5.天才達の転落。そして有能な元恋人の幼馴染が最後に掴んだ物
今回の話は主人公ダイヤではなく、ダイヤの元チームのメンバーにして元恋人エメルダの視点になります。
私たちは選ばれた存在。そう信じていた。
冒険者に登録してから、私たちは苦労などしなかった。
剣を振れば相手は簡単に斬れる。
どんな攻撃も簡単に見切れる。
どんなに動いても疲れない。
魔法もいくらでも撃つことができた。
そのせいで、ランクが高いという魔物も私たちは簡単に退治できた。疲れも怪我もなくあっという間にランクが上がった。
そして手に入る大量のお金。
その金があれぱフカフカの布団だけじゃない。村では見たこともない味わうこともできない頬が落ちるほどの美味しい食事、目にも鮮やかな衣類や装飾品、刺激に満ちた数々の出し物を味わえる。それらの味の快感はたやすく私たちを魅了した。そしてその刺激には限りがない。
この世界には、私達の知らないもっともっとたくさんの楽しいことで満ちているのだと知ったのだ。
任務を順調にこなす内、10年に一人の逸材とギルドからもてはやされ、周囲から羨望の目で見られ、私たちはさらに有頂天になった。選ばれた存在という現実がたまらなく快感だった。
私たちが登録した時、先輩風吹かせた年上で経験豊富な冒険者達もあっという間に抜きさった。彼らが泥臭い努力を必死に続けているのに、苦労もしない私たちより下という事実が優越感に浸らせた。
いくら遊んでいても、素振りなどしなくても、筋トレなど面倒なことをしなくても才能さえあれば、努力などいらないってことがわかってしまった。むしろ何もせずとも目に見えて強くなっていく私たちからすればいくら頑張っても強くなれないという彼らの感覚が私たちには分からなかった。
そんな中、私たちはダイヤの存在を疎み始めてきた。
昔から優しいことが取り柄の彼。でも、冒険者を始めたら私たちの誰よりも役に立たない、無能という事実が浮き彫りになってきた。
使えない付与術。
まるで下働きのような雑用をするみじめさ。
それでいて私達に「もっと勉強すべき」「努力すべき」「余計なことをするな」と口うるさく説教をする。
私たちは結果を出しているのに、出してないお前が言うなと次第にダイヤと私達4人の間に溝が生まれてきた。口だけ達者な使えない、面倒くさい男と思ってきたのだ。
村ではなし崩しに付き合っていたダイヤと私だが、今はダイヤよりも優れて美形な男達がこぞって私を求めていた。彼らに比べると、ダイヤの小物さが際立っていた。
もうこの頃にはただの昔馴染みとしてしか感じなくなっていた。
そして一流の入口と言われるBランクのランクアップ審査に“メンバー個々の実力も審査対象”とあるのを知って、ダイヤをこのパーティーから追放することをタールが提案した。
私もルヴィアもサフィーも否定しなかった。いてもいなくてもパーティーに影響もないので否定する要素はなかった。むしろ、現実をみえていない彼に現実を教えてあげて、良いことをしたとさえ思えた。
もっと私たちは上に行ける。
もっともっと私たちは有名になれる。
もっともっともっと私たちは贅沢ができる。
夢に見た歴史に残る英雄の地位が近づいてきた。
でもね、ダイヤあなたはもう私達についていけないの。ううん、もう足をひっぱるだけなの。だからこれからはお互いの器にあった生き方をしましょう。
恋人ではないけど、幼なじみではいてあげるからね。
ダイヤがいなくなっても私たちの実力に陰りはなかった。
だけどBランクになれなかった。
ギルドの審査員に理由を聞いても教えてもらえなかった。きっとそれはダイヤのせい。いなくなったとはいえ、それまでいたダイヤの評価もあって審査に通らなかったのだ。
私たちはいなくなっても迷惑をかけるダイヤに憤慨しながらも次の審査で今度こそBになれるよう気持ちを新たに再び活動を始めた。
しかし・・・そこから異変が起きた。
「・・・Dランクに降格だと」
