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ほのぼの牧場焼肉定食

大変遅くなり、すみません。

 長い首を伸ばし草を食む姿はとてものどかだが、ふと目線をずらせば、空高くどこまでもどこまでも聳えた無機質な濃灰色の壁。そしてそこにぽっかり空いた巨大な長四角の穴……唯一この迷宮と外とを繋ぐゲート


「やっぱりここは迷宮ダンジョンなんだよな一応」

ルークがしみじみ言い、

「なにボケてんだよ。ほら、こっちだ」

フーリが、鉄柵で囲まれた道の先へ歩き出す。その後をルークとミーシャが追い、少し遅れて、

「しかし昼過ぎか……今回はだいぶ楽に終わったな」

「あはは、前の時はゲート閉まる直前だったからダッシュしたんだよねー」

それぞれに会話をしながら歩いていくと、ドドドドと音がしてきて、青みがかった小さな体で走りまわる小さめのトカゲの群れと、その近くに、鉄門と“グレコ・ブリーダーへようこそ!”と、いかにもな手作りの木の看板が鉄門の上にくくりつけてある場所に来た。


「おっ、おまえらも食事か?」

「ああ、今一仕事終えたところだ」

ロイドが、よくわからない長四角の武器を腕につけた鎧男と連れの女剣士に軽く手を挙げて挨拶する。

「なんだあれ」

「あれか?あれは小型の魔導砲だよ。あぁ~いいなぁ~めっちゃ高いけど憧れるよなぁー」

「魔導砲?」

「多くの魔獣の核となっている魔石の力を利用した銃のことだにゃー。……コスパかかるにゃ~」

「カッコいいんだよ!!恰好よさは正義だ!!」

「そんなすごいのか?」

「ああもちろん。魔石の強さ、纏う属性によって威力が変わるんだ!炎、水、電流……レーザーだって撃てる!!」

「そりゃすげえ!まるで、魔法みたいだな!!」


 テンション爆上がりの二人とともに門を抜けて奥のログハウス風建物からは煙と肉の焼ける美味しそうな匂いが漂ってきて、フーリは目を輝かせて一目散に走り、

「おっちゃん、ランチまだあるよな!?まず大盛三人前頼むわ!」

扉を開くなりひと息に注文した。


「……さらに二人分追加だ」

ロイドが渋く訂正する。

「そういや、オレも腹減ったな……よし、じゃあ俺も大盛で!」

ほがらかにルークが叫び、

「お肉……大好きだけどとりあえず普通盛で様子見るにゃー」

「……同じく」

ロイドとミーシャが言うと、あいよ!と勇ましくハチマキを巻いた店の者が頷く。


「先に大盛三人前、お待ちッ!」

ドン、と山盛りの焼肉とパンと、よくわからない野菜の炒め物がおかれると、お、うまそう!とフーリが手を伸ばし、食前の祈りはどうした、とロイドに叩かれ、

「うぁ……‘創世の神よ……’美味しそうなお肉をありがとうございます!」

そう言ってすぐに食らいつく。


「祈りは大切にゃー」

「まったく……‘創世の神よ。ここに日々の糧を得られ、喜びとともに頂けることを感謝いたします’」

「‘空と大地の神よ、感謝します’」

ロイドとカーラが言うのを聞き、

「そういや、賢猫ケット・シーのお祈りってどうやるんだ?」

「めちゃくちゃ長いからこういう場合は略式でいくにゃ。‘創世の蛇神ユルングよ。その深き身に根を下ろし育ち、またここに還る、その円環の輪が昇華せんことを祈ります’」

「それで略式かぁ……。俺のはこうだな。‘創世の神よ、日々の糧を得られることを感謝します’、だ」

「まあ、一般的にゃー」

フーリとカーラが焼肉に飛びつき、そこからひたすらむしゃむしゃと食べるだけの音が響く。

「ルークたちは初心者だったな……まずこの迷宮の基本を教えておこうか。夜は見通しが悪く、出てくる魔獣が一部変わって危険性が増す、という話は聞いたか?」

「……言われたな、そういや」

「対策無しでの夜の野営も危ない。炎を恐れない魔獣も多いからな」

そこまで言ったところで、

「お待たせ、大盛りと普通盛り二人前だ!」

テーブルが再び料理で埋め尽くされた。


「……ひとまず食べるか」

「だな」

「お肉、お肉の匂いがたまらないにゃ~」

瞳を光らせつつも、きちんと食前の祈りをした後食べ始めたミーシャの隣で、

「そういやこれ、なんの肉なんだ?」

とルークが尋ね、

「なにいってんだよ。トカゲに決まってるだろ!?」

「食用にされる種類は、ヒプシロだな。先ほどの小型の群れがそうだ。騎乗用はオルトスという首の長い種類らしい」

「これがトカゲか~」

ルークは木製フォークに刺した焼肉をしげしげと眺めた。


ちなみにカーラは量が足りなかったらしく、こちらを物欲しげに見つつも、ぐっと堪える表情をしていた。


彼女の沈黙を察して追加注文したロイドの横で、焼肉をガツガツほおばるルークを見ながら、

(トカゲが、トカゲ食べてるにゃー)

と失礼なことを考えていたミーシャだが、置かれた野菜とパンが、かなり減ったのに気づき、しっかり自分の分を確保した。


「先ほどの続きだが、まず慣れるまでは日帰りでの探索をした方がいい。ゲートが閉まるのは9の刻限だから、日没が過ぎても多少余裕がある」

「ただ夜のみちびきが出てないと暗いから、ランタンとか明かりは必須かな」

果実酒片手にカーラが言う。


「そうだ。それから、夜は‘搭’には近づくな。凄腕の番人が出る」

「よくうかつなのが切り刻まれて無惨なことになってるよね~」

うんうんと頷くカーラ。


「‘番人’て……」

「ただの通称なんだけどさあ~‘試練の搭’の周りに夜だけ現れる厄介な魔物がいるわけよ。黒くて硬い蜘蛛の姿をしていて、誰がつけたか‘選定者’なんて渾名までついてるぜ」

フーリの言葉に、ミーシャは昔、父親から聞いた話を思い出した。


『第一領域“レイ”の搭には‘選定者’と呼ばれる掃除屋がいるーーーー彼女たちは、強者と弱者とを秤にかけ、裁断する』


黙り込んだミーシャに何を思ったのかフーリが励ますように、

「怖がらなくても大丈夫だ。あいつらは夜の搭に近づかなければ出ないし!そうだ、とっておきのこと教えてやるよ」

顔を近づけ声をひそめて、

「夜に安全な場所を確保したいと思ったら、どっかの廃屋とか、‘避難所シェッラ’を探すといい」

指に水をつけ、テーブルにハンドルかバルブのような絵を書いてみせ、

「こういうのが地面とかにあったら、そこが‘避難所シェッラ’という印なんだ」

という、まさしくとっておきの情報を教えてくれた。

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