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早駆

 投稿が遅くなりすみません。次回の投稿はなるべく間を開けないようにしたいと思います。

 そこは塔の中のはずが、太陽すら存在していた。どこか見覚えがあるような気がする森の中、風でざわざわと木々がざわめき、さほど遠くない場所からギャッギャッと魔獣の声が聞こえてくる。

「なんだよこれは!」

思わずルークが叫び、ミーシャが武器を構えて辺りを窺う。

「くそ……ここはなんだ……?いったい壁はどこへいっちまった」

途方にくれるルークの肩を、ちょいちょい、とミーシャが叩く。

「なんだよ」

「後ろ」

その言葉にすぐさま振り返ったルークは絶句した。後ろになんと黒い塔が空高くそびえている!

「多分階段を上がった先が出口だったかもだにゃ」

ミーシャが濃灰色のレンガの壁を叩く。

「くそッ頭がおかしくなりそうだ!」

扉など影も形もない壁を蹴り、足踏みしたかと思うと、ルークはそのまま剣を抜き、なんと素振りを始めた。

「くそ、頭がぐちゃぐちゃだ。なんかこう……わかりやすいナゾナゾとか知恵比べとか、そんなのを期待したのに。なんだこの状況は」

大きく剣を振りかぶりながら、ぼやくルーク。


「そういや、おまえが感じた違和感てなんだよ」

「あんまり言いたくないけど、あの塔……魔素濃度が濃くて」

「はぁ……」

いまいちわかっていないようなルークに、

「魔素濃度が濃い人はすなわち、保持する魔力が強い人となるにゃ。特に魔力が強い代表的な種族は、エルフとかケット・シー、だいぶ下がって鬼族オーガといった感じにゃ」

辛抱強く


「くっそ、気が萎えた……」

壁に沿ってぐるりと一周すると、入った時とまったく同じ姿の塔の入り口が現れ、ルークは思い切り叫んだ。


「このくそったれが!!」


「あのー!どうかしましたか?」

「!?」

驚いたことに、叫んだ悪態に返事があった。


しばらくして、カシャンカシャン、という鎧の音とともに、茂みから薄茶の髪を上で結い上げた、フードつきコート姿の女性が現れた。


「叫び声が聞こえたので来てみたんですが……大丈夫そうですね」

ルークとミーシャとを交互に見やり、ほっとしたように笑う。


 彼女が動くたびに鳴る音も気になるが、肩の近くにふよふよと浮く、銅色の、おそらく魔導で動いているであろう正方形の武器(?)も気になった。


「あー、えっと、なんか悪かったというか……誰?」

「私は怪しい者ではありませんよ。ほら、ちゃんと組合ギルドのバッチもついてます」

コートにつけたきらりと銀色に光る組合バッチを見せてくる。

「あ、どうも。ルークです」

「ミーシャにゃ」

「私はステラ。組合ギルドの二等級冒険者です。あの、お節介かも知れませんが、あんまり叫んだり物音を立てると、魔獣や害意を持つ他の冒険者の気を引くので、気をつけた方がいいですよ」