宿屋の部屋でタールからの言葉に私たちは顔を凍らした。
ここ最近、依頼を失敗し続けた結果、今日私らは冒険者ギルドからついに降格処分を受けたのだ。
顔を歪め、タールがどんっと大きな音を立てテーブルを叩いて叫んだ。
「んっでだよ!何でこんなことになるんだよ!ルヴィア!サフィー!最近、お前ら何かと魔力が無いって!ふざけてんのか!今まで問題なかったくせに、何弛んだこと言っているんだよ!」
その言葉に一瞬でルヴィアが沸点に達して金切り声を上げた。
「ないものはないんだからしょうがないでしょう!というか前線のあんたが簡単にやられるせいで、こっちも危険な目にあうのよ!あんたこそ、昔はあの程度の攻撃を簡単に耐えていたのに、どうして急に軟弱になってんのよ!」
そう、本来なら鉄壁の防御と高い攻撃力を併せ持つタールだったが、今まで一撃で葬った魔物も何撃もしないと倒れなくなり、同じく今までなんともなかった魔物の一撃であっさり吹き飛び、防御を崩していた。その事実にタールが口ごもる。
「っぐ、それは・・・」
「・・・やっぱりダイヤ君がいなくなったせいじゃ」
一瞬、皆の顔がこわばる。でもすぐにタールが否定した。
「っなわけねーだろ!あいつがいなくても問題なかったことは実証したじゃねーか!」
「そ、そうよ!実際、あいつのバフの効果なんて大したことなかったじゃない!」
「ご、ごめんね!」
気まずい空気が流れる。
私たちの間でダイヤというのはいわば可哀想な男だったのだ。選ばれた天才の私達が構ってあげなくては生きていけない弱い男だった。そのダイヤのおかげで私達が強いなんてことはありえない。
そもそも、大体ダイヤがいなくなって、暫くの間は何の問題もなかったのだ。ダイヤの影響などあるはずもない。
「もしかして、呪いじゃないかしら」
しばらくしてルヴィアが声を上げた。
「呪い?」
「ええ、思い出したわ。今日偶然知ったんだけどね。世の中には本人でさえ気づかないうちに力を引き下げる呪いと言われる種類の闇の魔法があると聞いたの。もしかしてダイヤの奴、私達に追放された腹いせに何か専門家に依頼したんじゃないかしら」
その言葉に私たちは一気に騒ぎ始めた。
「それだ!畜生!あの雑魚野郎!今まで面倒見てやった礼を忘れて、逆恨みしやがって」
「最低です。ダイヤ君を追放したのはダイヤ君の無能のせいなのに」
「・・・それで、その呪いというのは解除できるの?」
なんてこと・・・信じられないが、それしか考えられなかった。
でも怒りも覚えない。ダイヤ・・・そうやって上にいる人の足を引っ張っても貴方自身が上に行くことはないのに・・・私が感じたのはその小さな器に対するどうしようもない失望と哀れさだった。
「私にはできないわ。でもギルドなら解呪の専門家を知っているはず!明日行ってみましょう!」
解決策を思いついて上機嫌なルヴィアの指示に私たちは光明が見え、久しぶりに満足げな笑みを浮かべた。
呪いもしくは解呪の専門家を教えてもらおうとギルドに行き、受付に向かう途中。木のテーブルで昼から酒を飲んでいる中年2人の冒険者の声が聞こえた。
「おい、聞いたかよ。この間新しいAランクが誕生したんだってよ」
「まじかよ。何か月ぶりだ?前は“真紅の薔薇連合”だったっけ。で、今回はなんてとこだ」
「えっと、“天馬の翼”ってパーティーだな。だいぶ前にリーダーがフレアっていう女戦士だったんだけど、付与術士のダイヤってのに変わってから凄く成長したんだってよ」
その瞬間、身体が凍った。見ると他の皆も硬直している。自然とそのA級についての会話が聞こえる。側の中年冒険者たちは私達に気付かず、その会話を続ける。
「フレアって、あの“猛撃”だろ?けど、ダイヤってのは誰だよ。俺B級以上のメンバーなら大抵知っているけど聞いたことないぜ」
「なんでも超凄腕の付与術士だって話だぜ。味方全員の全能力向上の継続バフをあたえつつ、魔力回復までこなすんだってよ」
・・・全能力継続バフ・・・・魔力回復?
