組合《ギルド》鍛練場
大変お待たせして申し訳ありません。
ブルーノと連れだって組合受付にいくと、そこにはいつもと違い、やたらガタイのいい黒髪三十路の受付嬢(?)がつまらなそうに佇んでいた。
「お、カタリーナか。珍しいな」
「何しに来たんだいブルーノ。冷やかしなら帰んな」
しっしっと手を振ってみせるが、
「冷やかしじゃない。こいつらを鍛練場に案内してやろうと思ってな。カタリーナは手伝いか?」
彼女はふん、と鼻を鳴らし、
「まあ、ちょっとした小遣い稼ぎさ。あんたら初めてかい?それならそこの箱にライセンスを通しな」
言われたとおり箱形装置にカードを各自くぐらせると、
「おお、なんか光った」
装置が仄かに光り、ルークが声を上げた。いまだ口数が少ないミーシャの横で自分のライセンスをかざし、
「で……いったい何が変わったんだ?」
「これで登録が済んだ。まずはお試しで一ヶ月間、無料で使って、後は料金が発生するよ。一回分と一ヶ月で分かれているから、後は現地で聞きな」
さっさといけ、と手を押しやった。
組合の案内所を出て、ブルーノは市場から、独立した店の立ち並ぶ、いわゆる商業地区には入り、ふいっと裏通りから北西へ向かい、‘組合私有地につき、この先の鍛練場をご利用の方は受付へどうぞ‘と書かれた看板を抜け、手入れの行き届いた明るい森へと入っていく。
飛び石が見え隠れする小道を進むと、視界が開け、屋根の低い大きな円形の建物が現れた。
「こっちだ」
下りスロープを通り入り口へいくと、ドアが左右にひとりでに開いた。
「な、なんだこりゃッ」
「…………ドア前の石がわずかに沈んだにゃ。重さに反応して、滑車かなにかで開く仕組みになってるにゃ」
「おっ、詳しいな。そのとおりだ」
はははと笑うブルーノに続いて足を中へ踏み入れると、そこはちょっとした待合のホールになっていて、受付の後ろ、右と左にそれぞれドアが一つずつあり、どうやらその片方が鍛錬場に続いているらしかった。
「なんだ、考えごとはもういいのか?」
とルークがからかうように問いかけ、
「もういいにゃ。悩んでいたら、あんまり悩んでも仕方ないことに気づいたにゃ」
そうミーシャが胸を張る。
「なんだそりゃ」
笑いながら顔を上げると、受付のカウンターにはまるで光り輝くような美少女が、こちらに微笑みかけていた。
「いらっしゃいませ。初めての方ですか?」
「うぉッリアル美人」
きめ細やかな透き通るような肌と肩過ぎまであるさらさらと零れる金髪、澄んだ空色の瞳を持つ、まだ幼いとさえ言える少女。彼女が会釈をした途端、こぼれた髪のあいだから長い耳が覗く。
「なんだ~エルフかにゃ」
「え、やべえこれが本物のエルフ……!!」
「キャロラインと申します。ご利用ならどうぞこちらに許可証をご提示ください」
少女は笑んだまま平たい白い石を指差し、
「おう、よろしくな!」
ブルーノがライセンスをかざし、再びルークとミーシャが続く。
一通り案内を受け、まず向かって左側の鍛錬場へと向かう。右はサウナ式浴室で、別途の料金はかからないため、多くの者が利用するらしい。しっかりと中で男女別になってるのでご安心ください、と妙に力を入れて説明してくれた。
扉を開けて鍛錬場へ進むと、そこは熱気であふれていた。ほとんどの者が、壁に飾られている模擬武器を使い、打ち合いをしている。
入り口近くにいた男たちがちらりとこちらを見てかすかに眉をしかめたが、特に何を言うでもなく、再び打ち合いに集中が戻っていった。
カン、カンと鈍い音があちこちで響く。
「ここのは、自由に借りていい。木剣の他に、刃を潰した武器もある。……よし、久しぶりに打ち合うか」
「ああ、いいなそれ」
ルークが手近な木剣を取り、ブルーノも木で斧を模した武器を手に向かい合う。
(生き生きしてるにゃ)
ルークにもミーシャにも、心おきなく付き合える相手は少ない。楽しそうなルークの邪魔をしちゃ悪いと、ミーシャは広々としたドームの中を見渡した。
「あれは……。鬼なんて珍しいにゃ」
ちらりとルークを見ると、ブルーノの斧を受けざま剣を振りかぶり、
バキッ
「あの~一応備品なので弁償してくださいね」
ドーム内の係員に注意されていた。
「はっはっ、力任せに受けるからだな」
「なにッ、いや、まだだッまだ使えるぞ」
半分になった剣でなんとか斧を弾いている。
その様子を生温かい目で見やってから、先ほどの鬼族に視線を戻すと、こちらに気づき、気さくに笑いかけてきた。
銀髪から生えた角と漆黒に塗り潰された瞳。毛皮の鎧から見事に割れた腹筋。
(まさしく鬼族にゃ……)
確か彼らは、と種族の特徴を思い出していると、
「寥牙さま、よそ見しちゃだめですよう」
向き合う、茶髪ショートボブね胸の大きな女の子が彼の腕にしがみつく。
「いや、ハーフの子は珍しいなと思ってね」
「いま相手してるのはあたしだからねっ」
ぷくっとふくれてみせるその子の隣には、これまたグラマラスな美女が、早くしろとせかしている。
恨めしげな顔をした男たちが二三人、寥牙と呼ばれた青年の後ろで中指を立てたり、親指を下に向けているのが見えた。
「ミーシャ、終わったぞ……うわ、なんだあれ」
ルークが顔を歪めて女に囲まれている鬼族を見やり、
「はぜろ、リア充が」
ビシッ、と中指を立てた。
「俺が、こんなに仲間集めにくろーしてるっつーのに、あの男許せねえ……」
「あ~やめるにゃ。今のルークだと勝てないし、そもそも腹を立てるような話でもないにゃ」
「ああ!?どういうことだよ」
ぎろりと睨むのに苦笑しつつ、
「猪族と鬼族の昔話にゃ」
「オークがもういねえってのは聞いたことあるぞ」
それにゃ、とミーシャは頷いて、
「猪族と鬼族はともに女性が生まれにくい種族にゃ。当然、他に求めるしか方法はなく、猪族は、他種族を襲っては略奪を繰返したため、恨みを買い、ついには滅んでしまったにゃ。鬼族も昔は略奪をしていたにゃ。ところが、先にこのままでは行き詰まると気づき、種族をあげて考えた結果が……あの姿にゃ」
あれ、とミーシャが鬼族を差す。
「顔立ちや体はむしろごつい感じなのに、清潔感があり、なおかつ筋肉のつき方が均等で美しさがあるのは、意識しないと無理にゃ。加えて、女性の扱いはおそらく徹底的に叩き込まれているから、モテるのは当たり前。というかモテないと種族が滅ぶから切実にゃ」
訳知り顔でミーシャが頷く。
「てめえ、いい加減にしろや!?」
叫び声が聞こえ、我慢ならなかったのか、数人の男たちが向かっていく。
「だから、うかつに向かっていくと……」
青年が模擬用の円月刀をすらりと抜く。
「……ただの引き立て役にゃ」
思わずほれぼれするほどの半月斬りが決まり、
「安心しろ。峰打ちだ」
その場は歓声(主に女性の)で、包まれた。




