焼肉すとぽーに襲来
6月のジメジメとした梅雨時期、ゴールデンウィークの連休以来、祝日に巡り会わない日々は、サラリーマンにひたすら肉を提供する日々そのものだ。
『焼肉すとぽー』の店長をしている俺は今日も忙しく接客に追われていた。
名前の由来は、一期一会から始まり、一期を苺としてストロベリーとかけてなぞった挙句、焼肉店っぽく無いとのことで豚ポークからポーだけを取って全部平仮名にした、みたいな。なかなか名前に迷走っぷりが窺える。
いや、つけたの俺だけどね。
1500円でランチセットとしてカルビ、ご飯、スープ、デザートのアイスを提供しているのだが、客足が衰えることがない。
その他のメニューも人気で、うちに厚切り特製タン塩だけを食べにくる人もいる。厚く切りすぎていてほとんど黒が無いのだが。
「店長、特製タン品切れです」
厨房担当の古市くんが日課の様に報告してくる。11時開店で、2時間弱で品切れになるから恐ろしい。
「仕方ないね。女性客が我先に食べてしまうから」
「値段上げませんか?1680円は安いですよ」
「いや、これでいこう。客の期待を裏切ったら大変だ」
「まじで、売り方がもったいない」
冷凍パックで仕入れているから、手間はかかって無いのに文句ばかり言う古市くん。
いいんだよ。どこよりも厚切りだけどこの価格だからみんな来てくれるんだ。
ぴんぽーん。
レジに置いていたチャイムが鳴って、俺は厨房からそそくさと移動する。
おっ、家族連れだ。平日なのに珍しい。学校はどうしたんだろうか?5人家族で、小中学生がこちらを見て固まっていた。
「パパ!おじさんいた!」
「いらっしゃいませ。5名様でしょうか?」
「あの、わたしたちのこと、覚えてますか?」
えっ?いきなりそんなこと言われると対応に困る。
多分初対面、にも関わらず、くいっくいっとひとりの1番大きい女の子に袖を引っ張られる。
常連さんだったかな?見たこと無い気が・・・ん?
この子がつけているシュシュに見覚えがある。
学生の時にバイトしてたプールのマスコットだ。イルカのペンタ丸。
「昔、プールで会ったっけ?」
「違うよおじさんっ!美兎だよ?プールで溺れかけておじさんに命を救ってもらった美兎なのっ!」
ええええええええええええ!?
も、もしかして手紙をくれたのは、この子おおお!?