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さくせんかいぎ

爆速でやられたのでやり返そうとしてはや数時間経ってた

『ん……?』

「どうしたの、アンナ?」

『いや、どこからか間抜けな叫び声が聞こえてきたような……気のせいか』

「ふーん。それよりも、これからどうするの?」


ノーナは渡された空き部屋の机に座りアンナと話していた。その手元にはまっさらなノートと初めて使う万年筆。どちらも私をここに連れてきてくれた男性、カイと名乗ったこの屋敷の主が用意してくれたものだ。

食事を終えた二人はアンナの提案により今後の動きについての話、そう「作戦会議」を行っていた。

その初めて聞くカッコいい響きにノーナは目を輝かせ、どこか楽しそうにしている。


『ああ、ごめんごめん。それで作戦会議だったわね。とは言っても、今できることは待機することぐらいかしらね』

「えー……」

『こらそこ、あからさまに落ち込まない。だってしょうがないじゃない、化け物がいないんだから。むしろ平和で良いことだわ』

「そっか………………あのさ、一つ聞いていい?」

『ん、なあに?』

「結局あの化け物なんだったの? 何か知っているようだったけど……」

その一言にアンナは何も返答しなかった。


昨夜、彼女に会ってから今までの約半日。

ずっとアンナと一緒にいたのに、私はまだ彼女のことを全く分かっていない。


「ねえ、教えてよ。そういえばお風呂でいろいろ質問させてって言ったのに結局アンナの名前しか聞いてなかったじゃない! ねえ、あなたはいったい何者なの? どうして私を選んだの? なんであの化け物と戦うの? あなたの目的は何なの?」

『ちぇ、覚えていたかー。てっきり忘れていたのかと思――』

「はぐらかさないで」


私ははっきりとした口調で言い返す。

アンナが困っているという意識は私の思考の中にちゃんと伝わってきている。

だからこそ今のうちに聞いておきたい。知っておきたい。

何で黙っているのか、なんで隠そうとするのか、なんで話してくれないのか。


「お願い、ちゃんと全部話して」

しっかり心から話せばわかってくれる。お互いがお互いを信頼するためにも、隠し事は無くしたい。



しかし返ってきた答えはその期待を裏切った。

『ごめん、それは出来ない』


その短く、冷たい言葉につい泣きそうになる。

私は彼女を信頼していても、まだ彼女は私を信頼していな――


『違う違う、そうじゃない! 私はノーナを心から信頼している! 勝手に決めつけて勝手にまた落ち込まないで!』


頭の中で私の考えに対するアンナの反論が響く。


「じゃあどういうことなの!? 何で教えてくれないの?」

『それはさー、そのー……』

アンナはきまり悪そうに言葉を探す。

『なんていうか、まだ“その時”じゃないの』

「“その時”じゃない……?」

『うん。本当のことを言うと、私にもわからないことだらけなの。なんでこんなふうに意識だけで生きているのか、私はいったい何者なのかって。何となくの予想はつくけど』

「じゃあ、その予想を話してよ」

『だからそれは出来ないの! その予想が正しい言える確証が無い以上、それは結局仮説の域から出ることは決して! 例えば推理小説とかで、探偵が予想だけをベラベラ喋って、その結果答えが全く違うものだった時、“はい、すみません。間違えました、テヘ”じゃ済まないでしょ? 私が今抱えているこの悩みはそういうものなのよ!』


