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冒険者ギルドの謎

お待たせしました。いつもよりほんの少しだけ長めかも知れません。

その夜。ルークとミーシャは馴染みになった酒場で飲み直していた。ど真ん中に山と積まれた豆をさやごと口に放り込みながら、

「……なあ、ベアトリスのことどう思う?」

「どう、って言われても困るにゃ」

ミーシャもいつもより控えめに、肉の串焼きを数本頼んでぐびりと黒麦酒エールを呷る。

「……顔色もよくないし、髪はパサついてあれじゃ収穫期の農夫よりひでぇ」

ぴくっ、とミーシャの耳が動く。

「……あーそっか、弟妹いるならわかるかにゃ」

「何か事情があるんだろ……できることなら、助けてやりてぇな」


 別にミーシャは、このお人好しが、などと責めたりはしなかった。ただ黙って口から串を引き抜き、豆の入った大皿に視線を落とす。


 この時期、さや豆は馬鹿みたいに安い。貴重なたんぱく質である。


「いや、あんまし余裕ないのはわかってる……」

ルークが乾いた笑い声を立てた。


 安い酒は味は不味いがひどく酔いはまわりやすい。ちびちびと飲んでいたはずが顔を真っ赤にしながらルークが、

「ああ、しかしよぉ……あのギルド……あまり知り合いに会わねえな。それも、ランクが上の奴ばっか」

くだを巻きながらぼそぼそと零す内容には、もちろんミーシャも覚えがある。


 この迷宮都市にきてしばらく。普段二人が行く組合ギルドには、驚くほど上級ランク者の姿がなく、それどころか、あるはずの迷宮の他領域の情報さえ入ってこない。集まる者の多くは、駆け出しだったり、まだ下級の冒険者ばかりで、第一領域であるレイの情報を必死で搔き集め、止まりで、やみくもに少しでも手がかりを探そうと必死になっているようにみえる。


「おっかしーな……受付のねーちゃんは親切だし、あんなに活気があるのに……どうしても違和感があるんだよな……見えない隔たり……」

あれだ、おそらく別の受付が俺たちがあまり寄らない、商業地区のどこかに……とか重要な話をしながらこっくりと夢の入り口をさまよっていたルークは、肘が外れてドカッ、と頭を打ちつけた。


「そこまで気づいていながらーなんの相談もないのはどういうわけにゃ」

「………あ?あ~、やっぱりおまえも気づいてたんだな?そりゃそうだよな……ちらほら街で遠目に見かけてはいたんだよ。ただ、ちょっと話しかけ辛くて……この町は区域ごとに毛色がはっきり分かれてるだろ」

いててて……とおでこを押さえるルークの視線が、付け根が白で、その先が夕陽色の縞になっているミーシャの尻尾に落ちたので、不快げにぶんぶんと振ってみせる。

「発想がおのぼりさんにゃ。この町の商業地区は、大規模な集落コルニと同じようにお客の層で分かれているから、一部敷居が高く感じるのは当たり前にゃん。ただ、その中でも多くの人が集まる場所というのは、限られてくるにゃ」

「ああ、そうだな。これは予想なんだが……今の俺たちが行っても、門前払いを食らいそうなんだよな。このギルドのシステムといい……なんでこんな仕組みになってるんだろうな。ここまでして……ギルドが外から隠したがっているものはなんだろう?ミーシャは……知ってるのか?」

心底不思議そうなルークに、苦笑しながら頷き返す。

「もちろん。ちょっと考えればわかることにゃ。ここだけに限らず、迷宮都市が栄えている理由……迷宮は貴重な資源、高度な技術を持つ遺産アーティファクトを持つ、宝物庫にゃ。鍵をかけて厳重に管理しておかないと、中身を盗みたがっている輩はたくさんいるのにゃ。……アーティファクトに使われている技術が少しでも流出すれば、この世界の地域地図が一つか二つは、書き換わるといわれてるにゃ」

「ふぅん‥…詳しいんだな……まったくおまえも謎だよな……また話せよそのうちに」

もう寝る、しばらく俺は寝る、起こすなよと眠そうに呟いてルークは突っ伏し、寝息を立て始めた。その様子を苦笑しつつ眺めてからミーシャは、

「おっちゃん~骨つきチキン追加で二つ!」

やっぱり豆では足りなかったので、夜食を摘まむことにした。


眠い目をこすりながら商店街を探索して、人が集まりそうな場所に目星をつけたが、高級店は門前払い、両替所、金品預り所は入り口の警備員に、このカードの階級レベルでは入れません、と、丁寧な説明とともに入室を断られた。

 出入りする客の中には、「ここは貧乏人のくる場所じゃねえぞ」とはっきり言う奴もいて、朝から滅入りながらも、市場に下り、下準備を終えて‘ゲート’を目指す。


 ……まだ、ベアトリスが彼女が信用できるかもわからない。行動をともにする前に、行っておきたい場所があった。


例によって貸騎獣屋からのオルトスを借りて眺めのいい丘まで進み、そこで騎獣を帰すと、

「お、まだあった」

北の茂みを探り、前に発見した、崖の下まで続くザイルの下り口に立つ。


「……誰が設置したんだろうな、これ」

ザイルは鋼のように硬く、固定されびくともしない。

「さっさと下りるにゃ」

ミーシャが太めの毛皮を綱に巻きつけて両側の穴に手を通し、空を背に地面を蹴った。

「毎回のことながら、思いきりいいよなぁ……」

そのままズ、シャァァァーーーーと真下へ勢いよく滑っていく。ルークも同じく毛皮を頼みの綱に、足を踏み出した。


 飛び交う岩裂鳥クラッシュバードのせいでほとんど止まることもできず、冷や汗をかきながら下に着くころには毛皮はボロボロで、

「後一回ぐらいは使えるか……」

「また狩ればいいにゃ。猪の皮だから楽勝にゃ」

そんな話をしながら、黄色の花の咲く草原に立っていて一番わかりやすく目の前にある塔を目印に進む。


 森林づたいに空高く飛び交う鳥なのか羽の生えた蜥蜴なのかよくわからない生物から身を隠しながらゆっくり進んでいくと、同じく冒険者と思しき一団が背の高い草むらの茂みに隠れ、すぐに見えなくなっていく。


 シャァアアアッ!


