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初歩を学ぶ

お待たせしました~。

(ウッ、この匂いは……)


走り来た存在に咄嗟に二人はは一歩下がって迎撃体勢を取り、ミーシャが先ほどとはまた違った意味での嫌な匂いに顔をしかめる。


「やったー!!岩裂鳥クラッシュバードの羽根ゲットぉお!!こっちにもあっちにもある!」


四つ足の襲撃者(?)は灰色の毛並みを靡かせ、構える彼女ミーシャたちには目もくれず、散らばった大きな羽根を掻き集めている。


狼族ラウルフか……」

「犬は嫌いにゃ」

ミーシャが吐き捨てた瞬間、狼だから!と吠え声が返る。


あらかた集めて満足したのか、なめし革鎧の背中にくくってあるブーツを履き直し、

「おまえたち、運が良かったな。岩裂鳥クラッシュバードの数があれ以上だったら襲われてたぞ」

いそいそと収穫物を鞄にしまいながらいう。


「おい、カーラ!単独で突っ走るなていわれてるだろこの脳みそカラカラが!」

後から息を切らしてきたのは、金髪のまだ十代であろう少年と、二十代半ばの落ちつきのある青年。こちらは兄弟なのか、匂いも姿も似かよっている。


少年はミーシャを見るなり顔に衝撃が走り、

「猫耳少女!やべぇ、初めてみた。ロー兄ぃ、これだよ、これ!!やっぱこういう場所にはモフモフの癒しがなけりゃやってらんねーよな!なあ、オレたちと一緒に行こうぜ!!」

「ちょっと待ったフーリガン、私は!?」

「おまえは却下だ却下」

はっきりした物言いにガーン、と効果音がつきそうなほどショックを受けて佇むカーラ。


「リーダーと呼べフーリー。口が過ぎるぞ。彼女は大事な仲間だ」

「だってよお、コイツまた先走って、何回いっても聞きやしねえんだぜ!?」

岩裂鳥クラッシュバードにはなかなか遭遇できないから、気が急いたんだろう。……すまない、仲間が失礼をした」

痩せ型で釣り目気味の青年はミーシャたちに謝り、きっちり頭まで下げてくる。


(苦労性だな……)

(苦労性だにゃ……)


ほぼ同じことを二人は考え、ルークは肩をすくめながら、

「気にしてない。だがそうだな、できればこの辺のことを教えてくれないか?入ったばかりなんだ」

「こんな危ないとこでボサッとしてんだもんな。やっぱルーキーか」

うんうんと少年……フーリガンが頷き、

「よし。まずこの近くにある重要ポイントといえばレンタル騎獣屋だな。案内してやんよ。リーダー、いいだろ?」

そう提案したので、カーラが不満げに、

「ちょい待ち!依頼は?やっと数が揃ったのに!」

「ああ、ここしばらく野郎ばっかのパーティを見続ける日々……大変だったぜ……やっと見つけた貴重な癒しなんだよ!しかもモフモフつき!」

「いや、私は?」

「おまえはなんつーか、論外。剛毛だし」

ガーン、とわかりやすくショックを受けるカーラ。

「フーリ、言い過ぎだ。こいつは硬そうに見えるが、意外に手触りがいい。艶のある美しい毛並みだと思う」

「リーダー……」

しょぼくれていた女狼は、今度はきゅん、と萌える音が聞こえてきそうな様子で後から来た男の方を見つめている。


獣人にとって異性に毛並みを褒められることは、愛を囁かれたも同然!


……なのだが、人間にそんな常識が通用するはずもなく。


(温度差があるにゃ……あのローとかいう男の表情からして、故郷の猟犬でも思い出しているに違いないにゃ)


そんなことを考え、生ぬるい表情になったミーシャは、

「それでどうするのかにゃ……」

「そうだ、まだお互い自己紹介もしてないじゅないか。俺はルーク・タジール。この迷宮に今日入ったばかりなんだ」

ルークが笑顔で告げると、

「ロイド・マキータ」

「同じくフーリガン」

「カーラ。見てのとおり狼族だから」

真面目なロイドに軽いフーリガン、キリッ、とした表情のカーラというように、三者三様の返事を返してきた。


「それで……レンタル騎獣屋というのは?」

「ああ。この草原によくいるトカゲの一種を騎乗用に調教して貸し出しているんだ。慣れれば機動力抜群の乗り物になる。店は、ゲートの近くにあるから、まあ戻るついでに案内すればいいだろう」

「やったぁ!さすがロー兄ぃ」

拳を上げてフーリガンが叫ぶ。

「いっとくけど少しでも触ったら八つ裂きにゃー」

冷めた眼差しでミーシャ。

「お、おう……いいさ!眺めるだけでも!」

「リーダー……」

「向かう方向は一緒なんだ。大した手間でもない。そろそろ移動するぞ。同じ場所に長く留まるのはまずい」

ロイドが促し、二つのパーティはここからでもはっきりわかるほど高く巨大なゲート目指し、歩き出す。


「来たときは夢中だったが、結構な距離があるなあ」

ルークが萌黄色と黄緑のグラデーションが美しい草原にまばらに生えた木々を数えながら、ゲートまでの距離を計算していると、ロイドが、

「こういったひらけた場所をいく時は……この領域だけに限らないが、気をつけた方がいい。外敵からもよく見えるからな」

空を見上げ、続いて足元に視線を落とし、

「かといって草むらも危ない。この丈だと、背の低い生き物が忍ぶにはもってこいだ」

大きく一歩踏み込むと剣を抜き、潜んでいたまだら蛇を一刀両断した。

「かっけー」

ピュゥ、とルークが口笛を吹く。


「いや、ここからだ」

布で丁寧に剣の血を拭って捨ててからそこらの草を刈り、離れて、しゃがむよう指示してから、臭い消しの粉を巻く。


「……見ろ」

ほどなくして、凄まじい勢いで小さな蛇……いや、胴体が長く足の短いトカゲの群れがどこからともなく現れ、蛇の死骸に貪りつき、瞬く間に骨だけにして去っていった。


「‘レイ’の魔獣は総じて素早く、知恵のある個体が多い。弱い個体、傷ついた個体を真っ先に襲い、引き際も心得ている。こちらが用心していれば気配を消し、隙をあれば襲いくる。……この特性は知っておいた方がいい」

立ち上がり、ロイドは何事もなかったかのように歩き始めた。


「オレたち、もう二年はここにいるんだぜ?ま、そこのカーラは仲間になって半年ほどだけどな」

「いやいや、ちょっと言い方!」

「正直なところ、人の力には限界がある。カーラはよくやってくれてるよ」

「ほら、ほらぁ!」

「うぜぇ」


そんなやりとりをぬるく見守ったり、ちらほらと遠目に見える魔獣について聞いたりしていくうち、10ピッド、つまりミーシャの背丈の3倍ぐらいありそうな鉄柵と、その向こうに馬ほどの大きさで首の長いトカゲの群れが放牧され、草を食んでいる姿があちこちに見られる場所へと来た。

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