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どういうことだってばよ・・・・・・主人公より先に別キャラの名前出てきちまったぞ・・・・・・


「元居た場所に帰してきなさい。」


正座をして、蛇ににらまれた蛙のように縮こまっているこの男性は、言ってしまえば私の命の恩人である。家に帰ればまたなにをされるのか分からなかったので、正直帰りたくはなかった。そこに声をかけてくれたこの男の人には感謝している。できることなら力になってあげたい。けれども蛙が蛇ににらまれている理由がまさにその、私を拾ってきてしまったがためなのだからこちらも居心地が悪い。


「いやでも、家が無くて困ってたみたいだったから・・・その・・・・・・」


「でもじゃありません。そうやって哀れな子供を一度拾ってしまうと、また次々と見つけてきては拾って帰ってくるでしょう。」


蛇、もといメイドのゲルダさんはそう捲し立てる。


『なに、私のこと捨て猫かなにかかと思ってるの?』


「実際、この人もそれくらいの感覚で声かけてきたんじゃないかな・・・」


ワタシと話していると、頭からつま先までジロジロとゲルダさんが睨みつけてきた。特に服のほつれたとこなんかを見られて少し恥ずかしい。そりゃ、こんなお屋敷には似つかわしくない貧相な身なりかもしれないけど。


「あの、なにか・・・?」


「・・・・・・はぁ、あまりにもみすぼらしいのでつい見てしまいました。仮にも主人の招いた客人です。その様子だと、昨夜から碌に休んでもいないのでしょう。風呂場と空き部屋を用意します。今日は一度お休みください。」


「さっすがゲルダ!わかってくれると信じてたよ。」


やや棘のある言葉とあっけらかんとした言葉の二つに挟まれつつも、こんな立派な屋敷のお風呂に入れると聞き、つい頬が緩んでしまう。その上寝床まで。普段なら萎縮して、こんな豪邸はとても恐れ多いと思う私だが、今日に限っては疲労が勝る。ワタシの方も疲れているのか、口数が少ない。


「きっと勝手がわからないだろうし、ゲルダが案内してお風呂に入れてやって。なんなら身体も洗ってあげてよ。」


「それだと空き部屋を・・・・・・」


「そっちは僕がやっておくからさ。それとも逆にする?まぁ拾ってきたのは僕な訳だけど見知らぬ少女と出会って一時間もしないうちにお風呂ってのは流石に・・・・・・」


「そうなれば警吏を呼んでこの子を保護してもらい、無事問題は解決するかと。」


「僕が捕まっちゃうじゃない!まぁ、だからさ、頼むよお風呂。」


「・・・・・・かしこまりました。」


よくこんなに絶え間なく会話できるなぁなどと感心しているうちに、どうやら話がまとまったらしい。ゲルダさんは不服そうに返事をすると、私をお風呂場まで案内して私の服を脱がせて、テキパキと全身を洗ってくれた。メイド服のまま、ロングスカートで膝を折ったりしたのにどこも濡れていない。ここまでほとんどしゃべらなかったワタシが


『この人、ナニモノ・・・?』


とつぶやくほどに手際よく完璧に洗ってくれた。


「着替え等を準備して、ドアの前で待機しておりますので、お風呂から上がったらお声掛けください。」


最後にそう言い残してお風呂場から去っていくゲルダさんの完璧なメイドっぷりにはため息が出そうなくらい板についていた。正直、主人をタコ殴りにするような人と二人っきりにされてどうなるのかと内心ひやひやしていた。なんなら案内するふりをしてそのまま裏口から追い出されるかもしれないとまで思っていた自分が恥ずかしい。