感情が高まりすぎてついアンナの語勢が強くなる。

言い終えてからアンナはハッと冷静になった。

しまった、やってしまった。

ノーナは目を伏せ、何も書かれてないノートの前の虚空を眺めていた。


『あのっ、ごめんノーナ……その――』

「ごめんなさい。私、小説とか読んだこと無いから良く分からない……」


ノーナがそう答えると、ノーナの頭の中にアンナがズッコケるような感覚が聞こえた。


『……ノーナ、私あなたのことを私よりお馬鹿って言ったわよね』

「えっ、うん!」

『やっぱ訂正、あなたは“お馬鹿”よりも“天然”って言葉の方が良く似合うわ』

「天然?」

『覚えておかなくていいわよ。遠い未来に生きていたらあなたはそう呼ばれたでしょうね……ってそうじゃなくて! あー、もういいわ。なんか気が抜けた。』


アンナは深くため息を吐き言葉を続ける。


『とりあえず! 今はまだ言えない。でも、いつか必ず全部教える! それでいい!?』

「本当?」

『本当!』

「絶対に絶対よ?」

『ええ! 絶対に絶対にぜぇ~~~ったいに!』

「約束だからね!」

『もっちろん! 私、約束だけは破ったことないもの!』


そう言うと、ノーナはスッキリしたのか少し笑った。それにつられてアンナも笑ってしまう。

ノーナは目の前の『さくせんかいぎ』とだけ書かれたノートに万年筆を当てる。

慣れない手つきで、歪な文字がそこに掛かれる。


『もう、わざわざ書かなくてもいいのに』

「だってさくせんかいぎで初めて決めたことだもの!」

『はいはい、わかったわ』


アンナが優しく見守るその先には

「ともだちとのやくそく」

そう短く書かれていた。


「それで、他に書いておくことは無いかしら!」

初めて使う万年筆を心の底から楽しむノーナ。

『そうね……あ、じゃあ出来たらこの力の特訓できる場所を見つけたいわね』

「わかったわ!」


次に書かれたのは「とっくんばしょ」。


『それから、ずっとここに居座るのも申し訳ないし。ちゃんとした拠点も探さないといけないかも。なんだ、考えればたくさんあるじゃない!』

「えっと、次は拠点ね!」


そしてその下に「ひみつきち」。


「それなら、一人でも生活できるようにお料理も練習したいわ!」

『いいね! 書いちゃえ書いちゃえ!』


次第に二人は盛り上がり、現状では全く必要ないことまで書き記していった。

それから三十分後、ノートの最初のページはミミズのように歪んだ文字で全て埋め尽くされた。


「これ全部叶えましょうね!」

『うん……頑張ろうね…………………………調子に乗っちゃったったな』


ノーナは笑顔で心の底から喜んでいるが、冷静になったアンナはその笑顔に答えつつ、自分の“テンションが上がったらやりすぎる”という癖を理解しこっそりと反省していた。


「ふぅ……ふわあ……」

やるべきことを終えて満足したのかノーナの口から大きなあくびが零れる。


『そういえばノーナ昨日の夜から寝てないんじゃない? ワタシが身体を借りたりして置いて言うのもなんだけど、そろそろ一休みしたら』

「いいえ、まだ大丈夫。お父さんに水をかけられて外に放り出されたときは一睡もしたことないもの」

ノーナは眠そうに目元を擦りながら親指を立てる。

『いや、寝なさい』

が、それに対してアンナは厳しく突っぱねた。


そう言われて渋々ノーナは同じ部屋にある大きなベッドへ向かう。

しかし“まだ眠くないのに”そう思っていた感情はベッドに横になると、一気に吹き飛んだ。

そのベッドは雲のようにフワフワと柔らかく暖かい。一度横になると、その者を自然に眠りの世界へ誘う優しい睡魔が現れるほどの代物。

「うわぁ……凄い……こんなの初めて……」

『なんて強い力なの……ノーナが寝た後こっそり身体を借りて私も美味しいご飯をせがもうと思ってたのに……これじゃあ……すぅ……すぅ……』

「もう……そんなこと……考え…………くぅ……くぅ……」




部屋の中は寝息だけが響く。


数分後、少女の様子を見に来たゲルダは少女が寝ているのを確認すると、優しく毛布を掛け何も言わず部屋の照明を消して部屋を後にした。






「……ちょっとゲルダさん? これは何でしょうか?」

「“何でしょうか?”と申されましても……栄養ジュースですが」


カイに差し出されたものは緑色をしたおどろおどろしい液体。

それがビールジョッキになみなみと注がれていた。

中身は野菜や薬草などを磨り潰した汁がふんだんに使用されたドリンク。聞かなくても分かる、カイは以前も飲まされたことがあった。


「いや、これだいぶ前に飲まされてその後ゲーゲー吐くほどマズかったヤツじゃん! もう金輪際! 絶対! 二度と! 永遠に! 永久に作るなって言ったよねぇ!?」

「ですがそうやってゲーゲー吐いた後、一晩ぐっすり眠れば翌朝元気になっていましたよね? その時“うわ……あのジュース凄ぇ……”って言ったこともお忘れですか?」

「くッ! 確かにそうだけども……いいか俺は絶対に飲まないからな!」

「そうですか……………………」


ゲルダは表情に出さないが、明らかに落ち込んでため息を吐きながら部屋を退室。


いや、分かっている。そうやって同情を誘おうとして飲ませる魂胆だろう?

まさかゲルダがそんな手段をとるとは思わなかったがそうは乗らないぞ………。

……。

…………。


……………………。

だが、そこに置かれたドリンクの量。これほどの量を作るのにも多くの手間や力量が掛かったはずだ……それを無下にしていいものだろうか……?


その緑の、ドリンクとも言いたくない液体にもう一度目をやる。

その液体からはなにやら異臭のようなのも感じ、明らかに自分を殺しにかかっているのも見えた。

しかし、俺は風呂上がりで喉が渇いているのも事実。

液体が入った目の前のジョッキには結露が生まれ始めている。つまり、まだキンキンに冷えている状態。

唾を飲み込む。飲みたい。いや、だが飲むと死ぬぞ。それでいいのか俺! いやよくない、俺はまだ生きたい!

頭の中でそんな葛藤が生まれる。


が、決着は意外に早く決まった。


『うるせぇ喉乾いた!』


そんな喉の叫び声が聞こえた。

カイ自身は気づいてなかったがその両目からは涙が零れていた。


「う゛お゛お゛おぉぉぉぉ! ち゛ぐしょょおおぉぉぉぉ!」

「あそーれいっき、いっき、いっき、いっき」


どこからともなくやってきたゲルダも手拍子を始めて応援する。

彼女の表情はどことなく誇らしげだった。


「うおおおおぉぉぉぉぉ!」


屋敷の中に、今度はカイの悲鳴が広がる。

前回の後書きの感想

めっちゃわかる。それで相手が書くときに回収するようにぶん投げるのとかも楽しい(屑)


良い子も悪い子も真似しないでね

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