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更夜の苦鳴

 ‘裁定者’は通常ならとても討伐できるようなモノではない。だからこそ死者を出さないために入念な下準備、そして奇抜とも言える特殊な作戦が必要となる。


 二人の踊り子がまとうのは、タグと同じ物質でできた装身具。きっと標的の眼には眩しく輝いて見えることだろう。


 現場には8人のエルフ。彼彼女らをここまで動かすのは並大抵ではなく、ゆえに通常では考えられないほどの高配備。


 それぞれ、結界、防御、攻撃、補助を担当する。‘裁定者かのじょ’たちの刃は強靭であり、そこらの装甲など、わらに等しい。


 エドアルド、カルロッタ、ウンベルトの3人はゴムのように衝撃を緩和する魔獣の皮でできた作業着を着ているが、それでも念のため、エルフの張った結界の領域から出ないようにしている。軽口は叩いているが、その恩恵は理解している。


 暑さ避けに氷のヴェールを編みながら待つエルフたちも、彼らの悪口などそよぐ風ほどにも気に留めていない。ただ、自らの役割をこなすだけ。


「……来た」

この場で、最も空気の変質とその揺らぎに敏感なのはエルフ。その優美な姿がさざめき動く様子を双眼鏡で見て取ったウンベルトが呟いた。


 間を置かずして組合ギルド研究員の一人がテスラに合図し、テスラが魔導具を作動させ、‘緊急避難’回路の巡航を共有する。


「わ、ワたシも入れテ?」

そして、先ほどまでティアとフリッカがいた空間を、黒く無慈悲な刃が斬り裂いた。巨体がほぼ音もなく飛来した場所から、すでに二人はかなりの距離を取っている。


「うーわッ回避の魔導回路なかったら死んでたねこりゃ」

「……軽口は叩かず、下がりましょう。役目はここまで」


 シャラ、と身に着けていたアクセサリーをティナが放り、フリッカもそれに習う。同時に、エルフたちがあらかじめ編んでいた魔法を発動した。


 罠に飛び込んだ‘彼女’を逃がさないよう設置された、光り輝く半円の結界が周囲一帯を覆い、膜を閉じる。そして、その場は陽が完全に落ちたと思えないほど、一気に明るくなった。


重力波放射グラビティプレス

同時に、空間が歪むほどの波動で、その動きを阻害し、

「さあ喰らえドッカーンッ!」

少しばかり緊張感に欠けるが、掛け声とともにカルロッタがバズーカで砲弾を飛ばす。


 轟音とともに第三迷宮の巨大魔植物の種が籠められた砲弾が命中と同時に弾け、蔓を伸ばし‘裁定者’を封じ込めた。


 バキッ!!


ィイイイイン


 絡まり合った深緑の鳥籠にも似た檻が揺れて吹き飛び、再び覆われていく。

 高音域の威嚇音が響き、耐性の無い者を硬直させた。


 魔力切れで膝をついた男性エルフが下がり、それぞれ濃さの違いはあれど金髪に目の潰れるような美しさと華奢な体をした面々の中から、青年エルフの一人が詠唱を、そしてもう一人――こちらは若い女性のエルフのようだったが――が前に出て、透き通った声で歌う。


「――――‘言祝ことほぎ’を」


 歌に勇気づけられ、金縛りの解けたウンベルトが、大きな鎖つきの銛を標的に向ける。


「ぶっといの喰らいやがれ!!」

「ウンベルトが言うと下品――――」


 カルロッタの突っ込みを掻き消すように発射された銛は、巨大な蔦の檻に見事命中して上部からアンテナのように開き、同時にエドアルドが磁場を起こすスイッチを操作した。


 機械は正確に発動し、地面に飾り板のように敷かれていた金属を次々に引き寄せていく。


 照らすもの 降り注ぐもの 浄め昇華する数条の光 滅せよ 天上(ディヴァイン)()白嵐(テンペスト)


 力ある言葉とともに、結界の天上から光の剣が生まれ、浮かび上がったままの金属板を突き刺し、板は溶けて液体となり、蔦とその檻に囲われた‘彼女’へと降り注いだ。


ァァア゛ア゛ァアァア、こノ、下等せィ゙ブツが、よくモ、


 銀色の液体でまだらになった巨体が蔦を割る。


車輪斬しゃりんざん


 鎖と発射装置を斬り裂こうとして結界に弾かれた‘裁定者カレナ’を燃え盛る白金の輪が襲う。


 それを弾きながら体制を整え、反対側から攻撃してきた者に‘裁定者カレナが’咆哮を上げる。


「やっぱ硬くて切れないかー」

威嚇をものともせず、大きな2つの戦輪を羽にして自分の背中に戻しながら、キャサリンが呟いた。

「来るぞ、お嬢」

「オーケー遠慮なく落としちゃってしゃ。傍流末尾とはいえ、上位鬼族ハイオーガの力、見せてあげる」

サーシャが刀の柄を握ると、額当てに隠された角の痕跡が熱くなり、魔力が増大しそれが刀に収束されていく。


「〝魂喰みぐらい〟……なるべくたくさん貰ってくれよ」

相手の攻撃前のわずかな間を突いて、抜刀と同時に黒い一閃が走る。


 言葉にならないような凄まじい苦鳴とともに、バリン、と結界が割れる音がし、一瞬だが合金塗まみれの巨体が視界に映り、跳び去っていく。


「……腕一本。逃げられたな」

「‘作戦通り’ね。別動隊の成果を待ちましょう」

キャサリンとサーシャ、そして、その場の面々は、光が消えうせて暗く戻った夜空を見上げ、耳をすませたが、すでに遠くに行ってしまったのか、木々のざわめきとどこか遠くで獣が鳴く声しか聞こえなかった。

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