夜を越えろ 3
短めですがキリがいいので投稿します。
アイザックの今日の装備はスピード重視。
第三領域の怪鳥シモングの黒毛を使った網目が特徴的な革鎧と揃いのブーツに備えつけられた風の魔石の効果で瞬く間に距離を詰め、岩裂鳥の気を引くため叫んだ。
「バカ鳥喰らいやがれッ」
叫びながら抜いた赤銅色の剣はその丈が伸び、背の高い彼の、さらに二倍近くまで変化する。その縁が燃えるように輝いた。
遠見眼鏡を覗くデルタがおおー、と声を上げ、
「焼き鳥だニャん。どうするニャ?」
「……ちょっと心配だから、加勢するわ。デルタ、ボードを貸して」
ビオラが手を出すと、デルタはささっと手で後ろに背負った飛行板を押さえ、
「これは、この前カスタマイズして色も塗り替えたばかりなんだニャ。あいつに任せとけば大丈夫だニャ!」
「ぶっ飛ばされた人も気になるから、貸して」
「うぅ……仕方ないニャ。絶対汚しちゃ駄目ニャ!」
「それじゃ迷宮で使えないでしょーが」
そんなやりとりののち、しぶしぶ渡された飛行板のベルトに片足を固定しキュイイィンと機械音を立て起動するのを待って地面を蹴った。
「ここはお願い」
風の魔石の保護つき飛行板はお金をかけただけあって、速度を上げても空気抵抗をほぼ感じることはなく、ビオラはアイザックの元へ急ぐ。
そして一人塔に残ったデルタは、物問いたげかつ、どこか責めるような他の職員の視線に気づくと、
「大丈夫ニャ!索敵かけた感じだと近くに危険はないし、念のため結界も張っとくニャ!」
トン、と持っていた杖で魔方陣を描き、魔獣避けの結界を発動した。
「あらら、こんなとこまで」
ビオラが吹っ飛ばされていたルークの腕を掴み飛行板に引っ張りあげたのと同じくして、驚異のジャンプ力でアイザックが岩裂鳥の羽根を狙い斬りつける。
「たぁあああ!」
羽ばたきの風で圧されるも、難なく体勢を立て直し、
「おい、これをつけてろ!」
具合悪そうなミーシャに特別製の耳栓を放り渡し、再び今度は足元目掛けて斬りかかる。
どう、と岩裂鳥が倒れた。羽根の下に生えた鱗がギラリと光を反射する。
番の危機に、食餌をしていた岩裂鳥が首をもたげ、咆哮をあげて突進してきた。
飛行板の上でそれに気づいたビオラは、運ばれる最中に目が覚め、「た、助かった」と呟くルークを低空飛行で草むらに落とし、器用に足でそのままの速度を維持しつつバランスを取りながら弓に矢をつがえた。
三連の長弓に、魔導回路が組み込まれた赤と朱色の鎧が反応し、炎の魔石の矢じりに火を灯す。すぐさま3つの矢は放たれ、岩裂鳥の横っ面を殴りつけた。
その隙を逃さず、アイザックが倒れた岩裂鳥の首を斬りつけ、落としにかかる。断末魔の悲鳴。
番の最後を悟ったもう一体は、チリチリと焦げた頭を振って火の粉を振り払い、力強く羽ばたいた。
低く滑るように走り、獲物を掴んで空へ翔け上がっていく。
そこへ剣を振り追い打ちをかけようとしたアイザックを、ビオラが止めた。
「やりすぎはよくないわ」
「……そうだな」
すぐさまその方向を変え、アイザックは絶命した岩裂鳥へその剣を突き立てる。
切り開かれたその胸から、透き通った心臓部、いわゆる魔核と呼ばれる玉がまろび出た。
それを丁寧に懐に仕舞い込み、ふぅ、と一息吐いて呼吸を整えると、アイザックは茫然とこちらを見ている冒険者の二人に話しかけた。
「……無事か?」
「す、すげえ!どうやったんだ、今の!?」
ルークが興奮してアイザックに駆け寄り、あ~、なんだその……と言い淀む隣で、ビオラがクスクスと笑う。
「これは、その、あれだ。お前も鍛練すりゃ、このぐらい簡単にできるようになるさ!」
「じゃあ、教えてください師匠!」
「いや、それは無理。自分でなんとかしてくれ」
きっぱりと断られ、がっくり肩を落とすルークの横で、耳が垂れしょんぼりしたミーシャがクナイを鞘へと納めた。
「助けていただいて、ありがとう、ございました」
その言葉にルークが首を傾げる。
「おまえ普通にしゃべれたんだな!」
「言い方失礼にゃ。気合いを入れれば、きちんと話すことぐらいわけないにゃ!」
「ふふ、うちにも賢猫族がいるのよ。よかったら、寄っていかない?」
ビオラがふわりと穏やかな笑顔で微笑んだ。
アイザックが岩裂鳥の魔核を入手する傍ら、ビオラは空高く飛び去ったその片割れを見送りながら、
「番の仇討ちより獲物を運ぶことを優先するなんて……きっと育ち盛りのヒナがいるのね」
そう、独りごちた。




