羊飼いのおじいさん 土星
「地球?
その地球が目的地なんだ。でも、そこへいってどうするの?」
「……それは秘密だ」
なぜか、お兄ちゃん流れ星は照れたように答えました。
「ええ? なにそれ
ねね、ちゃんと教えてよ」
「ダメだ。教えるにしてももう少し行ってからな。
お前はすぐ怠けようとするからさ。ちゃんとついてこないと教えてやんないよ!」
弟くんは納得いかない、と何度も問いかけるのですがお兄ちゃん流れ星は聞く耳を持ちません。
と、また前方の奇妙なものが見えてきました。
しばらく、兄弟流れ星は抜きつつ抜かれつしながら進んでいきました。
「ううんと、あれも惑星なの……?」
弟流れ星は自信なさげにつぶやきました。
なぜならさっき見たふたつの惑星とぜんぜん違っていたからです。
土色に光る球体にはその3倍はありそうな平たく大きな輪っかがついていました。
「あの輪っかはなんなの?」
「う~ん、浮き輪みたいなものかな。
ないと沈んじゃうというか、たおれてしまうというか。
今見えている土星はおじいさんだからね」
弟くんの質問にお兄ちゃん流れ星はそっけなくこたえました。
「おじいさん、お年寄りってこと?!」
「そうそう。羊飼いのおじいさんだ。
たくさんの羊を飼っているんだ」
弟流れ星はおどろいて土星をもう一度見ました。たしかに大きな輪っかとは別にたくさんの衛星が土星の回りを回っているのが見えました。
あれの衛星が羊ってことなのかなぁ?
弟流れ星はもっと良く見ようと土星に近づこうとしました。
「不用意に近づくと羊ドロボウと間違えられるぞ!」
お兄ちゃん流れ星の鋭い声が弟くんを止めました。
「羊ドロボウと間違えられたら番犬をけしかけられて大変なことになる」
「ば、番犬?」
「そうだよ。ほら、あんな風にさ!」
お兄ちゃんに言われて、もう一度みると、土星のまわりをキラキラ光るものが右に左にうごきまわっていました。それは流れ星たちでした。流れ星たちはオレンジ色をした大きな星に追いかけられていました。
「あれはタイタン。土星の衛星さ」
お兄ちゃん流れ星の説明の合間にふたつ、三つの流れ星がタイタンに追いつかれてごなごなにふみつぶされてしまいました。
その光景に、弟流れ星はこわくてぶるぶる体がふるえてしまいました。
「そして、あれはエンケラドス。で、あっちがミマスだ。みんな土星の命令で近くによってきた流れ星たちをおいかけているよ」
お兄ちゃん流れ星は説明を続けました。
エンケラドスは白っぽい衛星でタイタンよりずっと小さいのですが、体じゅうからシュシュと水をふきだし、流れ星たちにあびせかけています。水をかけられた流れ星たちは光を失いそのままうごかなくなってしまいました。
そして、ミマス。エンケラドスよりさらに小さく、表面に大きな丸いくぼみがありました。
いなづまのようにジクザクにうごきながら流れ星たちをおいかけています。
ピカリッ!
突然、ミマスの丸いくぼみからまばゆい光の束ははきだされました。光の束にのみ込まれ流れ星たちはみな黒こげになってしまいます。
「うわーーん」
弟流れ星はほんとうにこわくなって大声をあげて必死ににげだしました。もう、駆けっこなんてしている場合ではありません。
「おおーい! そっちじゃないよ!
もどってこーーい!」
お兄ちゃん流れ星が慌てて追いかけました。
2022/01/02 初稿