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メルリルの謀りごと☆彡

遅くなりました。

「あの受付……メルリルの話、実際どう思う?」

「一度会って話はそれからだと思うにゃー」

「用件をあそこで言わなかったのも怪しいよな……」

はぁ、とルークは肩を落とす。


 迷宮のあの塔についてもそうだが、まるで肝心な情報が流れてこない。


 ここの案内所でひそひそと交わされる噂話も、少し耳にしただけでも、塔ではひっきりなしに戦ってるだの、小鬼ゴブリンや腐った死体のような魔物が出ただの、違う世界の話を聞いている気がする。


 そして、誰も塔の最上階まで言った、という声も聞かない。


 ここまでくると、何か意図があって隠しているのではないか、と思うほど。


 そして竜人……ハーフについても、ルークだってこれまで何もして来なかったわけではない。


 組合ギルドに何かいい情報がないか聞き込みをしたり、施設を利用しての鍛錬でそれとなく窺ったり、噂に聞き耳を立てたりした。


 しかし、意外なことに自分と同じような竜と人のハーフは迷宮都市ゴードリムではまったく見かけず、同族に話しかけられることもない。


 ひょっとしたらフードの下に隠れてるのかもしれないが……。


 時々見かけるフードを片っぱしから脱がしたくなるが、さすがにそんなことをするわけにもいかない。


 あの塔で死にかけた夜から、相手の強さのようなものが少し感じ取れるようになった。が、自分と同じ気配を持つものは、この案内所には存在しなかった。


 朝の定食屋。今まったりと酒を楽しんでいるミーシャが、自分より遥か高みの強さということはひしひしと感じるが……。


「悪いな。力不足で」

「まあ、待つのは得意だからにゃー。そのうちなんとかなるにゃー」

日差しは暖かく、眠そうに返事をするミーシャ。


こいつはダメだ。気がねぇ……そういえば、迷宮に来た目的も虹をみたいとかなんとか、ぼんやりしたものだったな。


 ルークは遠い目をして考える。あれからたまに襲ってくる、自分の内側をガリガリ引っ掻くような焦燥感。


 こんなハズじゃない。俺はもっとやれるはずだ。こんな―――こんな狭く窮屈な……。


「やっぱりメルリルとかいうのの、話を期待するか」

雑談ついでに聞いてみてもいい。


 ……組合ギルドにも何回か相談している。そろそろ答えがほしい。


「甘いですよ、ルークさん」

席を立っていたベアトリスが戻ってきた。

「遅かったな」

「化粧直しです!……いいですか、組合ギルドを通さない話には保証がありません。だから、きちんと相手を見て、しっかり考えてから答えを出さないと」

「ま、そのとおりなんだけどにゃー」

ごろごろ、まったり。


「トリスー?迎えにきたよー」

「あ、いけない、もうそんな時間に!?」

店の入口に、剣士と弓使いのパーティが現れる。

「……第一迷宮は、そのルールさえ掴んでしまえば、攻略は難しくないそうです。絶対、正式な組合ギルドメンバーになりましょうね!」

じゃあまた、と手を振ってトリスは仲間の元へ去っていく。


 扉からその姿が消えるのを見届けてから、

「……吹っ飛んでしまえ」

「にゃッ!?」

「あー、悪い。どこかのスラング」

ルークはガシガシ頭を掻いて、溜め息をついた。


 昼過ぎに訪れた昼の兎亭は、洒落たカフェ、のような場所だった。軽食や飲み物を楽しむ場所を‘カフェ’というのだと、これもトリスに聞いて知ったことである。


 店員はふんわりと裾の膨らんだドレスにエプロン、という小奇麗な制服を着ていて、料理の値段も少し高めな、いつもはまず来ることのない場所だった。


「ルークさん、ミーシャさんここですよぅ!」

髪を編み上げてくくり、おしゃれをしたメルリルが手を振る。


「や。どうもこういう洒落た場所は落ちつかないな」

「あ、そうなんですね。やっぱりお話を聞いてもらうんだから、ちょっといいお店の方がいいかと思って」

支払いはサービスしますから、と彼女は笑う。


(うさんくさいにゃー)

(シッ。まずは話を聞くんだろ)

ひそひそと会話する二人をまったく気にした風もなく、

「それでは、さっそく本題に入りますね。あの、以前お二人に組合ギルドポイントの話をしたと思うんですが……今結構溜まっていまして、それでその使い道をご提案しようかなと!」

「使い道?ポイントっていうのは、点数じゃないのか?溜まったら組合ギルドの等級が上がるとかじゃないのか?」

「もちろん等級も影響しますが、ポイントを利用して組合ギルドの施設の一部を利用したり、道具を借用したり、なんと技能や戦闘の特別講師を頼むこともできちゃいます!ごくたまに講座なんてのも開いているので、そちらに申し込むことも可能ですよ!まあ換金することもできますが、まず組合ギルド内でできることを探した方がお得なんです」

