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仮想フィールド「オオミヤ公園」

☆ ☆ ☆


 目的のバトルフィールドにやってきた。


 広さは、野球場と同じぐらい。形状も、観客席の構造を含めて似ている。

 観客席の上に照明とともに設置されている六台の大型仮想魔法具現化装置から放射されるサイタマ電波によって、サイタマバトラーはそれぞれ思い描く武装をまとい、魔法を使うことができる。


「よし、全員揃ってるな? それでは、まず私が手本を見せる」


 刀香先生は懐からテレビのリモコンのようなものを取り出して、ボタンを押す。

 すると、フィールドを囲むように聳え立っている仮想魔法具現化装置から淡い光が放射され始めた。


 放射されるサイタマ光は眩しくはない。温かさも感じない。

 ちなみに、人体に悪影響はない(はずだ。少なくとも公式見解では)


「いくぞ、仮想武装っ!」


 刀香先生が叫ぶとともに、全身が光に包まれる。

 眩しい。思わず、目を瞑ってしまった。


 次に目を開いた時には剣道の防具をベースにしたような黒い鎧に身を包んだ刀香先生がいた。

 頭部には、さっきまではなかった白鉢巻がつけられている。


「これが、仮想武装だ。もちろん、」


 刀香先生は腰に提げた鞘から日本刀を引き抜く。


「この通り、防具のほかに武器も具現化できる。さらには……ちょっと離れてくれ」


 刀香先生に言われて、俺たちは距離をとった。


 俺たちが充分に離れたところで、刀香先生は刀を鞘にしまってから、右手を勢いよく前方に突き出した。


「はぁぁあっ!」


 ――ピシャァァン!


 気合いとともに、刀香先生の手から稲妻が放たれ、前方二十メートル付近に炸裂する。

 稲妻が着弾した地面にはクレーターのような大穴が空いていた。

 煙も立ち昇っており、かなりリアルだ。


 しかし、現実世界では、フィールドに穴は空いていない。この場にいる俺たちや観客席からはそんなふうに見えるが、現実世界には干渉できない。あくまでも仮想(バーチャル)なのだ。

 とはいっても互いに闘って傷つけば、痛みを感じる。

 戦闘不能になった時点で、仮想武装は消失し、フィールド外に退場することになる。

 その時点で敗北だ。現実では切り傷ひとつ負わないわけだが。


 例えるなら、夢の中で闘っているようなものである。夢の中でいくら怪我しても、起きたらなんともないように。


「よし、それでは、それぞれ仮想武装をまとってみてくれ」


 刀香先生の許可を得て、俺たちはそれぞれイメージを描いていく。


「……具体的な想像が難しい者は私の仮想武装を参考にしてみるといい。

 見ながらなら、武装を描きやすいはずだ」


 言われて、想像に苦戦していた俺は刀香先生の武装と同じものをイメージする。

 胴と小手、刀、そして一応、鉢巻きも。よし、これなら――。


「仮想武装!」


 唱えるとともに、体が光に包まれる。

 そして、光が収まったときには胴の部分の防具と刀の仮想武装ができていた。小手と鉢巻きはイメージ不足だったのか、具現化できていない。

 胴も刀香先生のものが細かいところまでデザインされた凝ったものなのと比べて、シンプルなものだった。


 周りを見てみると、だいたいの生徒は胴と小手と刀を具現化できていた。しかし、鉢巻きまで装備できたものはほとんどいない。


「ほう……大宮と浦和はオリジナルか」


 刀香先生が感嘆したような声を漏らす。つられて、俺は背後にいた二人のほうを振り向いた。


 大宮はセーラー服をベースにしたデザインの白銀と青の鎧を身に纏っていた。なかなか細かいところまでイメージできているようだ。

 手には巨大な両手剣を持っている。こちらも柄のところに金色の竜のような装飾がされている。


 一方、浦和は巫女服をベースにしたような白銀と朱を基調にした鎧。

 手には薙刀を、そして、背中には弓矢まで装備していた。

 一度に二つの武器をイメージできるなんて、想像力がかなり強いようだ。

 なお、足は草履みたいなものを履いている。


 というか、ふたりの仮想レベル……すごすぎだろ!


