1.無能の追放。捨てられた付与術士
久々の作品になります。ジャンルとしては追放ものですが、すかっとしたざまぁな冒険活劇ではなく、力に振り回される人の人生模様が中心となります。
このような内容なのでもし作風が苦手だな、合わないなと思いましたら無理せずご遠慮くださいませ。それでも少しでも面白いと思っていただければ幸いです
「なぁ、ダイヤ。お前もう冒険者辞めろよ」
「え?」
その日、宿屋の一室で僕は同じ冒険者パーティー“英雄の剣”のリーダーである幼馴染のタールからそう告げられた。
その場にいたのは僕だけではない。他の幼馴染メンバーである女性3人、魔法剣士エメルダ、白魔術師サフィー、黒魔術師ルヴィアの3人つまり全員勢ぞろいしている。
「な、なんだよ。急に・・・」
「急じゃねーよ。前々からここにいる全員と話してたんだ。お前ははっきり言って、才能ないんだよ。俺らの足手まといだ」
「そ、そんな!俺は付与魔術でみんなに貢献しているじゃないか!」
そう、僕の職業は付与魔術士。味方にバフを、敵にデバフをかけるのが仕事だ。
しかし・・・
「あのさぁ、はっきり言うけど。そのバフほとんど意味ないのよ。ねぇ?サフィー?」
「う、うん。ごめんね。私もそう思ってた」
居丈高なルヴィアに形だけは申し訳なさそうに言うサフィー。僕の仕事を全否定する仲間達に呆然とする僕にタールが更に言葉を発した。
「実はな、この間全員で数日間休日とったろ?その時お前抜きで俺ら全員で仕事うけてたんだわ」
「え?」
「でもな、お前のバフやデバフが無くとも、全然変わりなかったぜ。むしろ、お前をカバーしなくていい分、調子が良かったくらいだ」
そうそう。とへらへら笑いあう仲間達。
衝撃の事実・・・なんだよそれ。俺抜きで仕事うけて、俺がいない方がいいって・・・そんな。確かに最近皆の距離を感じてはいた。でもいくらなんでもそんな露骨な真似までするなんて・・・。
「で、俺らはこれからBランクのクラスアップの審査をする。でもな、俺らの中に一人だけ低レベルの奴がいたら、審査に引っかかってクラスアップできないかもしれないんだよ。だからさ、お前もう抜けろよ。村までの帰りの交通費なら出すからよ」
タール、ルヴィアの冷たい視線、関わり合いになりたくないと目をそらすサフィー、そして今までうつむいて沈黙を保っていたもう一人の女性に声をかける。
「エ、エメルダ。君も何か言ってくれ。いきなり追放なんてひどいじゃないか」
僕の恋人であるエメルダは顔を上げると、その凛々しい美貌を僕に向けて初めて声を出した。
「私も賛成よ。ダイヤ、もう冒険者辞めて村に帰りなよ」
衝撃で一瞬思考が止まった。窓から吹く風でカーテンがたなびく音だけが嫌に大きく聞こえた。
僕、エメルダ、タール、ルヴィア、サフィーは同じ村の幼馴染同士だ。
タールはツンツンした頭が特徴で体格も大きくて喧嘩も強い同世代のリーダー的存在
ルヴィアは村長の娘で綺麗な赤毛が特徴の気が強い少女で村の女子のカーストトップ。
サフィーは青みがかったロングヘアーをした薬師の娘で引っ込み思案で内気な少女で、ルヴィアの後ろによくいた。
そしてエメルダは深緑の髪をポニーテールに勝ち気な美貌をした芯が通った男勝りの少女。
その中でも勝ち気なエメルダと大人しい僕は性格は凸凹だがお互いの欠点を補いあい、自然と恋人と言えるくらいの間柄だった。
この僕ら5人は同世代ということもあって村でも特に仲良しで、僕らは揃って冒険者の冒険譚に憧れていた。
完全実力主義でたとえ村人でも成果を出せば、貴族にもなれる。英雄になれる。歴史に名を刻める。その冒険者の生きざまに、得られるものに憧れた。
そして僕らは誓った。
「この5人でいつかS級の冒険者となるまでパーティーを組み続け、歴史に名を残すパーティーになろう」と。
村を出た僕らは冒険者ギルドに入り、各々の特徴を生かしたクラスを取得した。
力も強く身体も大きなタールはナイトに、魔力があり攻撃的な性格のルヴィアは攻撃魔法専用の黒魔術師に、同じく魔力があるサフィーは回復専用の白魔術師に、そして2人の女子程ではないが魔力もあり、剣の才能があるエメルダは魔法剣士に。僕は付与の才能があるという結果で、付与魔術士となった。
そこから先はあっという間だ。みんなは一気にその才能を開花させ、最速でかけだしのE級から、一人前のC級にまで上り詰め、今まさにベテランともいえるB級まで目前のところまで来ていた。
そこにいきなりこの状況になったのだ。
ショックで一瞬、意識が昔に戻った僕は現実に戻ると、自然震える声でエメルダに問いかけた。
「う、嘘だろ?エメルダ」
「本当よ。もう一度言うね。パーティーを抜けて、村に帰りなよ」
「どうして・・・僕らは」
一瞬、顔を辛そうにするエメルダ。でもそれは一瞬ですぐに真顔、僕のイメージではどことなく見下したような顔で言葉を続けた。
「恋人だから?だからいつまでも無条件で一緒に居ようなんて甘えたこと言わないで。私たちはこれから上に行く。それだけの才能があるのよ。でも、ダイヤ貴方は違う。貴方のただの凡人なの」
「ぼ、凡人って・・・確かに僕の付与魔術は利かないかもしれない、でも頑張ればもっと伸びる可能性だってある!そうだ!それに他の雑用だって頑張ってるじゃないか!」
そう、僕の付与魔術の効果が薄いのは自分が一番知っていた。だから、僕は他の雑用をすることでパーティーに貢献していた。決して役立たずじゃない!
