なるべく早く簡単にお金を稼ぎたい
※作中ではやんわりと伝えているのですが、想像力たくましい人は食事中には読まないでください。あと、虫の話が出てくるので、苦手な人もお気をつけください。
「あああ〜とっておきのおやつが消えたにゃ〜」
「まーだいってんのかよ。魚一つで保護の結界をかけてもらえたんなら、安いもんじゃねーか」
ルークが呆れた声で言う。
「あれは、迷宮の水辺で採れた魚を活き締めして、そのまま燻製にした逸品にゃ。そこらにある品物ではないのにゃ〜」
「あ、あの、すみません、私のために」
「いや、気にすることはねえよ」
ルークが首を振る。
「しかし相手はわかったが、結局なんの解決にもなってねえな。カジノに乗り込むか」
「それは駄目です」
ベアトリスがきっぱりと言う。
「あそこに出入りしている人の多くが上級者なので……騒ぎを起こしても、すぐに斬り捨てられて終わり、ですよ」
「八方塞がりか……で、金はあとどれだけ必要なんだ?」
「50……いえ、40白銀貨あればなんとか」
「組合で借りられないのかよ」
「そ、それが……すでにいくらか借りていてですね……」
迷宮にいくにも、街で宿に泊まるにも、お金がかかるでしょう?とベアトリスは涙目である。
「剣を買わなければ……いや、駄目だな、武器は命綱だ。おいミーシャ、おまえ貯金はないのかよ」
「そこまでゆとりはないし、あったところで貸す義理はないにゃ」
「そりゃあ、そうだよな……」
「あ、あの……これまでありがとうございました。なんとか伝手を探してみます」
ベアトリスがぐっと頭を下げる。
「いや、ないだろ伝手」
ルークが鋭く突っ込み、彼女が俯いたまま硬直した。
「ちっ……すぐ大金が稼げる方法があればなあ……話は簡単なんだが」
「あるにゃ」
「そう簡単にはいかねえよなぁ…………なんだって!?」
「え、あ、あるんですか!?」
「おい、おま……どうして黙ってた!!」
「そりゃ黙ってる理由があるからに決まってるにゃ。……父さんから聞いた時は、ただの笑いネタだったのにぃ」
ミーシャは溜め息を吐いたが、気を取り直したように、
「とにかく、ここでは話せないにゃ。詳しい話は………そっちで」
牙と角のある猪っぽい魔物の絵が看板に描かれた定食屋を指差した。
「おっさん肉大盛り!」
「黒麦酒二杯!」
「あいよ、ちょっと待ってな!」
威勢よく注文が飛び交い、ガヤガヤと店内も騒がしい昼下がり。三人はおよそきれいとは言えないテーブルに陣取った。
「とりあえず黒麦酒3つ!」
「肉山盛り」
「私は野菜炒めで!……あの、ここで話すんですか?」
「んにゃ?なんか言ったかにゃ?」
店内は、
「おい、まだできねえのか!」「大人しく待ちやがれこのクソ野郎が!」といった怒号が常に飛び交っていて普通にしゃべっていてもまったくお互いの声が聞こえない。
「だーかーらぁー、不向きじゃないですかって!」
「見るにゃ。誰もこっちを気にすることなく食事に夢中にゃ。秘密の話にはピッタリにゃ」
「おまえも秘密主義だなあ、そんな大切なことを黙っていたなんて」
ルークの呆れ声に、
「はい、どんぞ!」
やや訛りのある声が被さり、筋肉たくましい給仕がドカドカドカとジョッキを置き、大股で去っていく。
ひとまず飲むか、とそれぞれジョッキを手に、乾杯、となんのためにかよくわからない乾杯をしてから、
「それで話を戻すけど、父さんの話の雰囲気からして、昔の虹迷宮都市というのは、今よりずっと治安が悪かったのにゃ。これは、そんな時に一時流行った儲け話だから、言いふらしてはいけないのにゃ」
「迷宮都市の伝説の儲け話か……それで?」
「………ルークは見たことがあると思うけど、爆雷蜂《レッド·バルーン》は知ってるかにゃ」
「ああ、あの、第一迷宮で絶対近づいちゃ駄目な昆虫ナンバー1ですね!崖を口の酸で溶かして巣を作るっていう」
「ま、まさか……あそこの巣に行こうっていうのか!?」
ルークの大声に身を寄せてひそひそと話していた他二人は顔をしかめる。
