お別れ
第5部 "会いたい" を投稿し忘れていました。
ごめんなさいm(_ _)m
楽しい時間は過ぎるのが早くてびっくりする。
灯していた蝋燭はどれもドロドロに溶けていたが、それでも火が消えることはなかった。
部屋の中は今も青い炎に照らされている。
「分かった!眠かった時もあったけど、嬉しかったこととか楽しいことがあって目は覚めてたの。
お兄様も色々ありがとう。凄い嬉しかった。
今度は私がお兄様にプレゼントするから待っててね。」
お兄様は「…ありがとう。」と呟くと、私の頭を撫で撫でしてくれた。
1歳しか違わないはずなのにお兄様はなんでこんなに大人びて見えるのか。
そう思いながら私も立ち上がり、お兄様の帰る支度を手伝う。
お兄様が蝋燭を持って来るときに使っていた袋を畳む。
畳んでいる最中に食べ忘れていたマシュマロに気づいた。
「マシュマロはどうする…?なんだか今はお腹がいっぱいで…。」
今は、幸せでお腹がいっぱいになっていて喉を通る気がしなかった。
お兄様は、曲げた指を唇の下にあてて考える。
「僕は明日からお母様を迎えに出発するんだけど……。
向かってる最中の小腹が減った時にセウスが作ってくれたマシュマロを食べてもいい?
だから今、持ち帰ってもいいかな?」
私が作ったものをわざわざ持ち帰ってまで食べてくれるなんて、お兄様は本当に優しい人だなと思う。
「もちろん!じゃあお兄様からもらったマシュマロは、私も小腹が空いた時に食べる!
今度はマシュマロ焼こうね。また蝋燭パーティーしようね?」
お兄様はニコッと笑うだけで頷いてはくれなかった。
流石にお兄様も夜遅くまで私に付き合って疲れたのだろう。
少し残念な気持ちになったが私も正直、眠くて疲れたし、しょうがないのかなと思った。
それに魔法を使うと体力を消耗するとお父様が言っていた。
お兄様も、私に魔法を見せた時に体力を消耗したに違いない。
でも、こんなに素敵なパーティーをしてもらって何もお返しできないのが嫌だ。
蝋燭パーティーは無理でも、お兄様をすっごい喜ばせる別のパーティーを企画しよう!と意気込んだ。
どんなパーティーにしようかな。
何をプレゼントしようかな。
私が色々考えてるうちに、テキパキ動いていたお兄様の身支度が終わる。
いつの間にか、お兄様は私がさっき畳んだ袋とマシュマロを持って扉付近に立っていた。
「セウス、最後に暗闇が怖くならないように魔法をかけてあげる。こっちにおいで?」
そうだった、元々は私が暗闇が怖くならないように開かれたパーティーだった。
楽しいことがありすぎてついつい忘れていた。
両手を広げて柔らかく笑いかけてくるお兄様の近くに向かう。
私がお兄様の元へ向かうほんの短い間、お兄様は愛おしいものを見ているかのような目で私を見てきた。
3日ほど会えなくなるのが、そんなに寂しいのだろうか。
お兄様の目の前まで行くと案の定、ギュっと抱きしめられた。
金木犀のいい香り。
お兄様の温もりがほどよくて心地よい。
このまま眠ってしまいたいと思うほどまでに。
お兄様とギュっとしたのはいつ振りだろう。
お父様とお母様とは会う度にギュッとするけれどお兄様とはあまりしたことがない。
お兄様はギュッとするのは恥ずかしいみたいで、抱きつこうとしても断られたため、次第にしなくなっていた。
それなのにどうして?
私もお兄様と会えなくなるのは寂しいけれど、お兄様も寂しいと思ってくれてるの?
なんでギュッとしてきたの?
前に、お茶を飲んでいた時 ”触られるのは好きじゃない” って言ってなかったっけ?
今日は手も長いこと繋いでいてくれたし、やっぱり寂しいんだろうか?
自分から触れるのはいいってこと?どういうこと?
考えれば考えるほど訳が分からなくなる。
ーーーしばらくの間、ギュッとしていた。
ふと上を見上げると、お兄様と目が合った。
今までに見たことがないほどの温かい目をしていた。
お兄様が口を開く。
「暗闇が怖くなったら指輪を見て。僕のことを思い出して。セウスのことずっと守ってるから。」
お兄様のおかげで、暗闇は怖くなくなった気がした。
だけど、また怖くなる時があるかもしれない。
その時はお兄様がくれた指輪を見て今日のことを思い出そう、そう決心した。
「うん。分かった。もし怖くなったらお兄様のことを思い出して頑張るね。
人生で一番素敵な日だった。本当にありがとうお兄様。だーいすき。」
今日は色々あったけれど、本当に本当に幸せだった。
お兄様は私を慈しむようにジーッと見てきた。
「……セウス、僕も大好きだよ。」
そんな目をしないでほしい。
考えないようにしていた、お兄様に会えない期間を思うと、寂しい気持ちが溢れ出しそうになる。
寂しくて泣きたくなる。
お母様には会いたいけれど ”行かないで” って言いたくなる。
だけど今、私が ”寂しい、行かないで” なんて言ったら迷惑をかけるだけだから・・・。
そっと私の背中に触れていたお兄様の手を離す。
お兄様のことだ。
お母様と早く会わせようと、すぐ出発する気がした。
だから、今がお別れの挨拶の時かもしれない。
たった3日かもしれないけれど、せめて笑顔で送り出したい。
泣きそうになるのを堪えながら無理矢理、笑った。
「おやすみなさい、お兄様。気をつけて行ってきてね。」
離された手を名残惜しそうにしばらく見ていたお兄様だったが、手を握り締め何か決心したかのように言った。
「うん。おやすみ、セウス。行ってくるね。」
そう言ってお兄様は扉を開けて去って行った。