能力:炎
クロスオーバーというか同じ世界線でできている話とか好きなんですよね
だからスピンオフ作品とかも好き
察してくれて感謝しかない
「そっか、そんなことがあったんだ」
そう感嘆の息を漏らしながら湯船の中で脚を伸ばすワタシ、
――ノーナの身体を借りたアンナの姿がそこにあった。
『うん、私自身も良く分かってないのだけど……あの瞬間、“アンナを助けたい”って思ったら手から……』
ノーナはあの時のことを鮮明に思い出しながらアンナに告げる。
老婆の姿をしたソレが操る猛火はアンナを苦しめた。“炎を消す力”、それをもってしても敵わない圧倒的な力をみせられ勝機は完全に消え失せたと思われたその時。
気づけば、ノーナの指先から炎が燃え盛っていた。
アンナが意識を失う直前に目を覚ましたノーナ。今、何が起きているのかはっきりと理解することは出来なかった。だが私の身体を使っている彼女の命が危険にさらされていることだけはすぐに伝わってきた。アンナの無茶な行動に対する怒り、そしてアンナを助けたいという願い。アンナが意識を失い身体の主導権がノーナに返ってきた瞬間、その二つの想いが混ざり合い、あの能力が発現した。
うねる波のように沸き立つ熱い血液が全身に駆け巡り、それが自分の感情と一体となり火炎に変換され指先からほとばしる。
あの時放たれた火炎は瞬間的にだがソレの炎を上回っていた。
アンナも意識を失いつつ、その熱を感じていた。
自分の身を焦がし、苦しみで焼きつくす地獄の業火の熱とはまた別の熱。
ソレの炎よりも強いが、温もりと懐かしさを感じさせる暖かい熱。
“炎を出す力”
厳密にはこれもまた違うのかもしれない。ソレが放った炎を“跳ね返す力”だけかもしれない。
だが、理解は出来なくてもいい。
「いまこの力を使って大切な人を救うことが出来る」
ただそれだけで十分だった。
――だが、今は違う。
『あのさ、これってもしかして……』
ノーナの声が震えている。
当然だ。あの時は状況が状況だった。
だからあの能力が発現したことに何の恐怖も持たず、ただ無意識に力を奮っていた。
だが、一度冷静になれば見方は変わる。
自分は“普通の人間”じゃ無くなったのだ。
“父親に酷く虐げられ、お金のために街中でマッチを売るただの少女”から“火炎を操り、もし力の使い方を誤れば人を殺せるかもしれない化け物”になってしまったのだ。
それに恐怖しないものなどいない。発狂しないものなどいない。
ワタシは一度死んだと思っていた。でも、なぜか今こうやって意識がある。
そんな不思議な経験を一度しているから“炎を消す力”が発現しても少し驚いただけだった。
だけど、普通の人間にそれは難しい。
アンナは口を噤み、身体を縮こませながら肩まで湯船に浸かった。
だけど、ノーナから発された言葉はもっと単純なものだった。
『やっぱり運命なのかしら!』
「はぁ?」
予想だにしてなかった発言につい呆気にとられる。
『だってだって、私とあなたの名前、“ノーナ”と“アンナ”。さっき教えてもらったときに似ていて不思議だなって思ったの。でもそれだけじゃなくてアンナが使えた“炎を消す力”それと私が使えた“炎を出す力”。この二つの力を持つ人間が出会うなんて偶然じゃ考えられない! もしかして神様の思し召しだったりして! ……って、どうしたのそんなに笑って?』
「え? フフッ、わたし……笑ってた? ごめん、ついうっかり……くくくく」
「あ、また笑った!」
ノーナに言われてアンナは自分が大きな声を出して笑っていたことに気づいた。
よかった、杞憂だった。
「全てを知りすぎている人より、何も知らない人の方が人生を楽しく過ごせる」って話を昔聞いたことがある。
もしかしたら本当にそうなのかも知らないなと、私はその時初めて実感した。
「私のことを“馬鹿”って言ってたけど、ノーナの方がよっぽどお馬鹿かもしれないね」
『もう! なによそれ!』
「あはは、いや冗談冗談!」
風呂場の中で自分の声が反響する。
一人分の声が幾重にも重なり、それはまるで二人分の笑い声のようにも聞こえた。
ここまで大声を出して笑ったのも久しぶりかもしれない。
もう数十分、久々のお風呂を堪能した後、ノーナに体の主導権を返して二人はお風呂から上がった。ノーナは他にも質問したいことがあったのかもしれないが、すっかり忘れていてくれたらしくアンナは内心助かっていた。
風呂場の前で待っていたゲルダは中に入ると、身体を洗ってくれた時のようにまたも手際よくタオルで身体を拭き、長い髪にドライヤーをかけて乾かし、着替えを着せてくれた。
「あの……ゲルダさん、この服……」
受けとった服はとても可愛らしいピンクのエプロンドレス。胸にはリボンが付いており、袖口やスカートの裾にはフリルがいくつも付いている。まるでお人形や貴族のお嬢様が着るようなその服を着ていることに嬉しくてついそわそわしてしまう。
「気に入りませんでしたか? でしたら、他にもいろいろありますが……」
「いえ、とても気に入りました! ありがとうございます! こんな可愛い服初めて着たので少し緊張してしまって……」
そう答えると、ゲルダは少し口元を綻ばせたように見えた。
「良かったです」
そうしてゲルダに連れられ、空き部屋へ。
「どうぞ、今日はこちらの部屋をご利用ください」
中に入ると部屋の掃除を終えたカイがノートや万年筆などの生活するうえで必要なモノを用意して待ってくれていたが、ノーナとアンナはまずその部屋の広さに驚愕していた。
“空き部屋”と聞いて最初は物置や屋根裏などを考えていたのだが、部屋は暖かな光で照らされた煌びやかな洋室だった。天井には小さなシャンデリアのような照明が下がっており、壁には美術館に展示されているような絵画が飾っている。家具も、私の背丈よりも大きなクローゼットや寝返りを何回打っても落ちないような広いベッドなど、凄すぎて気が遠くなるようなものばかりだった。
「凄い……私の家がすっぽり収まりそう……」
『お金持ち怖い……』
呆然と立ち尽くすノーナの前にニコニコとした表情のカイが近づく。
「やあ、お風呂はどうだった? その恰好とても似合っているよ。実はゲルダ裁縫が得意でね、いつも洋服を作るんだけど着せる相手がいなくて――」
カイがすべて言い終える前にゲルダは彼の言葉を遮る。
「余計なことは言わなくて結構です。それよりもこれからどうなさいますか? 先にお休みになられるのでしたらそれでも結構ですし、もしお腹が空いているのでしたらお食事でもいかがですか?」
「あ、ええと……」
ぐううううぅぅぅぅ~……
答えようと同時にノーナのお腹の音が弱弱しく返事する。
反射的にお腹を押さえるがもう遅い。お腹は既に鳴き終え、身体が「お腹が空いている」ということを訴えていた。
顔が熱くなる。
『可愛いお腹の音ね』
そんなアンナの茶化す声が頭の中に響いてきた。
カイはおもわず吹き出し、大きな声で笑いだす。
そんな笑い声を聞いて余計に気恥ずかしくなる。
今なら顔から火が出せるかもしれないと思うほどノーナの顔は真っ赤になっていた。
そんなノーナの様子を見てゲルダは笑い過ぎているカイの頭をはたき、表情を崩さず口を開いた。
「では、お食事にしましょうか」
不思議な能力が得られるなら「瞬時にサブタイトルが思いつく」って能力が欲しい