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物見の塔

お待たせしました。遅々としていてすみません。

崖の岩を切り出して作られたのだろうか、窓も梯子も、すべてが白味がかった砂色の石の塔に、ミーシャとルークは、しばし圧倒されていた。


「すげえな。中はどうなっているんだろう」

「まずは覗いてみるかにゃ」

梯子を少し上り、手近な格子窓に手をかけると、キィと音を立て、簡単に開いた。それとわかる鍵もなく……内側の小さな四角い空間は暗く空っぽ。

「むむっ……」

他も覗いてくる、と、ミーシャはタン、タンッと梯子を蹴って上にあがり、器用に細長い隙間に手と足をかけ、横へと移動しては、次々覗き込んでいく。

「どうだ、めぼしいものあったか?」

器用さにさほど自信はないルークが、梯子に掴まったまま尋ねると、だいぶ向こうで動きを止めたミーシャが、手招きする。

「なんか入ってるにゃ!」

「そこまで行くのかよ……」

カンカンカンカン、と同じ高さまで梯子を上がり、わざわざ細い溝に手と足を引っかけただけの危うい体勢でルークへ手を振るミーシャを見た。……下からの風もそこそこある。


「いやムリムリ。いいから教えろよ」

はいはい、とばかりにミーシャは一度、つるりとした石色の格子窓と、下側の、おそらく鍵穴であろう小さな窪みを確認した。細長く平たい板なら差し込めそうだ。


次に、中を覗き込んだ。薄暗がりだがミーシャには大したことはない。


精巧に彫られている、目を閉じうずくまる鳥と、巣を模しているにしてはまばらな紐。


「なんか石の鳥がいるにゃ!本物そっくり……おいしそう……」

「おい……」

呆れながらもルークは、梯子からもう一度、聳え立つ塔とまだまだ頭上に続いている窓の群れを見上げた。これと同じ形状の建物に、見覚えがある。


「そうか!ここは……鳩舎、鳩舎だな、きっと」

「厩舎、旧舎?……なんの?」

「?……だから、ハトだろ?」

「ハト……?ああ、確か、主に人族とかの集落コルニにしか存在しない家畜化された絶滅危惧種の鳥類のことかにゃ」

「なんでだよ。伝達でよく使われるだろが。鳩の足に手紙を結んで飛ばすんだ。大きな町や村で、見かけたことがある」

集落コルニの境界出たら弱すぎて魔獣のおやつにゃ」

「……まあそうかも知れねぇけど。ってか、お前んとこにはなかったのか?」

「あたしのとこは……父親曰く、『僕には彼女が必要なのに周りがうるさいから、断絶シャットすることにした』とかで、辺境の森どころか、砂漠の孤島、手紙なんて出す相手もいない生活だったにゃ」

「へ~……大変だな、そりゃ」


ルークは軽くそう返したものの……深く考えると、何かヤバい話のような気はする。


「そんなことより、この塔……上にロープが張ってあるにゃ」

「あ?ああ、本当だ。崖の上と繋いであるな。見えなかった」

確認のため、また梯子を一心に登っていく。遠くで円を描き飛び交う鳥型の魔獣は、決してこちらに近づいてはこない。


 違和感を抱きつつも頂上に辿り着くと、

「うわ……尻がむずむずするな」

「わぉ~絶景絶景」

一帯が見渡せて、眼下に森と、一面の黄色………モザイク模様の絨毯のような草花が広がり、突如として、人工物とはっきり分かる塔が、まっすぐ等間隔に聳え立っている。


おーい、と崖の方から遠い声が聞こえ、ロープの向こうの小さな影が、

「そこの、どいたどいたァ!」

ミーシャとルークが振り向き、武器を構える間もなく、白く目立つ羽飾りのついた装備に褐色の肌をした女性がロープを勢いよく滑り、迫ってきて、決して広くはない頂上に、ストン、とポーズを決めて下り立った。