 なんで入ったばかりで、こんなに精密なイメージができるんだ。これじゃあ、サイタマ県央サイタマバーチャルスクールどころか、サイタマ県内でいきなりトップかもしれない。


「ふふ……噂通りだな。試験でとんでもない仮想能力を発揮した女子生徒が三人いると聞いていたが、想像以上だ」


 三人……? まだほかにもいるのか? 一学年四クラスなので、別のクラスにいるのだろうか? まぁ、それよりも、こんなすごいのが自分のクラスに二人もいるとは驚きだ。

 特に、大宮なんて、最初に出会ったときはただの暴走地雷女だと思ってたので、そのギャップに吃驚している。


「へへっ、勉強は苦手だけど妄想は得意だもん!」


 誇らしげに小さい胸を張る大宮。妄想が得意だからこそ、いきなり意味不明な勘違いをして俺が全裸で迫ってくるとか思ったのだろうか。


「……妄想ではなく、仮想です。一緒にしないでください」


 浦和は大宮のほうを見ることなく、冷たく言う。なんで、こんなにも大宮に対して非友好的なんだろうか。なにか理由があるのか、それとも、ただ単にそういう性格なのか……。


「もうっ! 別に妄想も仮想も空想も一緒でしょ!?」

「……違います。あなたの下品な妄想と、私の高度な精神集中によって創り出された仮想を一緒にしないでください」

「げ、下品!? な、なによっ、喧嘩売ってんの!?」

「……あなたに喧嘩を売るほど私も暇ではありません」


 我慢しきれずに怒り出す大宮と、あくまでも冷静で毒舌な浦和。ふたりの相性は最悪だろう。なんで、よりによって前後の席になってしまったのか。


「ふふっ……なかなか癖のある生徒のようだな。だが、私は、そういう生徒のほうが好きだぞ? それでは、クラスで最も仮想武装能力の高いふたりに戦ってもらうとするか。私の教育方針は『習うより慣れろ』と、『論より証拠』だからな。ふたりとも、距離を取ってくれ」


 生徒同士が喧嘩しそうになっているというのに、そこでさらに戦わせようとは……。刀香先生もなかなか豪快な人だった。まぁ、桜木三姉妹の斬り込み隊長だったわけだしな。流香先生に負けず劣らずの性格だ。


「…………よし、十分に離れたな。それでは、バトルフィールドを設定しよう。そうだな……まずは、我々サイタマシティ民に馴染み深い『オオミヤ公園』を仮想フィールドに設定するとしよう」


 刀香先生は再びリモコンを操作する。


「フィールドチェンジ!」


 設定を終えてボタンを押しながら刀香先生が叫ぶ。すると、バトルフィールドがぐにゃりと歪むように変化していく。目の前どころか、空や地面さえも――。



 やがて、目の前には、緑豊かな木々に囲まれた池が現れた。


 周りを見回すと、木製のベンチや、神社の鳥居、売店や公衆トイレまでもが具現化されている(通行人などは再現されないので無人だ)。足下はさっきまでは土だったのに、石畳に変化していた。


 実際の『オオミヤ公園』を完全に具現化しているのなら、公園に併設されている競輪場や野球場、サッカー場、日本庭園、小遊園地や小動物公園もあるはずだ。


 これも、仮想魔法の一種。


 この場に居ながらにして、サイタマ各地の公園や名所旧跡、城址などが戦闘フィールドとして選択することができる。

 こうして、サイタマ各地を仮想のフィールドにして戦うことで、観光振興にも役に立つ。


 サイタマバーチャルバトルはバトルと観光が一体となったサイタマ特有のシステムなのだ。


「へへっ、オオミヤ公園なら、私の庭みたいなものなんだけどね! 地の利はこちらにあり! ボッコボコにしてやるんだからっ!」

「……ハンデぐらいやらないと面白くありませんからね。せいぜい、今のうちに減らず口でも叩いていてください


 大宮と浦和が舌戦をしながら、対峙する。


「今回はオオミヤ公園の第一公園を舞台にする。競輪場と野球場、サッカー場、小動物公園では戦わないないように。あくまで、池を中心とした両岸で戦うこと」


 ちなみに、オオミヤ公園は第三公園まである。いずれも広大な敷地を持っていて、第一公園の桜は『日本の都市公園百選』に選ばれており、『桜の名所百選』にも選ばれている。

 あとは第一公園の隣には武蔵一の宮『氷川神社』がある。旧国名の武蔵の中で、もっとも社格が高い。パワースポットとしても有名だ。


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