怒りっぽい海の王さま 海王星
「ねえ、ねえ、ぼくたちが目指しているあの光の点はいったいなんなの?」
走りながら弟はお兄ちゃんにたずねました。
「太陽っていうんだ。
今はちっちゃな点に見えるけど、ものすごく大きい火の玉のようなものさ。それにとても熱いんだ。近づきすぎると溶けちゃうくらいにね!」
弟流れ星は、本当かなぁ、と心の中で思いました。なぜって、向かっている先にあるという太陽はちっちゃな点でしかなくて、手をかざしても寒々として熱いどころか温かくもなかったからです。ですが、ずんずんと先に進むお兄ちゃん流れ星に置いていかれないように弟流れ星はだまって走りつづけるのでした。
やがて、先へ行ってしまった他の流れ星たちに追いつこうと急いでいる二人の目の前に大きなまん丸いものが見えてきました。
「お兄ちゃん、あれはなに?」と弟流れ星は尋ねました。
「あれは惑星というものさ」
「わくせい?
僕たち、流れ星とはちがうの?」
弟流れ星は初めて聞く言葉を口の中でくりかえしました。
「ちがう、ちがう!
僕らよりずっと大きいんだよ。
でも、惑星は僕らのように自由に飛び回ることはできないのさ」
「えっ、自由にとびまわれないんだ?!」
弟流れ星は少し驚いたように叫びました。
「惑星はね、太陽の周りをぐるぐるとまわっているんだ」
「ぐるぐる、まわっている?」
「そうさ。同じところをぐるぐるまわっているんだ」
「へぇ、それでよく退屈にならないね」
自由にとびまわることができないと聞いて、弟流れ星は惑星を少しかわいそうにおもいました。
「あれは海王星。
太陽を回る惑星の中で一番外がわをまわっている惑星だよ」
「一番外がわ……
惑星ってあれ以外にもあるの?」
「あるある。たくさんあるよ。
海王星は海の王さまって意味なんだ」
「へぇ~」
海ってなんだろう、と思いながら、弟流れ星はどんどん大きくなってくる海王星を見つめました。
深い青色に輝く、まるで宝石のようにきれいな星でした。お兄ちゃん流れ星がいうようにものすごく大きいのが分かりました。
「あっ、危ない!」
吸い込まれるように海王星に近づこうとするのをお兄ちゃん流れ星に止められました。
「あんまり近づいちゃダメだ」
「えっ、なんで?」
「海の王さまはすごく気むずかし屋なんだ。
うっかり近づきすぎると怒った王さまが……」
お兄ちゃん流れ星が言い終わらないうちに、海王星の表面がぐぐぐっともり上がりはじめ、大きな人の上半身が現れました。
真っ青な肌に、長いアゴヒゲ。手には奇妙な形、先が三つに分かれた槍をもっていました。
あれが海の王さまなのか、と思う間もなく、王さまが槍をびゅっと投げました。
槍は雷のような早さで流れ星に突き刺さり、ごなごなに砕いてしまいました。兄弟流れ星よりもずっと先に進んでいた流れ星たちの一つです。弟くんのように海王星の美しさに誘われてふらふらと近づきすぎたのでしょう。
「ほうら! あんな風に槍を投げてくるんだ!!」
お兄ちゃんがすこしうれしそうに叫びました。
びゅっ!
また、王さまが槍を投げました。槍は外れることなく近づいていた流れ星の一つをまた打ち砕きました。
「さあ、今のうちに先を急ごう!」
槍を避けようと右に左に飛び交い、大さわぎする流れ星たちを横に見ながら、兄弟流れ星は先を急ぎました。
2022/01/02 初稿