表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
10/55

よし、依頼を受けよう!

お待たせしました。閲覧に感謝です。

その日の夜に組合ギルドで、めちゃくちゃ簡単そうな、『試練の塔跡地に生えている、背が低くて茎が細く、葉がハートの形をした‘すずな草’を30本取ってきてください』という依頼を受けたミーシャたちは、朝一番で迷宮に入っていた。


「6銅貨ローなんて子どものお使いみてーなもんだな」

「迷宮踏破もまず一歩から、にゃ」

今回は騎獣を使わず、身を隠しつつ歩いて試練の塔、その跡地に辿り着く。

「さて、茎が細くて葉がハートの‘すずな草’を探すか!うわ、草が大量に生えてるな」

ルークがわさわさと草を掻き分け、

「……それで、どれが‘すずな草’なんだ?」

笑顔で、聞いてきた。


「……………………少しは自分で探せにゃ」

「いやでもさぁ、結構似た草がたくさんあるなって。俺のとこでは、みんな畑の雑草だからなあ……」

ぶちぶちと手近な草を引き抜きながらルークが言う。

「雑すぎるにゃ。背丈からしてその辺は違うけど、そんな抜き方したら明らかに依頼失敗にゃ」

「お、これはどうだ?茎は細いし、葉がハート型だ」

ルークがハート型の葉をした蔓を引っこ抜いて聞く。

「……普通、蔓は蔓で、茎とは言わないにゃ」


現物を確認できてないのが痛いにゃ……。


ミーシャは頭を押さえ、市場で‘すずな草’なるものはまったく並んでおらず、その時感じた不安をなぜ無視してしまったのか、と嘆く。


「……そもそも、ミーシャは知らないのかよ」

「猫は、肉食だから植物は範疇外にゃ」

じと目のルークの追及に、ふぃっとそっぽを向く。


……本来、賢猫ケット・シー族は薬草にも通じている。しかしミーシャは、野山を駆け巡るのは好きだったが、何をどうやってもほとんどの草の名前を覚えられず……粘り強い彼女の母親がとうとう匙を投げて、今にいたる。


もちろんそんなことを知るよしもないルークがガックリと肩を落とし、また草を掻き分けていく。


「よし、ここら一帯の疑わしそうな草を持っていこうぜ!」

うぇ、という顔をミーシャはしたが、他に方法はない。

「せめて、なるべくいい状態で持っていくにゃ……」

依頼と特徴が似たような草は意外に多く、土を落とし持っていくのに、かなりの時間を費やすこととなった。



組合ギルドの受付にどっさり草を持っていくと、

「……駄目ですねこれは。この中に依頼の‘すずな草’は、10本しか入っていませんよ?」

よりにもよって、そこにいた黒の賢猫ケット・シーがすべての草を選り分けつつ、駄目出しをしてくれた。

「あなたは賢猫ケット・シーの端くれでありながら、草の見分けもつかないのですか?」

小さな鼻眼鏡をキラリと光らせて、嫌みを言うことも忘れない。

「期限は明日までなので、せいぜい頑張ってください」

こっちは忙しいんだ、さっさと行け、とばかりに追いやられ、疲れた足を引きずるようにして、再び迷宮へ向かう。


「昼過ぎか……」

「場所は近いから急いでいくにゃ」

ゆっくりと傾いていく太陽に照らされ、草原がなびく。

「これにゃ!道の近くに沿って生えてるのがそうにゃ!」

「これ……かぁ?確かにハート形に見えなくもないけどな」

ルークが道端の小さな草を摘まみ上げ、首をひねる。

「たくさん集めるにゃ」

一度見つけてしまえば、後は簡単で、あちこちに生えている群生を追う。


掻き分けている茂みや森の木々が朱色に染まり始め、

「もう充分じゃねえか?」

「そろそろ戻るにゃ」

草の束を傷つけないよう布にくるみ、勢いよく伸びをして立ち上がると、ミーシャたちは来た道を慎重に戻ることにした。

森の木立の合間を歩き、遺跡から少しばかり離れた場所で、ミーシャは一瞬ぬかるみに足を取られた。

「おいおい、大丈夫かよ」

ルークがとっさにミーシャに手をまわし、その体を支える。

「うわ、やわらかッ。筋肉どこだよ」

「その辺はほとんど筋肉にゃ!失礼だにゃ!」

ミーシャが言い返す。

「……ちょっと待て。何かおかしいぞ」

ルークがふいに真顔になり、しゃがんで地面に手をやった。

「雨もないのにぬかるんでいるし、生臭い……何かが通った跡だ」

「……音は聞こえなかったにゃ」

ミーシャもピタリと動きを止め、耳を澄ます。


 もぞり、と木ずれにも似た音が聞こえ、ミーシャは一気にルークを突き飛ばし、自分も反対方向へと飛び退る!


 ズサササと草の上を滑る音が聞こえた。パックリと開いた巨大な顎が、ちょうど二人の中間あたりにガチリ、と食らいつく。


(蛇!)

