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3.無能から有能に?見つけられた付与術士(中)

冒険者やモンスターがいるこの世界観の作品唯一のアクションパートです。

 今、僕とアクアがいるのは村長の家だ。

 あれからあれよこれよという間に、村長の家に連れてこられ、簡単な自己紹介の後、状況を聞いた。 

 何でもたまたま山に行った村の狩人が不穏な空気を感じたところ、見たこともない数の魔狼が集まっているのを見たそうだ。

 観察するとそれらはこちらに向かってきているそうだった。魔狼は夜行性。狩人が慌てて帰って来た頃にはもう夕方近く。もうしばらくするとこの村に来るかもしれないらしい。


「村人を避難させようにも病人もいるし、大事な農作物や貴重品もある。時間が足りない」と村長以下村の顔役の人たちが顔を青白くし項垂れる中

 真っ赤な髪をしたポニーテールの女性が声を上げた。

「だったら、私が何とかするわ」

 しなやかな筋肉に猫を思わせる愛嬌のある顔立ちをした彼女はBランクチーム“天馬の翼”のリーダーで剣士のフレアさん。休暇中なので彼女一人だけ単独行動をして、たまたま村にやってきたところ今回の件を聞き、急遽やってきたらしい。


 と、そのフレアさんが立てた作戦はシンプル。

 まず状況は村の北側からあと少しで魔狼の群れがやってくる。村の北側は高い木の柵と堀があり、村に入る道には頑強な木製の門がある。とはいえ魔狼の群れ相手には心もとない。僕の知る限りでは魔狼は仲間の背中に乗って、高く飛んだ事例があるのだ。

 よって、作戦は僕とアクアとフレアさんの3人で敵を倒すもしくは避難させる時間を稼ぐ。門の側には見張り台となる高台があるので、アクアはそこで一発攻撃魔法を放ち敵にダメージを与えた後、フレアさんは単騎で門の外に行く。そして門を閉めて村を守る。魔狼の群れはボスを倒せば散り散りになるはずなので、フレアさんは速攻でボスを蹴散らす。無理なら逃げる。

 そして僕はフレアさんが出る前にバフをかける。


 シンプルすぎるが、明らかにフレアさんが危険すぎるプラン。村人達も流石にそれはという程だが、「逃亡用の煙玉もあるし、うまく山まで逃げれば撒けるから大丈夫」とのこと。本人も納得済で、他にいい方法もなく結果その方法で行くことに全員同意した。


 そして、門に向かって歩く僕たち3人。

 この明らかに割の合わないプランにフレアさんは「頑張るぞー!」と笑顔で張り切っている。

 それに引き替え同じ冒険者なのにできることの違い。圧倒的無能感を覚える。それと同時に脳裏にあの見下した仲間達の顔がちらつく。フレアさんはどうして僕を嘲笑しないんだろう?馬鹿にしないんだろう?


「どうしたの?大丈夫よ!私こう見えても“猛撃”のフレアって言って少しは名が知られているんだから!魔狼の群れなんかあっという間よ!以前はもっとやばい相手にすら戦ったことあるしね」

 落ち込む僕らを見て不安だと思ったのか、ぽふーんと胸を叩いて励ますフレアさん。この脳天気な声に思わず、歩みを止めて、いじけた声を出してしまった。

「どうして一人だけこんな損な役回りを自分からかってでるんですか」

「ん?」

「明らかに危険じゃないですか!なのにどうして!こんなことを!」

「ああ・・・それ?仲間からもよく言われるのよね。自分から進んで無謀な真似するなって。しょうがないのよ。性分なの。困っていたら助けてあげたいってね。それだけ。それに全く勝算がないわけじゃないもの。2人もいるしね」

 あははーと笑うフレアさんに。冒険者としての格の違いを思わせられ、さらにいじけたことを言ってしまった。


「どうして馬鹿にしないんですか?」

「へ?」

「どう見たってフレアさんが一番大変じゃないですか。それなのにどうして実質役に立たない僕を馬鹿にしないんですか!?」

「???」

 何言ってるかわからないという顔をするフレアさん。

「実はいうと・・・僕無能だからパーティーから追放されたんです」「実は私も」

 僕とアクアが簡単に自分の境遇を説明すると、フレアさんはふむふむと頷くとあっさり言った。


「うーんと、私が不満を言わないのは冒険者だからだね!」

「「は?」」

「冒険者は常に恵まれた環境ばかりじゃない。必要なものが足りない不利な状況だってある。だったら今ある条件でできる限りのことを何とかするしかないでしょう?そして今はこの作戦こそ私たちの最善なの!最善の作戦に何の不満があるの?」

