にわか冒険者パーティ?
だいぶお待たせしてすみません。軽く戦闘描写ありです。
「お二人は、どうしてこの迷宮に?」
決して雨が降ることなく、爽やかな風が吹く草むらを、慎重に歩きながらベアトリスが尋ねる。
「あ〜……強くなるため?」
「この迷宮の中でしか、架からないと言われている、大きな虹を見るためにゃ」
「そうなんですね。私は……いなくなった父を探しに、ここへ来ました。父はこの迷宮でひと稼ぎすると行ったきり、帰らなかったので」
見晴らしのいい丘の遺跡の残骸に目を凝らしながら、金髪の少女は語る。
「ここにくればなんとかなる、きっと手がかりが、って考えてましたけど……」
そこから黙り込み、ひたすら手を動かしてイラクサの茂みの中から黄色の筋の入った茎をより分ける。
「この葉を乾燥させると、魔除けの香の材料になります。組合でそこそこの値段がつきますよ」
皮袋に束を入れて笑う少女に対し、ルークはなんともいえない複雑な表情で頷いた。
「手がかり……見つかるといいな」
気づかれないようミーシャに、
(もう死んでるだろうとか……言うなよ。絶対に言うなよ!!)
必死でアイコンタクトをとってくるいじましさである。
「そろそろ進むかにゃー」
「あ、ご存知かも知れないですが、あそこの草むらにロープがあって」
「知ってるにゃー」
「……ですよね」
えへへ、と笑うトリスを中心に、順番に降りて森を抜けていく。
「……おっと、運が悪かったな」
「向こうがにゃ」
森を抜ける直前に現れたのはデュノクスの群れでいわゆる雑魚だったが、ルークは後ろを振り返り、
「トリス、どこまで戦える!?」
「大丈夫です!自分の身は自分で守ります!」
そう宣言して杖を構えるベアトリスだったが、
ギィイイイイ!
デュノクスは横腹に槍の投擲を受け、勢いよく地面に投げ出された。
「面倒くさいのにゃ。こんなとこで時間使ってる場合じゃないにゃ」
くくりつけてある紐を使い、クナイの槍を回収して血を払いながらミーシャ。
「いや情緒どこいった」
突っ込みつつも手近なデュノクスを数頭薙ぎ払うルークに、
「わ、私も!!」
ベアトリスは意気込み杖を掲げた。頂点の魔石がほのかに輝き、彼女を包み込む。
「たぁッ」
先ほどとは違い、滑らかかつ俊敏な動きで素早く杖の先端を目の前の一頭の鼻面目掛けて突き刺し、思い切り振りかぶった。ギャウン、と悲鳴が上がる。
「殴るのかよ」
最後の一頭を抉るようにして切っ先を振り払ったルークの呟きに律儀に頷いて、
「この種類はだいたい鼻が弱いんです。そこを狙えば一発です!」
「……ナニかが間違ってるにゃー」
血の匂いが他の敵を引きつける前にと、消臭剤を撒きながらミーシャがぼやいた。
草原へ出ると、朝なのにそこかしこに戦闘の痕跡があり、他のパーティの姿も見え隠れしていた。
「みんな考えることは同じにゃ」
その呟きが聞こえたのかどうか、近くの戦士がふと振り返り、
「あれ、ハーフの。猫耳店員じゃないか」
そう手を振ってきた。
「にゃ……!?」
「あ、あなたは……」
「ミーシャ、知り合いか?てか、猫耳店員てなんだよ」
苦虫が口に入ったような表情をしているミーシャだが、
「ちゃんと冒険者になれたんだな。いや〜あれからずっと姿を見なかったから心配していたんだ」
相手は構わず笑顔でうんうん、と頷いた。
「今はそっちの人たちとパーティを組んでいるのか。あれ、君は……」
「ご無沙汰、してます」
硬い表情でベアトリスが会釈をする。
「……久しぶり。元気そうで、」
「ちょっと、シャーディ!何やってんの、もう中入るって言ってるよ、もう!」
遠くからくるくるした赤毛の女性が走ってきた。
「あれ、あんたは……」
しばらく立ち止まり、ルークとミーシャを一瞥すると、
「へえ、そう。お似合いのパーティなんじゃない?」
嫌な感じで笑い、
「ほら早く!こんなとこでのんびりしている暇ないんだから」
「お、おいそんな強く引っぱるなよ」
勢いよく遠ざかっていった。
「なんなんだ、いったい……」
ぽかんとしていたルークが振り返り、
「知り合いか?」
とミーシャとベアトリスに聞く。
「前にお金が足りなくて店で働いていたことがあるにゃ。そこのお客にゃ」
「おまえがか……似合わねー」
「うるさいにゃ」
ブンブン尻尾を振りながら嫌そうにミーシャ。
「あ、あの、私は……その、前に一緒にパーティだった人、でした。いつもそこでは足を引っぱってばかりだったので……」
「そっか……まあ、あまり気にするなよな」
「……ありがとうございます。少しでも役に立てるようがんばります!」
「その意気その意気!」
ルークが笑ってトリスの肩を叩く。
「ところで、さっきの人たちは塔に入るとかいってたにゃ。ベアトリスは塔の中がどうなってるのか知ってるのかにゃ」
「あ、はい。一度だけ、入ったことがあります。中は迷路になっていて……要所要所で‘謎解き’があります。正解を答えなければ進むべき道が現れないのだとか」
「うぅ……謎解きかにゃ」
苦手なんだけどにゃぁ……とミーシャは呟いてルークを見、いろいろ諦めた顔つきになった。
「あ、でも、そこまで難問は出ないらしいですよ。この迷宮に長くいる人からすれば、赤ん坊レベルだそうです」
「あんまりなぐさめになってないにゃ……」
そんな会話をしている間にも、いくつかのパーティがまた、連れ立って塔の中へ入っていく。
「どうする?」
「これだけ人がいるなら、情報収集といきたいところだけどにゃー」
ミーシャがきょろきょろと辺りを見回したが、あいにくと知り合いはいなさそうだった。
「あ、私この近くで薬草とか探したいです」
「いいけど、あんまり離れない方がいいぞ。おいミーシャ」
「んー、じゃあお昼ごはんの素でも探すかにゃ……」
じれったいことこの上ないが、三人は塔周辺を一度見て回ることにした。
ほぼ同じ時刻、第一迷宮内。ジョシュアとティティムは、ミーシャたちからさほど離れていない西の湿地帯を探索していた。
「うわくっせえ。もはや湿地じゃなくて沼地だなこりゃ。ドブさらいかよ……タグ反応も弱えし使えねー」
「あのーなんで僕はここに連れてこられたんでしょうか……見習い研究員なんですが……」
「そりゃおまえ、仲間として親睦を深めるからに決まっているだろうが」
「え、と、サーザイルさんは?仲間になるっていってましたよね……?」
チッと舌打ちし、ジョシュアは、
「なぜおまえと、とかってふざけやがってあの野郎。脅して約束を取り付けたはいいが、今度は今受けている依頼が終わるまで待てとかいいやがる」
それ普通なのでは、とティティムは思ったが、言える雰囲気ではないので黙っていた。
「まあ、ちょうどいい。おまえの実力も試したかったところだ。ここで死なないだけの力量はあるんだろ?ほらお出ましだ」
にやりと笑い、大振りの剣を構える。その向こうで、沼が泡立ち、ザバリと泥の地面が盛り上がっていく。
「だから主に仕事は事務だと……」
弱々しい反論も、もはやジョシュアは聞いてはいない。
ティティムは早々と、この話に乗ったことを後悔し始めていた。
次はさほど更新まで間隔を開けない予定です。




