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遺跡向こうの丘まで

得意げにフーリがしゃべり終えたとたん、スパァンとカーラがその頭を叩いた。


「アンタ、しゃべり過ぎ」

「いってぇな、暴力女!」

「ミーシャ……今の話だが、聞かなかったことにしてくれ。避難所シェッラは、もう避難所にならない」

隣のロイドが真剣な表情で告げる。


「えっ、凄い情報だと思ったのに!!なぜ駄目なんだ?」

とルークが驚き、

「耳元でうるさいにゃ!」

ミーシャはその大声に耳をふせる。


ロイドも厳しい表情で、

避難所シェッラはもう探さない方がいい。発見されてない場所はすでになく、奪取争いも鎮静化した今は……新人ルーキー目当ての‘狩り場’にされているか……上級者が陣取っているかのどちらかだ」

「知ってるにゃ……父さんがここの冒険者だったから聞いたことあるにゃ」

半目でミーシャが言う。


まあ父さんは……冒険者というより探究者とか学者とかいった方がしっくりくるけれども。


がっしり、というより細身で穏やかな物腰、ひょろくて御しやすいと勘違いされる容姿とーーーー『あああ……僕とミリィの子だから大丈夫だと思いたいけど、心配だ。ミーシャ、敵は容赦なく塵芥にでも変えてやれ。何があっても生き残るんだよ』ーーーー加えて、頭のネジが飛んで嵌め直したら失敗したみたいな残念な性格も思い出した。


避難所シェッラはまるで肥溜めってことか……」

ルークが鼻をつまむ振りをすると、

「そのとおり」

ロイドが苦笑した。

「だいたいが早朝に迷宮に出て、日没とともに戻っていく。君たちも、そうするといい」

「なるほど」

ルークが納得顔で頷く。


「…今日はもうさすがに遠出は無理かにゃ」

「もし何頭か戻ってきて借りれたら、搭の跡地……遺跡の向こうの丘までいくといいんじゃないか?あそこの眺めはサイコーだからな」

自信たっぷりにした話がスカだとわかり、フーリが気まずげに言う。

「遺跡か、面白そうだな。ミーシャ、行こうぜ」

「借りれたらの話だけどにゃ」

「よし、そうと決まれば、急ぐか!」

なんだかぐだぐだ感満載だにゃぁ……と飽きれつつも急かされ、ミーシャが立ち上がれば、

「厩舎はあっちだからさ。……今度また時間のある時にゆっくり食事でもしようぜ」

フーリがにかっと笑い、

「じゃあ、また」

とカーラが手を振る。


ああぁオレの猫耳が……とか、今は諦めろ、とかいったやり取りをバックに厩舎へ向かうと、バンダナをした体格のいいおっさんが、

「お、今から出るのか?あまり見ない顔だが、こいつらに乗ったことは?」

といかつい笑顔で声をかけてきて、

「馬と牛ならある」

「ないにゃ」

と二人がそれぞれ答えると、

「初心者かぁ……一度、きちんと慣らした方がいいな」

と柵のある広場まで案内された。


「まず、ここの筒に向かって名前を言ってくれ」

簡易式カウンターにはにょきっと細く曲がった筒が生えていて、ミーシャとルークがそこに向かって名前を言うと、カン、と音が鳴る。

「よし、これで登録完了だ。さて、まずは様子見だな」

バンダナの男の合図で、厩舎から別の青年が2頭引いてきた。


「まだいくらかかるか聞いてないにゃ」

「時間にもよるが……今から日没までだろ?5銅貨ローってとこだな。まあ初心者講習に別途2コインかかるが」

そう言ってオルトスの細長く硬そうな首を軽く叩きながら、

「こいつらは草食で大人しい。ただし、跳ねるように走るから、慣れないうちは駆け足は駄目だ。乗り方は馬とほぼ同じ。軽く足を当てれば自然に進み出す。緩める時は足を締め、止まりたい時は同時に手綱を引けばいい。急に引いたら反発されるぞ。……そら、初めはその台を使うといい」

「鞍はあってもあぶみはないのか……」

「そうだ。一気に乗れよ……ああ、背中を蹴らないよう気をつけろ」

丁寧に教えてくれるやり方に添って背に乗り込むと、心得た、というように、オルトスは軽快に進み出し、何周かするうちに、やがて慣れ、スムーズに走らせることができるようになった。


「よく馴らしてあるな~」

「乗せてもらってる感半端ないにゃ」

二人が広場をラスト一周して戻ってくると、

「二人ともうまいじゃないか。これなら遠出じゃなければすぐ出せそうだな。どこまで行くんだ?」

「ああ、この近くに遺跡跡があるって聞いたから、その先の丘までだ」

「よしわかった」

バンダナ男は頷き、

「ムーバ、カシー、いつものコースだ。気をつけろよ」

とそれぞれオルトスに声をかけて軽く首を叩く。

「ひょっとして行く人は多いのかにゃー」

「いや。こいつらの散歩コースだからな」

「……なるほど」

騎獣に乗ったまま話をしながら広場を歩き、男はその先の鉄門を解き放つ。


「もし魔獣に襲われたら、迷わず降りてくれ。こいつらは放っておいても、ちゃんとここへ帰ってくる。もし戦闘に巻き込んだ場合はギルドに請求するからな!」

「おう!」

「わかった気をつけるにゃ~」

返事をして踵を軽く当てれば、オルトスは心なしか嬉しそうに走り出した。


「……考えてみりゃ迷宮ここで襲われない方が稀なんじゃないのか?」

「安全第一で向かうにゃ~」


あの巨大な岩裂鳥クラッシュバードを見た後では、草原は危険地帯以外の何ものでもない。


オルトスもそれはよくわかっているのか、ひらけた場所へは出ようとせず、森の小道を進むとほどなくして試練の搭の跡地についた。


かつて塔だったものの名残は、

「ただの草地じゃねーか」

呆れてルークがぼやいた。


‘試練の塔 跡地’と書かれた看板がなければ、スルーしてしまいそうなほど何もない。


「よく見ると、かすかに灰色の土台があるにゃ」

「だからどーした……次行こうぜ、次」

げんなりしてルークがせかす。


後から二人は、ここまで何もない理由……比較的ゲートに近く、採掘がしやすいため、資材や研究などの目的で、すべて運び去られてしまったから、というのを知ったが、それはさておき、

「今のところ魔獣の気配もなさそうだにゃ」

「たしか、放牧場所には魔獣避けの草が植えてあるんだろ?おっちゃんは気休めだとかなんとかいってたけど」

「これは効果ありだから、どんなものか聞いておいた方がよかったにゃ」

「ギルドにその薬が売ってるらしいぞ」


のんびりとオルトスを走らせ、小高くなっている丘までくると、思わず息を呑む。


丘だと思っていた場所の先は崖になっていて、草原、白と黄色の花畑、森などが一望できた。


「あれが、‘試練の塔’なのか……高いな」

遥か先に、空へ向かって細い塔がいくつもそびえている。


ヒュイィーと鳴きながら、遠くに飛び交う鳥の群れの中には……あの岩裂鳥もおり、飛びながら首を傾げてこちらを睥睨へいげいした……ような気がした。


「おぃ……もう戻った方がいいよな」

「賛成だにゃ」


しっかりと塔のある方角と、森などの位置関係を目に焼きつけ、来た道を戻ると、拍子抜けするほど何ごともなく、あっさりゲートに辿り着いた。









岩裂鳥クラッシュバード:名前の由来は、好んで崖などの裂け目に巣を作ることから。嘴でガツガツと割れ目を広げたりはするが、岩に大きな裂傷を作るほどの力はない。

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