演劇好きの空の王さま 天王星
「あれ、またなにか見えてきたよ!
あれも惑星なの?」
しばらくして、また弟くんが叫びました。
前方に薄緑色をした真ん丸いものが見えてきました。
「あれれ?」
弟くんはふしぎそうな声を上げました。
「なんか、あの惑星、横倒しになってない?」
よく見ると、縦にいくつもの筋が見えます。
「あれは天王星。空の王さまの惑星さ。
あの惑星は劇がすきで、いつも衛星たちに劇をやらせて、自分はそれを寝ころんでいるんだよ」
「劇を衛星にさせている……
えっと、衛星ってなーに?」
劇をさせている、という説明もよくわかりませんでしたが、とりあえず衛星という言葉を聞いてい見ることにしました。
「衛星っていうのは惑星の周りをまわっている星のことだよ」
「自分は太陽ってやつの周りをまわっているのに、その惑星の周りをまわっている星もあるの?」
なにかとても奇妙な感じがしました。
「そうだよ。惑星と衛星は主と召使いのような関係なのさ。
だから、召使いの衛星たちに劇をさせているんだ」
ラララララ~
突然、歌声が聞こえてきました。
「ほら、歌がきこえてきたろう。
あれは、天王星の衛星の一つ、アリエルだね」
わたしの愛しい 愛しい 王子さま~ どうして ふり向いてくれないの~
嵐の夜に 助けたのは わたし なのにぃ~
「ああ、どうやら今は、人魚姫の歌劇をやっているみたいだね」
「そうなんだ! ねぇ、ねぇ、面白そうだからぼくたちも見ていかない?」
「ダメ、ダメ! 天王星の劇は面白すぎて一度でも見ると、もう離れられなくなっちゃうんだよ。
ほら、あそこを見てみごらん。あんな風になってしまうぞ」
お兄ちゃんに言われてよく見ると、天王星のまわりにたくさんの流れ星たちがぐるぐるとまわって小さな輪っかをつくっていました。
「あいつらは、このまま劇が終わるまで見つづけることになるんだ。そして、天王星の劇はいつまでも終わらない。一つの劇が終わると、すぐ次のやつが始まるんだ。
だから、あの流れ星たちはもう二度と離れることができないのさ。
さあ、あんな連中は放っておいて、ぼくらは先にすすむんだ」
そういうとお兄ちゃん流れ星はぐいっと速度を上げました。弟流れ星はあわてて追いかけます。
追いかけながら、問いかけました。
「先って太陽にむかっているんだよね。でもなんでそんなに急がないといけないの?」
お兄ちゃん流れ星は、ふり返るとにやりと笑い、言いました。
「本当の目的地は太陽の先にある地球さ」
2022/01/02 初稿