「で、でも・・・僕はそんな・・」

「さっきも聞いたよ。自分たちは私に比べ、安全な場所から魔法を使うだけの役立たずだって?でもね、私はそうは思わないよ。だって・・・君ら2人は今ここにいる!」

「「・・・!?」」


「怖くても無能でも、逃げずにこの大変な場所にいるじゃない!それこそ黙って逃げたり、こんな縁もゆかりもない村放っておいて逃げましょうなんて駄々こねてたら、それこそ私は軽蔑してたかもね。だから今ここにいる君らを笑わない。自分のことだけを考える有能ぶる無能より、自分のことだけでなく私を気遣い、知人もいない村の人達のことを考えて動き、最善を尽くそうとする“無能な有能な”君らを私は笑わない!」

 何の曇りもない笑顔でそう断言するフレアさん。その言葉は何よりも心に響いた。


「ということさ!」

 そう言って、フレアさんは「あっ、喉かわいたから水飲んでくるー。ちょっと待ってて」といって傍の井戸に向かって小走りに行ってしまった。


 残されたのは僕たち。

「・・・格好良いですね。フレアさん」

「うん」

 きっと、フレアさんが言ったのは適当でも格好つけじゃない。本当にそう思っていたんだ。確かに僕はこの状況は危険で、いざとなれば逃げようと思いながらも、フレアさんを囮にして、村人をみすてて黙って消えようなど考えもしなかった。できる限りのことはしようと。きっとアクアもだろう。


「だから君らを笑わない。自分のことだけを考える有能ぶる無能より、自分のこと以外のことを考えて最善を尽くそうとする無能な有能な君らを笑わない!」

 さっきのフレアさんの言葉は胸に刻まれる。

 そう、ただ僕は認めてほしかったんだ。ずっと無能だと言われ続け卑屈になっていたが、それでも頑張っていると認めてほしかったんだ。

 気が付くと目に熱いものが込み上げていた。

 行こう。僕は役立たずだけど無能な無能じゃない。せめてできる最善は尽くそう。

 こうして、僕らも戦場に向かって行った。


 門の側に行くと、村人が数名そこにいた。

 村人はフレアさんが飛び出した後、門を閉める係だ。ちなみにアクアは魔法を放つため高台の上に移動している。

「いい顔しているじゃない」

「はは」

「じゃぁ、ぎりぎりの状態まで目いっぱいのバフをかけてくれる?」

「わかりました!」


 そして数刻後、夕暮れと夜の境の時間

「来たわね・・・」

 見ると道の先から魔狼の群れらしき姿が見え始めた。それは次第に大きくなって・・・

 途端に目の前に凄まじい爆炎が辺りに広がる。アクアの魔法だ。威力からしてアクアの使える最も威力が高い広範囲攻撃魔法。

 一面真紅の燃え上がる炎、荒れ狂う風。吹き飛ぶ石。巻き起こった煙が晴れた時、そこには何体もの魔物が黒焦げもしくは肉片となって転がっていた。


「やるじゃん♪アクアちゃん♪」

「いや・・・早すぎる・・・」

 そう、アクアの魔法は確かに成果を上げた。しかし、タイミングが少し早く、予定よりかなりの数が生きていた。タイミングが合えば今の3~5割増しで倒せていたはずだ。

 そして生き残った魔狼は警戒してか立ち止まり、唸りながら赤く光る瞳でこちらを睨みこんでくる。

「まっ、こんなに減って足止めさせれば上々よ!んじゃ行くよ!ダイヤ君!準備はいい?」

「いきます!力よ!!」

 ひゅぅと口笛を吹くフレアさんに、僕は事前に唱えていた付与術をありったけの魔力をこめてフレアさんにバフをかけた。

「ん!全身に力漲るぅ!何さ。使えないっていって、凄いバフじゃない!これなら余裕ね!」

「僕の全力のバフをかけました。御武運を!」

「ありがとう!じゃ、後は任せて!」

 そして門からフレアさんが飛び出していった。その速度は神速。あっという間に魔狼の群れに突入した。同時に村の人の皆がぎぎぎという音と共に門が閉じていく。これであとはフレアさんに託すしかない。

 本当に何かないのだろうか・・・僕ができること。フレアさんを助けること。助けたい、あの素晴らしい人をなんとか助けたい!最善を尽くしたくとも何もできない己の無力さに悔しくて、涙目になりながら避難場所に走る。興奮しているのか、なんだろう?身体中が熱い、芯が燃えるようだ。


