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9話 ようこそ夢の世界へ(7) 〜非常事態〜

「少年、あなたは一体何者なんデースか、、、!」


 外国人女性の反応に、泡沫もすべてを察したようだ。ハッと俺の方に目をやり、憤怒の形相で俺の襟首をガシッと掴む。


「―――古都テメェッッ! おまっ、もしかして俺を騙したのか!?」


「だから“悪いな”、と言ったんだ。泡沫、騙したのは事実で君が騙されたのも現実だ。でも、俺にはこうまでしてでも知りたいことがあったんだよ」


 俺はギューッと焦った表情で俺の首を掴む泡沫の手を振りほどき、外国人女性の方へと一歩近づいた。決して漏らしてはいけないのであろう機密を詐欺まがいの嘘で引き出し、泡沫を利用したのは悪いと思っている。

 それでも、俺の中での優先順位の第一は、この謎の施設の名前が書かれた紙を小鳥が所持していた理由―――そして、小鳥とこの睡眠医療センターに何の関係があるのかを知ることだから。


「……俺が何者かの前に、教えて下さい。ここは一体何をする施設なんですか」


「それは答えられまセーン。あなたが部外者である限り、ここの情報を漏らすわけにはいかないのデース。……えぇ、ここまで入り込んだのは驚きマーシた。少年、君が何者なのかも私は興味ありマス。……でも、私の口から機密が漏れることは、天地がひっくり返っても有り得まセンッ!」


 俺の質問に、女性はきっぱりと首を横に振った。流石は大人、流石はこんなよくわからない組織に属しているだけはある。侵入者、という未曾有の事態にも冷静になるのが早い。


 だが、そっちに隠したいことがあるように、俺にも知りたいことがある。そして、俺は“どんな手を使っても”、それを知らなければならないのだ。小鳥を救うためなら、手段なんて選ばない―――!


「―――そこまで言うなら、、」


 俺は向こうが情報の提供を頑なに拒む姿勢をとったときのために準備してきたポケットの中の小刀にスッと手を伸ばした。相手は研究者だ。一人くらいなら人質にも取れるだろう......


 だが、


「―――僕の部下を人質に取ろうというのはやめてくれないかな、古都響介コト キョウスケくん」


「……どうして、俺の名前を、、」


 俺はその声にピクッと動きを止め、声のした方に視線をやった。俺と泡沫が入ってきた扉に背を向けた状態で、左手奥からカツンカツンと聞こえてくる足音。そこにいたのはひょろっとした白衣の男だった。言い方は悪いが、The研究者といった感じで見た目は強そうではない。だが、ニコリと笑ってクイッとメガネを押し上げるその様からはそんな見た目以上の威圧感を覚えた。そして、その隣にいたのは、


「古都くん!? あなた、私が警告したのに、、馬鹿なのかしら?」


 遠海トオミさんが信じられない、と唖然とした目で俺を見ていた。まぁ、つい数日前に「死ぬわよ?」と忠告した相手がまたのこのこ現れたのだから、その光景を信じられないと思うのは当然か。


 そんな若干引いている遠海さんに、泡沫が「ちょっと待てっ!」と詰め寄る。


咲乃サキノちゃん、もしかして古都くんと知り合いなのか!?」


「……偶然同じ電車に乗り合わせて、偶然ここまでついてこられたのを知り合いと呼ぶのならそうかもしれないわね。でも、そういう泡沫くんはどうなのかしら? 古都くんがここに入ってこれたのは、もしかして―――」


「……グッ、、すまねぇ。班長チーフもすみません。俺、古都くんに助っ人だって言われて信じちゃって、、」


 悔しそうに唇を噛み締めながら俺をキッと睨みつけ、泡沫は班長チーフと呼ばれた白衣の男に頭を下げた。白衣の男はそんな泡沫に、


「起きてしまったことは仕方ないよ。バレてしまった記憶を消すすべはないのだし、君がそれ以上背負い込むことはない」


「……すんません、マジすいません、、、」


 泡沫はだいぶ反省しているようだ。俺のせいでもあるので少し罪悪感は覚えるが、それでもここまで利用した以上何も得られませんでしたじゃすまない。俺はその白衣の男の視線に注意しながら、また小刀に手を伸ばした。だが、


「―――言ったよね? やめてくれないか、と」


 ギロッと、笑顔の裏の冷たい瞳がまるで小刀に伸びた俺の手をグルグルと縛り付けるように、ピタッとその動きを止めた。やはり、その全てを見透かすような瞳は俺の動きを制限してくる。よくプレッシャーとか威圧感で動けなくなるというシーンがあるが、それを俺は今身を持って実感していた。体が恐怖を感じ、本当に動かなかった。


「……やめてくれたようだね、嬉しいよ」


「何が、です。無理やりやめさせたくせに、、」


 泡沫のような単純なやつとは違い、この人は食えない。騙そうとすれば、言葉を持って挑めば間違いなく返り討ちにされるタイプだ。気がついたら相手の手中に乗ってしまっている、そんな策士。