「「え」」

二人は同時に言って、ステラをまじまじと見つめた。

「……え、私ですか?」

ステラは頬を赤らめてため息をつき、

「これには深ーい事情があるのですよ」

そういいつつコートをちらっと開けて、浮いている金属箱と同じ色の鎧を見せた。

「これ……組合のお試し品なんですけど……欠陥があって……」

へにょ、と眉を下げて俯き、

「普通に移動すると音が立つんですよね……研究者たちの‘モエ’とかいうものが詰まった渾身の装身具らしいんですが……着るのを引き受けなければよかったです」

ガシャン、としゃがみ込んで意味もなく地面を枝でほじくった。


「……あなたたちは、今から塔に挑戦ですか?」

「今出てきたとこにゃ」

「まったく、ひどい目にあった」


意気揚々と扉を開けたら塔から出てしまった話をすると、

「え、そうなんですか!?私の時とだいぶ違いますね!私の時は、変なクイズを出してくる嫌な妖精がいて」

「こっちは、壁に‘偽りを正せ’とかわけのわからん文字と、何もないガラクタの部屋と廊下を行ったり来たりだ」

ルークが顔をしかめて壁を蹴る。


「手助けしてあげたいのはやまやまなんですが、一つの塔につき、一つのパーティしか入れないんですよね……。私はもうクリアしてるし、おそらく弾かれちゃいます」

ステラはそう言って、土のついた手をパッパッと払う。


「え」

「もう一度挑戦してみる価値はあるかもにゃ」

思わぬヒントを聞いて、ミーシャがキラキラ……いや、ギラギラと目を輝かせる。


「よっしゃ、もう一回チャレンジするか。ステラさん、ありがとな」

「いえいえ、お気をつけてー」


 ルークとミーシャが扉向こうへ消えてゆくのを、ステラは手を振りながら笑顔で見送り、はたと我に返る。


「あ、、、しまった。組合ギルドの警告……」


 4等級以下の人たちに早めの帰還を促すこと、今、上級の探索者たちが戻ってきているので、衝突に注意するよう伝えること、の二つを忘れていたステラは、塔の傍でしばし待つが、当然すぐに戻ってくる気配などなく、まいっか、と箱型魔導具をトン、と指でついた。

「‘起動オープン’…………‘命令コマンド002――――疾走ヘイスト’」

キーワードとともに鎧と魔導具が接続リンクされ、魔力が満ちていく。ゲートの方向をステラがふ、と見据え、その姿は次の瞬間掻き消えていた。


 ――――さて、ところ変わって、塔の中へ戻ってきたルークとミーシャは、辺りを窺いながらゆっくりと石の通路を歩いていた。塔の内部は相変わらず薄暗く、特に変わった様子はない。


 歩き続けてしばらくすると、前方の部屋、その扉の隙間から、何やら話し声が漏れ聞こえてきていた。


「おかしいな。いったい出口はどこにあるんだ?」

「もう一度まわってみましょうよ。何か手掛かりがあるかも」

「もうさんざん調べ尽くしたよ……どこを探そうってんだよ」

部屋の中に、前に出会ったパーティの三人がうんざりした様子で座り込んでいる。


「誰だ!?……って、なんだ、おまえらか。ちょうどよかった」

リーダーのチェロの顔が輝く。

「どうもこの迷宮はおかしい。先ほどから同じところをぐるぐると回ってる気がするんだ。どうかな、一度ここは協力するというのは」

「そうそう、なんだったら少しぐらいならお宝分けてもいいよー」

盗賊のジーンが座り込んだままそう言ってくる。


「ミーシャ……?」

戸惑いの表情を向けてくるルークに、ミーシャは頷いて、クナイを繋げて槍の形にして、俯いている魔法使い目がけて投げた。

「失礼するにゃ」

「きゃッ!?」

「な、何するんだいきなり!」

はらはらと舞うエリーの髪は、体から離れた瞬間黒ずんで消えていく。


「待て!いったいどうして……」

「くそが」

慌てて兜を装着しかけた剣士の首を、ルークが一薙ぎする。噴き出したのは血ではなく、黒い液体だった。

 ミーシャが手早く、逃げようとする二人の胸元を一、二、とそれぞれ突き刺し、息の根を止めると、その体はやがてドロドロと崩れ、石の床に溶けるように消えていった。


「迷わずあの世へ行けよ……」

「本当に人だったかも怪しいけどにゃ……」


 三人の体が完全に消えてなくなった瞬間、明かりがいっせいにつき、廊下が明るくなった。明かりに導かれるようにして歩いていくと、さきほど入った時とは違い、上へ向かう階段の隣に、新しい木の扉が現れている。


 ギィィ、と軋むそれを開ければ、そこに階段が()へと続いていた。

「地下かよ……」

「薄暗いから、先を歩くにゃ」

罠を避けるため暗視の利くミーシャを先頭に降りていくと、階段は末広がりになっていて、両開きのやたら装飾が荘厳な木の扉の前に来た。


「…………行くか」

ちょんちょんと剣でつつき、罠らしきものがないのを確認してからルークが力を籠めて扉を開けると、そこはちょっとした玄関ホールになっていて、正面には広い階段と、上の手すりのある踊り場はギャラリーになっていて、紳士や貴婦人の肖像画が飾られ、天井からは明かりをつけたらさぞ見ごたえがあるだろうと思わせる、古く立派なシャンデリアが下がっていた。


 一階にはおそらく部屋などに繋がっているのだろう扉が左右対称に並び、その両脇に明かりのついた燭台が炎を揺らしている。


「……とりあえず、開けてみるか」

ルークとミーシャが手近な扉を慎重に開けると、その向こうは大きな玄関ホールになっていて、古く立派なシャンデリアの明かりが、同じように左右対称に並んでいる扉と、階段の上のギャラリーを照らし出していた。


「くそッまた頭がこんがらってきた……同じ部屋じゃねえか……」

「ギャラリーの絵は違う気もするにゃ」

「知らねえよそんなこと………もう帰りてぇ……」

ルークは心底困り果てた表情で、そっと扉を閉じた。

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