 そう思いながら門を閉めた村人と共に避難し、途中村人に担がれぐったりしたアクアと合流した。




 10分後


「・・・ぶっちゃけきっついわね。これ」

 脳天気なフレアだが、流石に汗だくの顔で思わず弱音を吐いていた。 

 フレアはバフの力も借りて速攻で魔狼を20体以上も斬り捨てたが、そこで異変が起きた。魔狼は数任せに襲ってきていたが、今はフレアを中心に周囲に広がり、次々に一撃離脱のヒットアンドアウェイの戦法をとり始めた。

 思うように倒せず、次第にこちらの傷が多くなり、むこうの傷が少なくなってきた。そこでさらに魔狼の戦法が変わった。


「しまった!?」

 どういうわけか今まで自分だけ狙っていたのに、急にヒットアンドアウェイの陣の外にいる群れの半分近くが自分を無視して、村に向かって行ったのだ。村の門は閉じているが、10数体もの数。それこそ仲間を踏み台にしたジャンプで村の中に入られてもおかしくない!

 内心焦るフレア。そこに。


 ずどぉぉぉぉん!


 という爆発音が鳴り響き、村に向かった魔狼が吹き飛んだ。

「アクアちゃん?」

 魔法は一発しか打てないと聞いていたけど・・・と思っているとさらに爆発音が無数に鳴り響き・・・静かになった。

 フレアがちらりと見ると村に向かった魔狼はほぼ壊滅していた。

「よくわからないけど大丈夫そうね・・・って?あれ?なんだか、力が湧いてくる?それに疲労も減ったような?」

 そう急に体が軽くなったのだ。この感覚は覚えがあった。これはバフの効果である。

「何このすごいバフ?しかも力が湧いてくる・・・」

 そう、先ほどかけてもらったものとは桁違いに強力なバフ。脳裏に浮かんだのは先ほど別れた冒険者の付与術士の彼の顔。無能で追放されたと言った彼がこんなバフを?しかも姿が見えないほど離れているこの距離で?

「って、今はそんなことどうでもいいわね。重要なのは私は今絶好調に戻ったということ!いくわよ!」

 魔狼は先の攻撃魔法を恐れたのか、村に向かわず、フレアを倒そうと一斉に襲い掛かり始めた。そして余計な考えを捨て、あふれ出る力を活かし再び突貫するフレア。激突する両者。


 そして、数刻後その決着がついた。



 フレアが突撃をかける前


 高台から避難中に出会ったアクアと一緒に逃げようとしたところ・・・。

「ま、まってください!」

「え?」

 見ると、アクアが不思議な顔をして立っていた。 

「よくわからないんですけど急に魔力が復活しているんです。これならもう一度行けます!」

「わ。わかった!」


 そしてアクアの魔力切れに備え、僕も共に急遽門の上にある高台にまで再び一緒に移動。

 見下ろすと10体以上もの魔狼が村の門近くまで来ていた。


 それをみたアクアは

「・・・!ひとまずあれを一掃します!相手が散っているので・・・中位ではなく、低位魔法を連続して・・・・・・ファイア!ファイア!ファイア!ファイア!ファイア!」

 次々発射される無数の炎弾。吹き飛ぶ魔物達。


「や、やった!」

「はぁはぁ・・・もうちょっと・・・って、あれ、身体が・・・?」

 急に糸が切れたように倒れこむアクア。もしかして何らかの異常が!?と慌てて近づいたところアクアはすーすーと寝息を立てていた。どうやら魔力の消耗と体力の限界で寝落ちしたみたいだ。

 そして、眠る彼女を背負い、高台から降りて、再び避難のために村の中を移動していると、ぽーんという音と共に蒼い光が薄闇色の空中に咲いた。

 あれは冒険者専用の発煙筒?

 蒼の光の意味は確か・・・任務成功・・・!

 やった!フレアさんがやったんだ!


 それから、残った村人に討伐を伝え、門を開け満身創痍のフレアさんを迎え入れ、合流した僕たちは再び村に戻り、皆に魔物の群れを退治したことを伝えた。


 もう大喝采。何せ急襲に近い魔物災害で村が半壊してもおかしくないところ、ほぼ被害0だったのだから、避難から戻った村のみんなが泣きながらフレアさんとアクアそして僕にもかわるがわるお礼を言ってくれた。

 僕の功績なんて微々たるものだけど、それでも嬉しかった。そうだよ。有名になるだけじゃない。これも冒険者としての道なんだ。


お読みいただきありがとうございます。


補足:魔狼の強さの描写が足りず、分かりづらいですが本来村人全員で戦っても勝ち目がない程の脅威でした。

3名だけとはいえ、Bランク上位のフレアの速攻と威力だけならBクラス並みのアクアの広範囲攻撃魔法、その短期限定能力を長時間可能にしたダイヤのチートバフの強力な三位一体があってこその完全勝利です。


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