夜を越えろ 6
お待たせしました。キリがいいので短めです。
デルタの張った結界のおかげか、時折ガッツンガッツンとぶつかってくる魔獣はいたものの、何事もなく夜が明けた。
ミーシャは早朝、出立の準備で忙しい合間に、ビオラたちパーティを見つけて駆け寄った。
「あの……ひとつ聞きたいことがあるにゃ。組合の鍛練場ってどんな場所かにゃ?」
「受付にカード見せて、聞いたらすぐ案内してくれるわ。別に種族によって差別とかもないわよ」
「ありがとにゃ」
ミーシャが素直に頷く。組合において‘カード’は通称であり、カード型リンク許可証を指す。
「そういや、俺からも一つ聞きてぇことあったんだ」
幕を張るとき深く刺さりすぎた杭を引っこ抜いて放り投げ渡したアイザックが、わざわざ側にきた。
「その武器。どこで手に入れた?」
ミーシャの腰のクナイを指して問う。
「アイザック……!!」
ビオラが止めに入る横で、ピクリと興味深げに耳を動かすデルタ。
「どこから見ても新人、しかも地方出の奴に、不相応なんだが」
揶揄るでもなく、真顔のアイザックに、表情には出さないが、耳を伏せたまま嫌そうなミーシャが肩をすくめた。
「ちょっと!!……デルタ、‘耳避け’して」
「了解ニャ!」
デルタがすぐさまアイザックの周囲に遮音の結界を張り、少し離れた場所で杖をマイク代わりに、ノリノリで踊り始める。
作業している人たちは最初驚いたものの、ああまたか……みたいな表情ですぐに自分たちの仕事に戻っていく。
「ザック、いきなり地雷を踏むような真似は」
「気になるもんは気になるんだよ。迷宮産だろ、それ」
鋭い眼光を受け流しつつも、ミーシャは溜め息を吐き、
「これは両親から譲り受けたものにゃ」
隠しているわけでもないので、素直にそう告げる。
「親の名は」
さらにアイザックは追求をやめず、ミーシャは苦く笑いながら、
「……教えられないにゃ」
肩をすくめてみせた。
「なるほど。悪かったな」
あまり悪いとは思っていない風情でアイザックはにやっと笑い、
「お返しに教えてやるよ。俺たちが調べていた塔から北にいくと、崖に紛れるようにして‘物見の塔’と呼ばれる場所があり、そこは一見の価値がある」
「覚えとくにゃ」
ミーシャは苦笑いのまま答え、ペコッと頭を下げて様子を窺っていたルークの元へ戻っていく。
「アイザック……いくら彼女が新人だとしても、今の質問はちょっと」
「しかも、‘物見の塔’まで教えちゃって、悪手ニャ悪手」
渋い顔で諌めるビオラとブーイングするデルタに、
「あ~、悪い悪い」
アイザックはガシガシと頭を掻きながら、
「ちょっと気になってな。あのハーフが持つ武器の材質……鋼のようだが違う。稀金属だぞ」
「マジかニャ。もっとよく見とけばよかったニャ!」
デルタが惜しむようにブンブン杖を振る。同時に、ささっとビオラがまわりを確認し、まだ遮音の結界が有効だと気づき、胸を撫で下ろした。何事かとこちらを振り向いた二、三人に笑顔でごまかしておく。
「はぁ………面倒ね。組合に報告は?」
「しないに決まってるだろ。ま、わずかでも同じ飯を食いあった相手だ。そしてな……あいつの父親、思い当たっちまった」
「ニャッ!?そんな簡単にわかるわけないニャ」
「ヒントそのいち。レア武器に加えて親の名を隠すということはおそらく有名どころ。ヒントそのに。賢猫とのハーフ、あれぐらいの歳ごろ」
「……あ~!ニャニャニャァッ」
「デルタ、魔法は効いてるとはいえさっきから声が大きいから!!」
「ごめんニャッ。でもこれは大変ニャ!ミーシャの父親はあいつニャ!僕ら賢猫族のアイドル、癒しの魔術師ユリシーを拐った変態魔導士フェルメルだニャッ」
「フェルメル……聞いたことないわね」
ビオラが真面目な顔で言う。
「組合でも超ッ有名な、‘人嫌い’の代名詞だニャ!」
「そ、本名フェルメル・ヘイズラッド。知らん奴はいないぜ」
うんうん、とアイザックが頷く。
「あ~……あの……よく、愛想が悪いと『おまえ、ヘイズにはなるなよ』っていう奴ね。あれ、何かの魔獣の一種かと思ってたわ」
「優れた研究者であり、魔術師だったみたいだな。なんか逸話の方が凄すぎて、いまいち現実感のねぇ……。気に入らない相手に毒を飲ませ、腐り落ちるのを放置したとか、人族と獣人が魔獣の襲われた際、迷わず獣人の方を助けて人は見捨てたとか、その手の噂にはこと欠かねえ。うわ、思い返すだけで寒気がしてきた」
ぶるっとアイザックが体を震わせる。
「とりあえず、極秘でいいかしら」
「ああ。ていうか忘れろ。俺も忘れたい」
遮音の結界が解除されたのに合わせて、あの、そろそろ出発しますよ、と、遠慮がちに声をかけてくる組合員にビオラは手を挙げて答え、
「これが終わったら厄払いに飲みにいくニャー」
珍しくデルタが覇気のない声を上げた。