「そんなの、誰だってできるでしょう?私たちだってできる。ただ、貴方が自分でやるっていうから、そうしただけ。手が足りなくなったら他の人雇うなりなんとかするわ」
そう思っていた僕に返ってきたのは頑張りを勝手にやっただけと断じた無慈悲なる一言だった。
しばらくの沈黙。僕は何とか声を絞り出した。
「約束したじゃないか・・・一緒に一流になって故郷に錦を飾ろうって誓ったじゃないか」
あの日の約束。僕にとっては人生をかけるに足る約束。だから、必死に頑張った。最近居心地が悪くなっても、危険でも、出来るだけのことをして、足りない分は知識で補おうと努力をしてきた。
だが、僕の必死な言葉に返ってきたのはくすくすとした冷笑だった。
「はっ、何ガキみたいなこと言ってんだよ」
「あはははは!まだあんなの覚えてたんだ」
「わ、笑っちゃ悪いよ」
笑うタールとルヴィア、明らかにとりあえず上っ面の否定するサフィー、そして呆れた顔をするエメルダ。今までの自分の頑張りを全否定するかのような態度に怒りが込み上げてくる。
その内、タールがへっといやらしい笑みを浮かべて、エメルダに顔を向けた。
「あのさ、もう言えよ。エメルダ。あのことを」
「え?で、でも」
「ここまで言ったら隠し事はなしにしようぜ。あのな、ダイヤ?エメルダは今別のチームBチームのエースと付き合ってんだよ。この間もオシャレして熱烈なデートしてたんだぜ?」
今日一番の衝撃が僕を襲った。
「は・・・・な、何を」
嘘よ!そんなの!と否定してほしい。そう思ってエメルダを見たが、エメルダはまるで悪戯を見つかった子供のように気まずそうな顔で
「本当よ」
と肯定した。
「だいぶ前からよ?気づかない方が鈍いんじゃない?」とせせら笑うルヴィアを無視してエメルダを問い詰める。
「なんでだよ・・・僕らは恋人同士だろう。なんでそんな裏切るような」
その途端睨みつけるようにエメルダが言った
「裏切る?あのさ、私だけが悪いみたいに言うの止めてくれる?一方的に悪者扱いされるのは気分悪いんだけど」
「はぁ!?」
あまりにもひどい言い分に流石に頭に血が上る。
だけど明らかに“他人”を見るようなエメルダの態度に言葉が出なかった。
「あのね?ただ一緒にいるだけの恋愛なんてのは子供までよ。これからの恋愛は将来のことも考えて一緒にいられるパートナーでなくてはいけないの。私たちは今までにない世界に飛び出して、有名になって、王都とかの大きな町で暮し、貧しい村の暮らしとは比べ物にならないくらいの贅沢な暮しをするようになるの。ハッキリいって、ダイヤと私はもう立っている場所が違う、生涯のパートナーとして見ることなどもうできないのよ」
「な!?」
「でも、今付き合っている彼は違う。才能が有り、家柄もいい、一緒にいて優しいし楽しませてくれる。何より将来一緒に歩んで行けるそんな甲斐性があるの。そんな彼が私を選んでくれたの。そんな人に選ばれたら仕方がないじゃない!文句があるんだったら、ダイヤも私たちみたいにできるところを見せてよ。できないでしょう?だからダイヤ、お互い大人なんだから現実を見て。感情じゃなくて理屈で将来を考えようよ。ね?」
「なんだよそれ・・・」
納得できない。こんないきなり・・・今まで黙っていきなり裏切ったあげく、見下したような真似するなんて・・・縋り付く視線を向け、話しかけようとする僕にエメルダが苛立ったように呆れたように声をかけた。
「あのね?もういつまでも駄々をこねるのは止めてよ。もう、はっきり言うね。私たちは選ばれたの!才能があるの!でも貴方にはないの!もういる場所が違うのよ!私たちは英雄候補、貴方は他の村人でしかないから一緒に歩けないの!だから、ダイヤ、貴方は貴方に相応しい人と結ばれてよ。私だって、あっさりOKしたわけじゃない。色々考えて、これからの未来と将来性を考えてこの選択をしたの。この選択に私は後悔はしないわ。今もこれからもね。伝えたいことは以上よ」
一息に言い放つと、もう話は終わりと言わんばかりに露骨にそっぽを向くエメルダ。何も言えず沈黙する僕にタールは馴れ馴れしく肩を叩きながら笑って言った。
「そういうこった。これから俺らはS級を目指すんだ。お前の“冒険者ごっこ”はもう終わりなんだよ。ダイヤ。安心しろって、俺らが有名になって帰ったら、お前にはいいお土産やるからよ」
そこにはかつての幼馴染と恋人はいなかった。いるのは “他人”のみ。いつからだろう・・・いつから彼らにとって僕は他人になったんだ。でももう彼らに言葉は届かない。僕はそのことだけは分かった。
この日、僕はパーティーを追放された。
お読みいただきありがとうございます。