それからいろいろありました
結局身を切る思いでマッチングシステムに登録することにした二人は、小さな依頼をこなしつつ日銭を稼ぎ、どうにかやりくりしていた。
組合を出入りしていると、絡まれることも増え、‘混ざり者が、調子に乗るなよ’とすれ違いざまささやかれたことも一度や二度ではない。
異種族のハーフらしき雰囲気を持つ冒険者自体は見かけるのだが、目深にフードかぶり姿を隠していたり、さもなくばどこぞのパーティに入ってその地位をしっかり確立していたりしていて、新人でしかも大手を振って活動している自分達が珍しいのだと、ルークにもやっと現実が見えてきた。
「あ~……こりゃあの時受付のおねーさんから話聞いてなきゃきつかったかもなぁ……」
「まあ、ぼちぼちいくにゃ」
その日、組合に斑鳥の卵を納品して依頼料を確認していると、
「あ、ルークさんにミーシャさんですね!パーティ希望者のブルーノさんが、あちらのテーブルでお待ちですよっ」
受付のポニーテル嬢――メルリルというらしいが――に声をかけられた。
「へ……?マジで??」
そちらを向けば、テーブルには確かに背が高く傭兵風の男の後ろ姿があり、
(いや、この際贅沢は言わねえ……いや、少しばかり頭がテカっているとかも関係ないぜ)
余計なことを考えつつルークが立ち竦んでいると、
「あなたがブルーノさんかにゃ?」
「おう!おまえらか、仲間を探しているっていうのは!」
さっとミーシャが声をかけ、笑顔でこちらに振り向いた男は――――右腕を三角の布で吊っていた。
ルークは念のため瞬きをし、もう一度確認した。………………男は、右腕を負傷している。
「……使ぇぐふッ」
使えねッッと叫びかけたルークのみぞおちにミーシャの肘打ちが入った。
(ただでさえハーフってことで悪目立ちするのに、悪印象持たせるのはアウトにゃ!)
(ッてぇな、見ろよおまえあの腕!右だぞ、絶対利き腕だろ!)
(先入観はよくないにゃ!)
ひそひそと話す二人を気にした様子もなくブルーノは、
「あ~、やっぱりこの腕が気になるか?……ちょいとドジ踏んじまってな。利き腕をやられたのは辛いが、なあに、まだ左腕がある!!」
そう言ってガハハと笑う。
(おいどうする……?)
(しばらくパーティに入れて様子を見るにゃ!話はそれからにゃ!)
うわー……という表情をルークはしたが、気を取り直し、
「ブルーノさん。俺たちはハーフで、まだそんなに経験もないんです。よろしくお願います」
キリッ、とブルーノに告げた。
半目になり、うわー、という表情を今度はミーシャがする。
「おう!俺の腕が治るまでのひと月ぐらいだ!よろしくな!」
ブルーノは笑顔でそう告げ、
「ひと月ぐらい…………?」
二人は怪訝な表情で顔を見合わせた。
臨時で仲間となったブルーノは市場の穴場から、剣の振り方指導まで、懇切丁寧にいろいろと教えてくれ、言葉どおりひと月で去っていった。それからもパーティ希望者は何人か現れ、
「ッあー、くそッ。俺たちもここまでかー」
今回は商人風でかなり腕の立つ中年の男だったが、今日依頼終了とともに別れを告げられ、一週間という最短記録を出したルークは、酒場で荒れに荒れていた。
タンドリーチキンの骨を芯だけ皿の上に積み上げながらミーシャは、黒麦酒片手に嘆くルークの顔をちらちらと気にしつつ、もじもじと尻尾を揺らし、
「あ、あの、話途中で悪いけどルーク……ちょっと、お願いがあるんだにゃ……お肉、追加してもいいかにゃ?」
「三回目だろうが!ちょっとは遠慮しろよお前」
「もともと自分で払うつもりだったにゃ!ルークが奢るっていうからー」
「俺んとこだと女に払わすのは恥ってなってんだよ……まったくよぉ……なんというか、おしとやかな美女がいいなんて贅沢は言わねえけどさぁ……あー、潤いが欲しいぜ……」
「失礼にゃ!そんなに癒しが欲しければ場末の酒場か花街にでもいくにゃ!」
「金がねえよ……今回はそこそこの金額だったけどさぁ……」
懐はあったかいが、心は寒いぜとルークはぼやき、黒麦酒をまた一息に飲み干した。この酒場に来てから、やたらピッチが早い。
組合のマッチングシステムは優秀で紹介された冒険者はルークたちを奇異の目で見ることはない。が、これまで組んだ相手というのは、ガハハと特徴的な笑い方をするあの傭兵風大男の他に、
『あ、あの、僕、ハーフの生体に興味がありまして……』
とかいう痩せた研究者風の青年など、癖のある者たちが非常に多かった。
傷が癒えたとか知的好奇心が満ちたとか理由はまちまちだが、どの相手も短期間でパーティを去っていく。
「……故郷へのいい土産話ができたとかマジねぇわ」
ルークはデンゼルとかいう男の、去り際の台詞を思い出す。
「ま、まあ、入れ替わりは激しいけど、そんなに悪くはないにゃ」
「確かに剣を教わったり、迷宮での知識は増えたさ。俺がいいたいのはそういうことじゃねえ!くっそ、黒麦酒追加だ!」
やけくそ気味に叫ぶ。
新人で、しかもハーフと積極的に組みたがる相手はそうそういないと、ルークもわかってはいる。わかってはいるのだが……。
「あああ……この際贅沢はいわねぇ。ずっと一緒に戦ってくれる仲間ぷりーず」
呟き、空になったジョッキをゴン、と置いて突っ伏した。




