった。



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