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これからも、サイタマとともに

流香先生のおかげで快適な空間になった部室で、俺たちは壁新聞作成の大詰めを迎えていた。今回の壁新聞のテーマは『オオミヤ公園』。サイタマスーパーバトルが終わってから何度も公園を訪れて、写真を撮ったり、博物館の展示物を見たりして、理解を深めた。


 壁新聞は、公園のどこになにがあるかという基本的なことから、これまでに公園を訪れた文学者、売店グルメなどなど、全員の力を合わせて作り上げていった。


 浦和の描いたマップは普通の案内図で見るよりも柔らかな感じで親しみやすい。

 そこに大宮の知識が加わり、雛子ちゃんの撮った写真も付けられる。


 俺は全体的な構成やライティングの一部(大宮の薀蓄は郷土愛が深すぎるゆえに滅茶苦茶長いので、なるべく簡潔にまとめる作業)を担当した。


 バトルのときとは違って派手な作業はなにもない。地味な作業の連続だ。それでも、みなで一枚の新聞を作り上げていくことは、時間が経つのを忘れるほどに面白かった。


 まさか、俺が郷土研究についてここまでハマるとは思わなかった。おそらく、浦和や雛子ちゃんもだろう。これも、大宮の郷土を愛する力の為せる業だ。


「よぉしっ! これで完成っ!」


 最後に、郷土愛好部のメンバーの名前を記して、ついに『郷土愛好部』発行壁新聞、第一号『オオミヤ公園を楽しもうっ♪』が完成した。


 みんなの力で作り上げた、この世に二つとない手作り壁新聞だ。バトルに勝ったときと同じぐらい、達成感があった。


 そこへ、ドアがガチャリと開けられて流香先生がやってきた。流香先生は時折、友達の家に遊びに来るような気軽さで部室にやってきていた。俺たちに気を使ってくれたのか、壁新聞作成中は昼寝に来るのは自重してくれていたが。


「おー♪ ついに完成かー♪ すっごく、いいじゃない♪」


 流香先生は部室の真ん中に置かれた出来たてホヤホヤの壁新聞を見て、表情を綻ばせる。


 そう。俺たちだけじゃ、郷土愛好部は作れなかった。流香先生という理解者がいたおかげで部活を作れたし、部室もゲットできた。それがなかったら、ここまで順調に壁新聞を作ることはできなかっただろう。なので、最初に壁新聞を流香先生に見てもらえて、よかった。


「やっぱりあんたたちは、流香たんが見こんだ通り、面白いメンバーね♪ この間のサイタマバーチャルバトルだって、流香たん見ていて、ウズウズして仕方がなかったわ~♪」


 ……教師としては少々物騒で多少は問題があるのかもしれないけど――俺たちにとっては最高の顧問だ。


「そうそう♪ この間のバトルのDVDができたから、持ってきてあげたのよっ♪ 『サイタマバーチャルバトル製作委員会』が作った公式映像ね♪ 出来たてホヤホヤよ♪」


 流香先生から、人数分のDVDを配られる。パッケージには、俺たちの戦いの様子が描かれていた。まぁ俺は最初の整列の場面と、コクピットで指示を出しているところぐらいしか映ってないけど。


「へへっ、なんか照れるよねっ……! こうして、自分たちがDVDのパッケージに映ってるとっ!」

「な、なんか恥ずかしいですっ……」

「……でも、悪くない」


 大宮と浦和と雛子ちゃんは、照れくさそうにDVDのパッケージを眺めていた。

 パッケージの中の三人は、それぞれ格好良くポーズが決まっている。映像中のバトルシーンからうまく抜粋していると思う。


 サイタマバーチャルバトルにとって、DVDの売り上げも貴重な収入源だ。そして、広告も兼ねている。フィールドとなった場所についての宣伝にもなるのだから。


「それじゃ、さっそくDVD見てみなさいよ♪」


 部室には、流香先生が持ち込んだテレビとDVDプレイヤーもある。大宮は流香先生からDVDを受け取って、さっそくプレイヤーにDVDを入れた。


「うんっ、見よっかっ! ちょっと、恥ずかしいけどっ!」


 大宮の快活な声が部室に響く。こうして、俺たちは先日のサイタマバーチャルバトルの映像を一緒に見始めた。


 これからも俺たちはサイタマバーチャルバトルのチームメイト兼郷土愛好部メンバーとして、サイタマを愛し、サイタマで闘い、サイタマを広めていくことだろう。


 窓の外では、ミヌマ田んぼの稲が青々と育っていた。


 部室を吹き抜ける五月の爽やかな風を感じながら、俺たちは次のサイタマバーチャルバトルに思いを馳せるのだった――。


(第一部)完




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