『はぁ~、脚を伸ばしてお湯につかれるだなんて、思ってもみなかったわ。』


「さっきまで大人しかったのに、急にどうしたの。」


『人と話してる時に私が割り込んでたら、混乱しちゃうでしょ?だからあえて黙ってたの。』


「そういうことか。」


まぁ確かに、道で歩いてるときにいちいち返事してたせいで変に思われただろうし、その方がありがたい。それにしても


「お風呂、か。」


一人ごちる私の声だけ反響していく。






「それで、あの子はなんですか、カイ。」


着替えとタオルを風呂場にもっていく途中、いかにもと待ち構えていた男、カイに話しかける。


「言っただろ。拾ったって。ゲルダの目にはどう映った?」


「そんなの・・・・・・」


はじめは少女の格好にばかり目が行っていたが、服の隙間から見えた殴打の跡。まさかとは思ったが身体を洗い、裸を見たならわかるだろう。そう思いゲルダにわざわざ身体を洗わせて、確信を得た。


「明らかに虐待されていたのが伺えます。服で隠れる部分はきれいでしたが、服の下はあちこちに痣だらけでした。」


「ああ、僕があの子に気が付いたのは酔いつぶれて寝てた時に、遠くで泣き声が聞こえてきたからなんだ。」


「酔いつぶれていた?」


一瞬にして表情の険しさの質が変わるのを感じつつも、咳払いでごまかす。


「あんな10才かそこらの子供を、あそこまで惨い仕打ちにするような親だ。身なりもボロボロだったし、あんな早朝に一人で泣いていたんだ。放っておける訳がない。」


それに、気になることが無いわけでもない。昨日はそこそこ雪が降っていた筈なのに、彼女の居たあたりはなぜか雪がなかった。それどころか地面が燻っていた。けれども見た限りでは近くで火事が起こっていたようには見えない。せいぜい、近場の家にちょっとした焦げ跡があったくらいで、とても雪を溶かしきるような火の跡は見当たらなかった。そしてそこにススだらけの少女。しかし火傷している風には見えなかった。


「なにか、気になることでも?」


「いや、何でもない。まぁ泣いていたといっても悲観して泣いてたわけじゃなさそうだったし、もしなにかあるならすぐにわかることさ。」


「そうやってはぐらかすのは、悪い癖です。」


ため息をつきながら、少し不安そうな様子でうなずくゲルダ。いつもはキリっとしていて弱みなんか見せないメイドなのに、時々こういう幼馴染の顔をするからズルい。本当、なんでメイドなんて立場に収まってしまったのかな・・・・・・。






『お風呂、か。じゃないわよ!なに一人で余韻に浸ってるの。勝手に自分の世界作っちゃわないでよね!!というかあんた、少し身体変わりなさいよ。私もお風呂でのびーってしたいの!』


「人がせっかくのんびりしてるのに急に頭の中で叫ばないでよぉ。というか、さっきまで勝手に私の身体の主導権ぽんぽん入れ替えてたけど、今はできないんだ。」


『そりゃ、あんたの意識がハッキリしてるからよ。所詮私はあとから入ってきた異物ってことね。だからあんたがその気になってくれないと、私は自由に動けないの!ほら変わって!』


「あーもうわかった、わかったから。でもその代わりに色々質問に答えて。」


ギクリとした。もちろん私がではなくワタシの方だが。


『まぁ、聞きたいことはいろいろあるのでしょうけど、私に答えられることなんてあまりないわよ?というか、私の意識が飛んでいる間に何があったの。あの時ワタシが相対してたアレは・・・・・・』


「名前!」


『へ?』


「あなたの名前を聞いてなかったでしょ?だから。」


『あ、えっと。その・・・・・・。私は、私の名前はアンナって言うの。』


「よろしく、アンナ!私はノーナよ。改めてよろしくね。」


なんだか不思議。名前まで似ているなんて。でも、これでようやくスッキリした。アンナ、ワタシはアンナっていうのね。でもなんでだろう、アンナはなんかモヤモヤしてる?


『いや、あんたもうちょっとほかに聞くことなかったわけ?』


「へ?」


『いや、なんでもないわ。それじゃのんびりと、浸からせてもらうわね。』


立ち眩みするような、鼻の奥がジンとするような感覚がして入れ替わる。


「はーっ!お風呂かぁ。」


『結局あなたも言うんじゃない!』


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