「よっしゃ、バッチリ」

そう小声で呟く相手は笑顔だが隙がない。そして、ここは狭く高い塔の上。


 ルークとミーシャは互いに見交わし、手をあげて、敵意がないことを示してみせた。



「いやぁ悪い悪い。つい確認せず下りちまった。まさか人がいるとは」

照れくさそうに頭をかきながら、彼女はフィリッカと名乗る。

「いや、気にしてない」

「大丈夫にゃ」

彼女が敵意ある存在かどうかもわからず、ルークたちは社交辞令的に挨拶を返す。


「おまえさんたち、まだひよっ子だな?ここを見つけるなんて、よっぽど縁か、運に恵まれたか」

バシバシと手近なルークを肩を叩き、にししと笑う。


「まー警戒すんな。どうかするつもりならとっくにやってる。あ、っと、ちょい失礼」

腰から単眼式望遠眼鏡を取り出し覗き込むと、まだか……と呟いて再び仕舞った。

「ここはいいとこだろ?レイの領域の中でも、一番好きなんだ」

ビュウ、と時折吹く強風を隙間の空いた石の手すりに掴まって互いにやり過ごしながら、

「‘物見の塔’とは、洒落てるよな。無数の窓の一つ一つに、同じ数だけ物語がある……なんてロマンじゃないか」

あーこんな風さえなけりゃ、一曲歌いたくなっちまうなぁ、と大きく伸びをした。


 何を言っているかよくわからないが……。

「歌い手、なのか?」

大多数の冒険者とはどこか違う雰囲気と、フレンドリーな様子に、ルークは戸惑いつつも、

「ああ。ほら、組合ギルドのさ、ティナさんっているだろ?めちゃくちゃ歌も踊りも上手でさ、憧れなんだ。ほら、笑顔の練習もしたんだぜ?」

くったくのない笑顔を見せる。

「ま、あっちはトップ、こっちは場末の……おっと、来たな」

少し離れた場所から、地響きが聞こえてきた。土煙の合間に黒く点々とした何かがちらつく。

「お~首尾よくやれたようだな。1、2……5頭か。上々!」

フリッカが望遠眼鏡で角を持つ毛長牛の背中と、その手前に赤い旗を煽るように振って猛ダッシュでこちらに向かう男を捉えた。


 ひらりと塔の頂点から飛び降り、途中の梯子を掴むと、そのまま待つ。地響きは近くなり、しばらくして、

「挑発しすぎだろこの馬鹿野郎!!」

「だってよぉ……せっかくなら魂を込めてどーんとやるべきだろが、どんな時でも、例え相手が獣であっても!!」

「時と!場所を考えろよせめてこのちくしょう!!」

「わかった。ここは俺が食い止める!さあ、俺の歌を聞けぇえええ!!」

「歌ってるヒマあるかこのクソ!!」

聞き苦しい叫び声が聞こえてきた。


 モヒカンに鼻ピアス、毛皮鎧といった派手な服装の男と、長めの髪に目つきが悪く瘦せ型の男が牛を引きつけ――――というか追い立てられ、必死でこちらを目指し走り来る。


「おー、おまえらよくやった!」

ちょうど下を通るタイミングでフリッカが跳躍し、牛の背に跨って角を掴んだ。当然牛は振り払おうと、いきり立ち、荒れ狂うのを、すぐさま縄を首に巻きつけ、落としにかかる。


 ズゥン……!!


「一丁上がりっと」

牛は泡を吹き倒れ、同時にひらりとフィリッカは地面に降り立った。


「こいつの角は薬になるから、ギルドで高く売れるんだ」

ペチペチと死んだ牛の顔を叩き、下りてきたミーシャたちに彼女は言う。

「あっちは、ほっといていいのかにゃ?」

ミーシャが牛に追われ遠ざかる男たちの背中を指すと、

「ああ、慣れてるから……あ、そうだ。今のうちに耳塞いどいた方がいいぞ。あいつの歌は強烈だから」

あっはっはと笑いながらフィリッカがいい、そのとおり崖側から、音の暴力、としかいいようのない音楽と、がなり声が聞こえてきた。


「うっ……了解にゃ」

「俺はあんまり感じねぇけどな」

ミーシャが耳栓をし、ルークが首を傾げる。

「あそこの崖に爆雷蜂レッド・バルーンの巣があってな。攻撃すると、一斉に攻撃を仕掛けてくる。気をつけろよ。刺された場所が膨れて破裂する猛毒だ」

「うげっ」

ルークが想像したのか顔をしかめた。


「音で対抗するのかにゃ?」

曲(?)が収まった気配を感じ、ミーシャがおそるおそる耳栓を外す。

「そう。羽の振動と同じ、一定の周波数を出して仲間と思わせる。虫は歌の良し悪しなんか理解できないからな。売れる歌手には程遠いぜ……」

フィリッカが遠くを見やって失笑した。

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