会いたい
お兄様が聞きたかったことは、このことかと思うと眠気が飛んだ。
「そ、それは、お兄様が私の部屋でお茶を飲んでいて、帰り際に手紙を落としたことがあったでしょ?一月くらい前に。」
「ああ、確かにあったね。」
私の言葉を一言一句聞き逃さないように、慎重にお兄様は頷く。
そんなに真剣に聞かれると、言うこっちまで緊張してくる。
フっと息を吐いて少し気持ちを落ち着けてから言葉を発した。
「その手紙に書いてあった宛名が見えたの。」
「あっ・・・!」
お兄様は、あの時か!と思い出したようだ。
「 ”有名な氷魔法の使い手 リオン様の一人息子 ネイト・ケフェウス様へ” って見えたの。
それに封蝋の色と形がここから凄い遠いアークトゥルス地方で使われているものだった。」
リオンというのは私の母の名前だ。
もう2年は会えていない。
会えない期間、寂しさを感じていたが手紙の宛先を見て、お母様は遠いアークトゥルス地方でも名を馳せていることを知って嬉しかった。
なぜアークトゥルス地方か分かったかというと、お兄様が私の5歳の誕生日にくれた封蝋図鑑が好きで何回も読んでいた為、内容を全て暗記していたからだ。
特に、封蝋に色とスタンプの形が定められているのは地方だけ。
オレンジ色で麦の模様のスタンプが押されているのはアークトゥルス地方だとすぐ分かった。
私が住んでいる三大都市と呼ばれるところは爵位や職業、手紙の重要度によって色と形が変わる。
それに比べ、地方の封蝋はとても分かりやすいのだ。
全てを理解したお兄様は少し困った顔をしながら微笑んだ。
「答えてくれてありがとう、セウス。」
「全然大丈夫。お兄様もたくさん質問していいんだからね。」
そう私が伝えると微笑んだまま、「じゃあもう1つ質問するね。」と言ってきた。
質問してくれるのが嬉しくなって大きく頷く。
「お母様のことは好き?お母様に会いたい?」
ーーー???
なんで今更、当たり前のことを聞くのか疑問に思ったが素直に答える。
「大好き。会いたいに決まってるでしょ。随分と会えていないんだから。」
「同じ言葉、もう1回だけ言って?」
再び、眠くなってきて思考力が鈍っていたことある。
お兄様の意図が掴めなかったが、お兄様に言われた通りもう一度言うことにした。
「お母様に会いたい。」