 とっさにミーシャは腰のクナイと棒を抜き、組み合わせて紐で縛り固定した。

「蛇の肉は美味にゃ!!」

「馬鹿、二体いるぞ!」

 ルークも剣を抜き放ち、自分に向けて襲い来た巨大な蛇の頭部をくい止める。

「クソっ、たれがッ」

力で無理やり弾き、すぐに首元に斬りつけるも、ぬるりとした皮膚と鱗に刃が滑っていく。

「がッ、アッ」

抵抗むなしく、ルークは巨大な蛇に頭からかぶりつかれた。


「あー……短い付き合いだったにゃ」

「まだ死んでねえ!!!」

 必死で蛇の口をこじ開けながら、ルークが叫ぶ。竜の鱗を持つとはいえ、蛇の腹に吞み込まれては、無傷ではいられない。


 さて……どうするかにゃー。


 眼を細めるミーシャの横で、もう一体の首が動いた。それを難なくミーシャは躱す。

「こいつら、胴体は一つだ!!」

「図体でかいわりに動きが鈍いのはそれが原因かにゃ!」

 ヒュッ、と音をさせて鈍色に光る槍を構え、双頭の大元を狙い、勢いよく放ち突き立てる。同時に、背中を丸め、後足で思い切り大地を蹴った。


 跳躍。凄まじいばねを見せ、ミーシャは暴れる蛇の首元、自らが突き立てた槍に、ぶらんとしがみついた。

「よし、そのまま……」

厳しい体勢で蛇の顎をギシギシいわせながらルークが言う。


「雷招来〈サンダー〉!」

「いっけぇええええッ」

 突然、どこからともなく呪文と、叫ぶ声が聞こえた。剣の刃に雷光を纏わせ、女剣士がルークを咥えていた蛇の頭を、ズパッと斬り落とす。

「ぅ、わぁあああッ!?」

 切り口からシュウシュウと煙を立て、ルークごと蛇の頭が地面へ落ちていく。激しい痛みにのたうつ蛇の胴体の下敷きとなる前に、ミーシャは身をよじり、槍を抜きざま離れた。


「おらおらおら、ぼさっとしてんじゃねえぞ!!」

 革の胸当てをした小柄な黒髪の少女が、ふところからナイフを抜き、素早く蛇の胴体へと突き刺し、再び雷の呪文を唱えた。


 バリバリバリッという轟音と稲光とともに大蛇の皮膚が焦げ、どう、と巨大な体躯が横倒しになる。やっと頭から這い出したルークが、

「あ、ありが」

「何見てんだよ。見せもんじゃねえよ。消えろ」

黒髪の少女がきつく睨みつけ、無言で剣の血糊を払っていた女剣士が、親指で蛇のちょうど背骨あたりを指し、

「おい、ラッツィ」

顎をしゃくる。

「……わかってる。もう一度言うぞ。消えろ。有り金奪われたくなけりゃな」

不機嫌そうに鼻を鳴らす少女に、

「わかったにゃ。攻撃はしないで欲しいにゃ。……ルーク、行くにゃ」

何か不満げなルークに首を振り、ミーシャはすぐさまその場を後にした。


「なんだあれ」

「……ま、気にしたら駄目にゃ。もうすぐ刻限も近いにゃ」

 そう足を速めるミーシャの手からは血が滴り落ちている。

「おまえ、その怪我!」

「ん?」

 振り返るミーシャの手には、肉の塊が握られていて、

「ああ、これ?」

その辺りの草露で血を拭き取ると、腰のポーチからクリーム色の布を取り出し、ささっと包み込んだ。

 その様子を見ていたルークは、ヘナヘナとその場に崩れ、

「おまえ……おまえ、俺が大変な目に合ってる時に、何やってるんだよ!!」

「何言ってるにゃ!!あの色艶といい、でっぷりと太った体といい、絶対美味しいにゃ!これは、貴重な戦利品にゃ!!」

堂々とミーシャが包みを掲げ持つ。

「いやさぁ……確かに食料は大切だけどさぁ……何かついてきてっぞ」

 ざわざわ、ざわざわ、と夕闇の奥がざわめく。

ゲートはすぐそこだっていうのに……仕方ないにゃ」

心底残念そうにミーシャは包みを開くと、あの蛇の肉をナイフで一部斬り取り、遠くへ放り投げた。そして依頼の草と一緒に包み直し、一気に走り出す。

「状況判断も対処も完璧なのに……なんだこの残念臭」

呆れながらもルークも走り、二人で一気にゲート元へとなだれ込む。


 ……幸いにして、そう経たないうちにゲートは開き、どこに隠れていたのか、わらわらと人が集まってきて、二人は無事に迷宮からゴードリムへと戻ることができた。


「俺ら、本当にこのままでいいのかなぁ……」

不安げなルークの呟きを、ぽつり残して。

鈴鳴すずな草……乾燥させ、煎じて飲むとよく眠れると、民間で広く信じられている(姿形は、ナズナ〈ペンペン草〉を思い浮かべてください)。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