胡蝶之夢
お兄様が帰った後、堪えていた眠気に襲われる。
まだ湯浴みをしていない。
寝具に着替えてもいない。
だけど、今日だけはいいよね。
お母様にこんなところを見られたら、はしたないと怒られそうだけど。
明日は誰にも会わないだろうし。
少しだけ罪悪感を感じながら、そのままベッドにゴロンと寝転んだ。
寝転んだまま机の方を見ると、まだ元気に炎は灯っていた。
一度、寝転んだら起きるのがしんどいのもあったが、せっかくの青い炎を消すのは勿体無い気がして消さないでおくことにする。
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いつも眩しすぎるほど灯りを付けていた。
だけど今日は、青い火に部屋の中がゆらゆらと照らされている。
こんなに暗い中で寝るのはいつ振りだろう。
1年振りだろうか。
“あの事”があってから私は暗闇が怖くなった。
けれど、大丈夫。
もう怖くない気がした。
明日からは真っ暗にして寝てみようかな。
部屋の中の僅かな光を反射し、左手の薬指の上でキラッと宝石が光る。
まるで、お兄様が近くにいるかのよう。
おやすみなさい、お兄様。
右手で左手を軽く包み込んだ。
お兄様が帰ってくるまでにプレゼントとかパーティーの計画をしておこう。
喜んで…ほしい…な……。
私は深い眠りについた。
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“ウス、ーーーっ!ーーーセウス!!!!”
?? なに? 誰かに呼ばれているような。
でもまだ眠い。もう少し寝させて・・・。
ムニャムニャ、あぁ良かった、うるさいのが無くなっ・・・
って冷たあああああああああああああああい!!
一体なんなの!?
ガバっと起き上がると、そこにはお父様とお母様の顔があった。
え、なに!?なんでお父様とお母様が!?
夢!?夢にしては、なんで、おでこが冷たいの?
というか凄い冷たいんだけど!!なにこれ!!
おでこに触れると、ピタッと張り付いた長方形の氷があった。
氷なら触ったら少しは溶けるはずなのに、溶ける気配も水が垂れることもない。
魔法?
益々頭の中が混乱する。
「セウス、すまない。起きたばかりで悪いが大切な話がある。」
お父様は真剣な眼差しを向けてくる。
「セウスちゃん、時間がないの。お願い。」
お母様は目を赤く腫らしていた。
「お父様・・・お母様も。どうしてここに・・・。これは夢?」