ミーシャの耳が何か言いたげにピクッと動いたが、何も言わずに続きを待つ。


「ふーん、そうなんだな」

いまいちわかっていなさそうなルークに、

「それでさらに、とてもラッキーなことに、今私の叔父がこの、迷宮都市ゴードリムに来ているんです。叔父は特等級冒険者で、あちこち旅をしていまして、さらに竜人のことにとても詳しいんです!あ、もちろん特等級に頼むのでかなりお金がかかるんですが、お二人の持っているポイントを消費すれば今回タダで講義が受けられますよ!」

メルリルはにっこり笑う。


「うーん……でもなあ……どういう奴かわからないわけだろ?」

「もちろんそこも考えてあります。まず叔父の人となりや技量を知ってもらうことが大切なので、もうここに来てもらう約束をしているんです」

えーよ」

ルークが突っ込む。


「……特等級っていうわりに腰が軽いにゃー」

「気さくな人ですから!すみませーんロロおじさーん来てくださーい」

ふぃっとメルリルが斜め後ろを向き、人を呼んだ。


 するとそこにいた男が席を立ち、こちらへ向かってくる。

「おー話はもう決まったのか?……っておまえら、このあいだの」

それまでつまらなそうにしていたミーシャが目を見開く。

「……知り合いか?」「え、知ってるのこの人たち」

ルークとメルリルがほぼ同時に声を上げる。


「……ルークは気絶してたから覚えてないにゃー。助けてもらったのにゃー」

ミーシャが言いにくそうに話す。

「あ。ああ、あの時か。なんだっけ、特別な水?薬?を分けてくれたんだったな。ありがとう」

ルークが笑って礼を言う。


「いや、あの時はたくさんあったからな。全く気にする必要ねぇよ」

ルークが瀕死の時、魔力の濃縮水をぶっかけた男、ロロディアが苦く笑う。……魔力の濃縮水は第二では通常、‘竜の涙’と呼ばれる魔核を水にひたして作るので、あの時は大量にあったことは間違いない。

 ああ~、とメルリルも思い出して苦笑した。


「……とんでもなく強いのはわかるけどにゃ〜。組合ギルドカードは」

「ちゃんと持ってるぞ、なんと六ツ星ライセンス!」

ロロディアがひら、と手のひらを返すと何かの魔法の気配が広がり、小さな色違いの宝石が6つ並んでいる組合ギルドカードが現れた。

「ちょ、ちょっとロロディア!こんなとこで!」

「認識と聴覚阻害かけてるから問題ねぇよ」

「それでも、う、心臓に悪い……」

メルリルが胸を撫でて溜め息を吐く。


「あっ、と、六ッ星ライセンスってのは……?」

組合ギルド規則最初の辺りに記載されていたにゃー。組合ギルドカードに与された星1つにつき、1領域。六ッ星は現在確認されている迷宮の領域すべてに行ける証にゃー」

「お、ご名答!」

パチパチパチ、とロロディア。

「まあ、行けるだけならそこまで珍しくもないけどな!」

メルリルが隣で半目になりながら静かに首を振る。


「で、頼みはそっちの竜混じりのスキルアップ、でいいのか?」

ロロディアは、ルークの全身をざっと見て、首を傾げる。

「おまえ、本当に竜の血を引いてんのか?まるでそれらしくないじゃないか。筋肉のつき具合も半端だし」

「ちょっとロロディア叔父さん……」

言い方言い方、とメルリルが慌てた。

「ん〜……ここまで人間が強いとちょっと厄介かもな……あ〜、まあいっか」

と勝手に納得して、

「もし、そっちの都合がよければ、今から‘第一’に入ってみるか?人となりを見るなら、しばらく一緒に組むのが一番だろ?もし合わないと思ったら断りゃいい」

「よっしゃ、乗った!特級冒険者の腕が見られるめっちゃいい機会だしな」

「ま、別にいいけどにゃ……。こちらの安全は最低限保証してほしいのにゃ」

「何いってるんですか、もちろんですよ!」

メルリルは力強く頷いた。



『ロロってさー、竜人について詳しいんだっけ?』

『おう。ごくたまに街にも来るしなー』

『じゃあさ、成りそこないを強くすることもできる?』

『あーできるできる』


 メルリルは叔父のロロディアが来て、テティムと食事に行った時の話を思い出す。酒の入ったあいつ(テティム)が泣きながら、首が飛ぶところだった、ひどい目にあった、等とやたら絡んできてうっとおしかったが、まあそれはそれ。


 少し前から仕事場で、あの男(ルーク)が迷宮でいつまで保つかがひそかに賭けの対象になっている。パーティ解散だの、諦めて故郷へ帰るだのと言っていて、組合ギルドに本登録できるかどうかも怪しい、いうのが大多数。


 ここであの男をレベルアップできれば、大穴でガッポリだし、ロロディアも助かるしで一挙両得!


 いつも自分とテティ厶には甘いロロディアだが、冒険者の中ではほぼ最強、知識、経験も豊富でこなせない依頼はないほどの腕を持つ。

 メルリルには、この作戦は絶対にうまくいく、という自信があった。

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