「はぁぁぁ!?なんだそれ!全部能力向上のバフなんて、普通1~2種類だろ!?特に魔力回復なんてほとんど聞いたことないぜ。何者なんだよ!その付与魔術!」
「知らねーよ。そう聞いただけなんだからよ。しかも、なんでもそいつ一人がいればパーティーのランクレベルを上げるんだってよ。俺らみたいなCランクでもそのダイヤって奴が一緒にいればBランク様並みの力になれちまうそうだぜ」
CランクでもBランクに?ダイヤがいなくなってから私たちはD・・・。嘘・・・嘘・・・嘘・・・そんなはずない。Bクラス近くまで行けたのは私達が選ばれた天才だからなのよ。
「・・・冒険者にとっては夢みてーな野郎だな。ったくいるんだよな。そんな選ばれた天才って奴がよ。いいよなぁ、そいつと組んでるパーティー。そんな奴がいれば俺だったら絶対に仲間から外さねぇけどな」
「はっ、そもそもそんな金の卵産むような凄腕付与術士外すような間抜けがいるかよ」
「ちげぇねぇな」
違う違う違う!選ばれたのは私達! 間抜けなのはダイヤよ!
そうして、名も知れぬ冒険者達のその会話は終わった。残されたのは硬直した私達。
「は・・・はは、なにかの間違いに決まってるぜ」
「そ、そうよ・・・ただの偶然よ。ほら、呪いの解呪の専門家のこと聞きにいきましょう」
「そ、そうですよ!早く元に戻って!また上にいきましょう!」
「ええ!早く解呪してもらって、とっととBランクになろうよ!」
今の会話が聞こえないと言わんばかりに、ぎこちなく笑いながら私たちはギルドの受付に行く。そうよ!あり得ない!選ばれたのは私達なんだから・・・!
数日後
専門家の調査で私達に呪いなど欠片もなく、逆にすでに消えたものの何か強力なバフがかかっていた形跡があるという残酷な事実が分かった。そして私たちは・・・
・
・・
・・・
・・・・
・・・・・
え?なに?急に昔のことを話してって、何でかしら。急に昔のことを思い出したの。今思うと本当に恥ずかしいよね。
でも、あなたがあれから戻ってきて嬉しかった。あんなにひどいことしたのに許してくれるどころカ、まだ愛してるといってくれるなんて。
私、自分がひどいことになって初めて自分の気持ちに気が付いたの。外面は良くても私の肩書と力しか興味がない男なんかよりダイヤみたいにきちんと自分を見てくれる優しい男こそ、愛すべき人なんだって。
貴方の希望でもう冒険者は引退したけど後悔はしてないわ。だって気づいたんだもん。あなたとこの子と一緒に平穏に生きていけるだけで幸せだって。あの時のことは夢、ううん悪夢かしらね。こんなに優しいあなたのことを傷つけたんだもの。うぷっ、ごめんなさい。あの時のこと思い出すと自分の愚かさで気分が悪くなるの。んもぅ、そんなに心配しないであなた。貴方がいるからもう大丈夫よ
あッ、あの子が泣いてる。まっててね今おっぱいあげるから。よーしよし。
うふふ、そうこれが紆余曲折を経て私の望んだ、私が見つけた日常。愛する家族と共に平和に村で暮す、これ以上の幸せってないものね。
ええ、愛してるわ。ダイヤ。もう昔みたいな馬鹿みたいな夢も抱かないし、他の男になびいたりしない。私の一番はあなただけ♪あ、あとこの子もね!ふふ♪
お読みいただきありがとうございます。
なお、没落しつつも、幸せな結末を得たエメルダですが、その過程で何があったのかは次回の最終回をご覧ください。