「話をしにきたんだろ? 古都響介くん。それなら、そうしよう。君が隠し持っている小刀、コッチに渡してくれないかな」


「……渡したら俺の質問に答えてくれますか?」


「一考しよう。あぁ、そう言えば君に拒否権はないからね? 君はまだ理解していないだろうけど、これほど巨大な組織の末端とは言え深部に触れたんだ。君が日常に戻ることはないからあしからず、ね?」


「……なるほど、話すのはこれからの俺の処遇について、ですか」


 俺は自由になった指先で小刀をつまみ、カランと床に投げ捨てた。悔しいが、この数の差では勝ち目がない。俺が肉体派ならば別だろうが、残念ながら一般のオタク一人でこの数を相手にするのは......無理だ。それなら、武器を捨てて話し合いをするしかない。


「よろしい。じゃあまず自己紹介かな。僕はこの睡眠医療センター、、いやもう君には最低限のことは明かそうか。夢導協会ムドウキョウカイの東京第二支部。ここで班長チーフをしている、相楽サガラです」


「……夢導協会、? 聞いたことがない名前、ですね」


「そうだろうね。君のような無茶な子以外は触れることがない......それが平和な組織だからね」


 白衣の男、もとい相楽さんは俺に何やら含みのある笑みを向け、そう言った。


「で、咲乃ちゃんとハルくんは君の学校の同級生だろう? そこの自己紹介は省くとして、こっちが、、」


「ハーイ、少年。私は“クリスティーナ・ブラッドウッド”、デース♪ クリスって呼んでくだサーイ!」


 外国人女性、改めクリスは軽く俺に手を振り、そう名乗った。


「クリスティーナ......まさかこの病院の由来って、、」


「……気づく、よね。いやぁ、僕も反対はしたんだよ。元々“睡眠医療センター”って名前さえ残っていれば他は何付け足しても良いって決まりだったのはそうなんだ。なのに、そこにこのクリスがあろうことか自分の名前をつけちゃってねぇ、、」


 あっはっはー、と軽く笑うクリスの隣で、今でも引きずっているのかわかりやすく頭を抱えている相楽さん。まだ出会ったばかりなのに、この人達がどんな人達なのか分かる気がした。ろくでもないのは確かだが。


「で、さっそく本題に入ろうか。古都響介くん。選択肢は無いって言ったけど、今の君には今二つの未来がある。一つは秘密を抱えてここで死ぬこと。もう一つは、僕たちの共犯者になること」


「……共犯者、ですか?」


「うん、そうだよ。僕たち夢導協会東京第二支部のスタッフとして働いてもらう。今うちは深刻な人手不足でね、雑用係でも正直助かるんだよ〜。君が正式にここの関係者になれば、ハルくんの失態も関係なくなるし、僕らも秘密を知る君を管理下における。……さぁ、どっちを選ぶかな?」


 そう言って相楽さんはニコニコと笑った。本当に食えない人だ。性格が悪いと言うか、俺の出方を理解しているくせに手のひらで転がし、楽しんでいる。


「……それ、結局一択じゃないですか」


「そうかな? ここで秘密を背負って死んでくれるのもありだよ?」


「俺の“一択”って単語に対して前者を引き合いに出す辺り、やっぱそうじゃないですか」


 俺はため息をつく。俺に取れる選択肢なんて後者しかなかった。この夢導協会......と言われてもまだ何のことやらさっぱりだが、この施設で働くしかない。


 だが、ポジティブに考えればこれは好機だ。相楽さんやクリスから情報を聞き出せればいいと考えていたが、俺がこの内部の人間になれるのなら、そんなことをしなくても堂々と小鳥を救う手立てを探すことが出来るかもしれない。

 もしもこの“夢導協会”とやらが睡眠に関することを実験する非合法組織とかなら、眠り続ける小鳥の目を覚まさせる手段もあるかもしれない。


「……分かりました。俺、ここの一員に―――」


「―――班長チーフッッ! 大変でっっ、、て君は!?」


 その時、俺の言葉を遮って今度は右手から血相を変えた女性が駆け込んできた。そして、『大変ですっ!』の詳細を話すよりも前に、俺の顔を見てギョッとしていた。失礼な話だが、まぁ数日前に応対した高校生がまさかこんな内部にいるなんて、思いもよらなかっただろう。

 そんな数日前には受付にいた看護婦の女性の言葉に何かを察したのか、クリスが慌てた様子でポチッとモニターの電源を入れた。


 楕円球型の機械が立ち並ぶガラス窓で四方を囲まれた謎の部屋を監視するように、そこを取り囲んで設けられたたくさんの機械、計器、モニター。クリスが電源を入れたことでその全てが起動し、ヴーンとお馴染みの駆動音を響かせた。


「……これはっっ!!」


 そんな中、モニターを目にしたクリスの表情がハッと変わった。泡沫の後ろにいた俺を見たときよりも驚いた表情。それは相楽さんもだった。冷静な人だと思っていた俺の所見を覆すように、相楽さんはバンっとモニターに張り付いた。そんな、秘密の組織への侵入者を超える驚きとは、、


「まさか、このタイミングで来るのかい。……ッッ、古都響介くん。すまないけど話は後だ。今は、この夢獣ナイトメアの討伐に専念させてもらうよっ!!」



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