「まさかぁー。………底無しの沼地に行くより嫌にゃ。違う違う。ちゃんと聞いて欲しいのにゃ」
ミーシャの言葉に、二人はフンフンと頷く。
「虹黄金蟲という、黄金の体が虹色に輝く虫がいるのにゃ。その虫は美しく、好事家ならその加工品に大金を積む」
「それで、例の蜂との関係は?」
ベアトリスがひそかに興奮したような声音で先を促す。
「爆雷蜂は肉食で、獲物を巣に運ぶけど、食べられない部分は外に捨てにいくのにゃ。虹黄金蟲はそのゴミ捨て場深くに卵を産みつける」
「へいお待ちッ」
このタイミングで、山盛りの肉と野菜、おまけのパンが、テーブルの上に運ばれてくる。
「山の下から成虫が出てくるけど、硬い他の魔獣の骨や甲殻で傷だらけにゃ。……だからこそ、無傷な成体には、高値がつく」
「ということは、成虫になる前に掘り出せばいいってことか……」
積み重なった焼き肉を掘り返すと、甘辛ダレの香ばしい匂いが充満し、ルークはごくりと唾を呑み込んだ。
なんで定食屋でこんな話をしないといけないんだろう……と思いながら、ベアトリスはなるべくその虫について想像しないようにしながら、置かれたパンをナイフで薄切りにする。
「そう、掘り出してそれから、羽が乾いた直後にピンを刺して即死させないといけないんだにゃ。それは私がやるけど、まずそのための道具が必要にゃ」
「へーそうなのか。じゃあいい道具屋とか雑貨屋を見つけないとな」
そういうルークとミーシャの目線は肉の山から動かない。それに内心苦笑しつつ、
「あ、それはなんとかなります。この付近一帯はもう何件も杖の見積もりをお願いしにまわったので、いい店がいくつか」
「よし、この後は店巡りだな。ひとまず食べようぜ」
「おっけい」
頷くと、略式で手を組み、秒で外すとひょひょいっと山の上にフォークを突き刺し、素早く口に入れたミーシャが満面の笑みでもぐもぐとする。
「うわ祈り早ッ……。もう一皿追加しとくか」
こちらはミーシャよりは長めだがささっと食前の祈りを済ませ、負けじと肉の山に取り掛かっていく。そんな二人の様子を横目で見ながら、ベアトリスも簡単に祈りを済ませてタレのたっぷりついた野菜を一切れのパンに乗せ頬張ると、味が染みてとても美味しかった。
支払いはもちろんそれぞれだが、安い、うまい!をうたう定食屋だけあって量のわりに格安で、ベアトリスの財布にもさほど負担にならずにすんだ。
「あ、すみません、ちょっと忘れ物を。すぐに戻ります」
ベアトリスがペコリと頭を下げ、いったん店へ戻る。
「……なんか忘れてあったか?」
「そこは聞いちゃダメにゃ。スルーするのが正解にゃ」
「はぁ……あ、アレか」
そういやよく水を飲んでいたもんな、とルークが思い当たる。
「それより、さっきの話……あの店では言えなかったけど、厳しい問題があるのにゃ」
「なんだよ」
「虹黄金蟲を掘り出す作業をこなすと、およそ一週間、人前に出ることはおろか、食事すらもままならなくなるのにゃ。きついにゃ」
「そりゃどうして」
「想像力が足りないにゃー。腐った死骸の山を延々と長時間掘り返すとどうなるか考えて欲しいにゃー」
「そりゃ匂いが……ぅげッ」
「消臭剤は持っていくけど、多分そこまで落ちないのにゃ……それに」
「まだあるのかよ」
ベアトリスが戻ってきた時、二人は顔を寄せて話し込んでいた。近寄り難い雰囲気に、所在なく離れた場所で待っていると、
「なんだって!?…………マジかよ」
とルークの大声が聞こえて、また二人はぼそぼそと話し込む。
「……それでも、ルークは助けたいのかにゃ?」
「寝覚めが悪ぃだろ、このままじゃ」
「お人好しも過ぎると毒にゃ~」
肝心な部分は聞こえないまま、そこで二人の話は終わったらしく、ベアトリスの方を向き、軽く手を上げる。
「いやー待たせたな。それじゃあ、さっそくお勧めの店をまわろうぜ」
その屈託のない笑顔に、ベアトリスは二人が話さないなら、と、気持ちを堪えて、
「はい、任せてください!まず、表通りにある道具屋さんからいきますね」
にっこりと笑顔を返した。