 突然草むらが割れ、大きくはないが麻痺毒を持つ蛇が飛び出してきて、すかさずルークは抜いていた剣の先を向けた。


 ぐっさりとその大口に剣が刺さりのたうつ蛇をかかげ、

「……なんでこいつらは毎回馬鹿みたいにまっすぐ向かってくるんだろうな」

遠心力で頭部を撥ねながらいうルークに、

「直線距離が一番逃げられる確率が少ないにゃ」

すかさずミーシャがクナイでその皮を剥ぎ、中身を香草と布で包み込んだ。

「いやー、俺もだいぶ慣れたと思わないか?」

「それより、早くここを去らないと」

「まあ、そりゃそうなんだが」

少しばかり不満げにしながらも剣の血を拭い、匂いを香草で消しながら歩いていく。


 羽虫の群れに遭遇すること三回、二足歩行の小型蜥蜴の群れに襲われそうになること二回。さらにしばらくいくと、ミーシャが立ち止まり、

「ちょっと待つにゃ」

軽く地面を掘ってピタリと耳をくっつけ、水音を確認する。少し進めばもう湿地帯なので、どこかにちょうどいい水場がないかと探すつもりなのだろう。


 コポ、コポリと小さな水の振動が地面から聞こえ、

「ルーク、この近くの森に水源があるにゃ!」

西の森を指差したミーシャは、いいながらも姿勢を低くしながら素早く森の中へ入っていく。

「おい待て!……まったくよぉ」

ガサガサとルークも茂みを掻き分け、森の中へ入っていく。


 小蛇や、フロッグなどを振り払いつつ向かう先には、確かにミーシャの言うとおり、大きな泉があった。


「ちゃんと魚もいるにゃ!」


 ドス、ドスドスッ


 クナイと棒で作った銛で、泳ぐ魚を二、三匹捕らえ、ぶんぶんと嬉しそうに尻尾を振って笑顔を向けるそのさまはまさしく狩人である。

「……少し早いが食事にするか」

「もちろんにゃ」

うきうきと石や小枝を集めて着火剤に火をつけ、先ほどの蛇と魚を串に刺して再び泉へ向かう。


「おい、まだ捕るのか?」

「当り前にゃ。湧き水に棲む魚は臭みがなくて美味しい、これ常識にゃ!」


 手のひら二つ分ほどの魚を新たに二匹取り、今度は草地を掘って石を並べ火を焚き、濡らした香草を巻いた魚を置き、さらにその上に土を被せて外側を固め、穴を開けて蒸し焼き状態にする。


「これでしばらく待てば、燻製のかんせいにゃ!帰りにまた通って回収するにゃ!」

「おまえほんっとこういうことの知識はすげぇよ。感心するぜ」

毒があるかないかと、ちょっとした薬になるかどうか。そして何より重要な風味づけとして向いているかどうか、それ以外にはまったく興味がないのも、徹底している。


 焼いた蛇と魚を食べているうちに、太陽は頂点へと達して気温が上がる頃、ドドドドド、と激しい蹄の地響きと、バキ、バキッと木の薙ぎ倒される音が次第に近づいてきた。


「おい、何か来たぞ」

「あの音はきっと耳長牛の群れにゃ。改良品種が農家でも飼われているにゃ。迷宮内だとさらに肉が美味になると聞いたにゃ!」

「いいからすぐに退くぞ!さすがに数が多すぎる」

「ああ~貴重なお肉~」


 火消しもそこそこにミーシャの腕を掴んで走ると、後ろで巨大な牛の群れが泉に殺到するのがはっきりとわかり、さらに足を速めて森を突っ切り、湿地帯に出た。


 バシャバシャと冷たい水の湿地から緑と黄色の小さな花が混じり合う草地へと抜けると、すでに他の冒険者に倒されたのか、小動物の残骸があちこちに散らばっていて、すでに骨と皮しかないその姿にぞっとする。


「しっかし、あまり寄り道してる奴はいないな……」


 草原の真ん中を、鹿のような獣に乗って進む者、ルークたちと同じように草地と森に隠れながら歩く者。その多くがまず真っ先に目の前の塔に向かい、高くそびえる塔の周りにしばらく留まったかと思うと、また違う方向にそびえる塔を目指して離れていく。


 塔へ集まるのは、中へ入ることだけが目的ではない。物々しく他者を拒む堅牢な姿でそびえたつ塔は、正確な一定距離と方角を保っているため、迷わないようまず塔を目印に、それぞれの方角を目指すのが冒険者たちのお決まりのコースとなっている。


 いったい、誰がどのように建てたのか。何のために建てたのか。なぜ‘試練の塔’と呼ばれるのか。……それらはすべて、未だ謎のまま。


 珍しく哲学的なことを考えながら、最初の塔から北の側の塔、さらにその向こうを目指し、森に入って虫や爬虫類を退治しながら崖へ近づいていくと、崖と同じ石の色、同じ高さで作られ、遠くからではまず見つからないようになっている、塔を発見した。


 その塔は‘物見の塔’の名にふさわしく、崖とほぼ同じ高さの頂上まで長い梯子がついており、その塔の壁一面にびっしりと小さな格子窓が作られ、薄暗い奥を覗けるようになっていた。

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