美しき女神の歌声 金星
二人はなんとか太陽と水星の横を通り過ぎることができました。
あれほど熱かった太陽の光もいまは耐えれるぐらいに下がっています。
「ふう、ここまで来たら一安心だ」、とお兄ちゃん流れ星がいいました。
「お兄ちゃん、ごめんね」
弟流れ星はお兄ちゃん流れ星に謝りました。なぜってお兄ちゃん流れ星はずっと弟くんを太陽の熱からまもってくれていたからです。そのせいでお兄ちゃん流れ星の体はほとんど溶けてなくなっていました。もう弟くん流れ星の半分のそのまた半分ぐらいの大きさになってしまっていました。それでもお兄ちゃん流れ星はにかっと笑っていいました。
「いいんだよ。ぼくはお兄ちゃんだからね。
でも、もうぼくはあまり早く走れないから。この先はお前ひとりでいくほうがいい」
ほんのちょっぴり声をおとすと、そういいました。いきなりの話に弟流れ星はびっくりしました。
「いやだよ。せっかくここまで一緒に来たのに。今さらお兄ちゃんをおいていくなんてできないよ」
叫びながら、涙があふれてきました。
「もしも、はやく走れないっていうのなら、こんどはぼくがお兄ちゃんを連れていくよ」
弟くんはそう言うとお兄ちゃん流れ星をだきしめました。そして、そのまま全力で走り出すのでした。
しばらく進むと、微かに歌声が聞こえてきました。前方に見える金色に光る星からきこえてくるようでした。
「ああ、あれは金星の女神さまの歌声だ」
「女神さまの歌声?」
「そうさ。あの歌声を聞いちゃだめだ。聞くとねむってしまうぞ」
「ええ、じゃあ、どうすればいいの?」
「歌が聞こえないぐらい遠くに離れていればいいんだけど、それだとすごい回り道になってしまうね……
そうか、いいことを思いついたぞ。ぼくが聞こえないように耳をふさいておくから、そのまま、まっすぐ進むんだ。そうすれば一番になることまちがいなしさ」
「なるほど。ようし、さいごまで一緒だよ、お兄ちゃん」
弟くん流れ星は一緒にレースを続けられることがなによりもうれしかったのです。満面の笑みを浮かべるとさらにスピードをあげて走り続けました。
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2022/01/02 初稿