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保健室で事情聴取


☆ ☆ ☆


「……で、パニックになって蹴り倒した、と」


 白衣に身を包んだ女養護教諭が、俺の横で毛布にくるまっている女の子に訊ねる。


「そ、それはっ、そのっ……! だ、だって、し、仕方ないじゃないっ!? 全裸の変態がバタフライで泳いで迫ってきたんだからっ!?」

「で、そっちの言い分は?」


 続いて、女養護教諭が俺に訊ねてきた。


「いや、地雷女がいきなり自転車で暴走して盛大に自爆したから、仕方なく適切な処置で助けようとしただけですっ! もちろん、トランクスは残しておいたはずですっ! ……ただ、けっこう昔から履いてたお気に入りの一枚だったので、飛び込んだときか泳いでいたときに破れちゃったんじゃないかと……」


 夢中だったので、そんなことまで気がつく余裕はなかった。まさか、無意識に全部脱いでたわけではあるまい。露出狂じゃないぞ、俺は。


「も、もうっ! あ、あんなものまで見せられて、お嫁にいけないじゃないっ!? どどどどうしてくれんのよっ!」

「し、仕方ないだろっ!? というか俺もあんなもの見られてお婿にいけないじゃない!」


 せっかく助けたのに暴力は振るわれるわ、アレは見られるわ、最悪だ。ちなみに、意識不明のまま水中に沈みつつあった俺は、騒ぎを聞いて駆けつけた教師によって助けられたらしい。気がついたら、こうして保健室にいたわけだ。


 寝ている間に軽く検査をされたらしいが、身体に異常はないらしい。サイタマスーパースクールはバトルを学ぶ学園だけあって、優秀な養護教諭がいる。ちなみに、この女の人は若くて綺麗だ。なんか、どこかで見たことある気がするのだが。


「まぁ、元気があっていいんじゃないかしら。あと、ふたりそろって結婚できないっていうんなら、あんなたち一緒にくっつけば万事オッケーじゃない?」


 なんてことを言い出すんだ、この養護教諭は。


「ちょ、冗談じゃないわ!? な、なんでこんな奴とっ!」

「俺だって地雷女なんてお断りだっ!」

「うるさいわよ、変態男!」


 ちくしょう。善行をしたというのに、いきなり変態だなんて不名誉極まる呼ばれ方をされるとは。

 まぁ、しかし……この地雷女が同じクラスになるとは限らない。ここでオサラバすれば、教室とかで険悪な雰囲気になることもあるまい。


「あ、ちなみにあんたたち同じクラスらしいわよ?」


 なにを言ってやがるんですかね、この養護教諭は……。


「ちょ、ちょっと、それ本当なんですか!?」


 女の子が血相をかえて養護教諭に訊ねる。


「ええ、間違いないわ。さっき、刀香とうかに聞いたから。あ、刀香ってのは私の双子の姉ね。あなたたちの担任よ。ちなみに私は流香るかっていうの。苗字は桜木さくらぎ。ちなみに、校内には妹の弓香もいるから、名前と顔、間違えないでね?」


 その名前を聞いて、俺は絶句する。そして、女の子は素っ頓狂な声を上げた。


「えぇぇぇぇっ!? もしかして、あの桜木三姉妹なんですかぁっ!?」

「おー、知ってる子いるんだー! 感心感心♪」


 桜木三姉妹。サイタマバーチャルバトルを愛するものでこの名前を知らない人間はモグリだ。サイタマスーパーバトルが開始された年に華々しく活躍した、サイタマ県央サイタマスーパースクールのアイドル的なメンバーたちだ。双子の刀香と流香、妹の弓香の、桜の花弁が舞うような鮮やかな闘いと美貌に、誰もが熱狂したらしい。

 サイタマスーパースクール卒業後は女子大に進学して、バトル活動からは一線を引いたという話だったが、まさかサイタマ県央サイタマスーパースクールに務めているとは……。


「ま、去年まではサイタマガバメントのサイタマスーパーバトル観光振興課にいたんだけどねー。……でも、ここのところサイタマ県央サイタマスーパースクールの戦績が思わしくないから、その立て直しのために、私たち三姉妹に白羽の矢が立ったってわけ。というわけで、よろしくね♪」


 まさか、サイタマスーパーバトルの伝説的なメンバーにこんな形で会うことになるとは思わなかった。


「となると、先生の年齢は……」

「はい、ストーップ! それ以上言ったら、ぶっ飛ばす!」


 流香先生は、笑顔で拳を構えた。

 この人は、火の魔法の使い手でありながら、エゲツナイ格闘能力を持つ恐ろしい闘士だった。そんな人の拳をくらったら、意識不明に逆戻り間違いなしだ。


「はは……余計な詮索はやめときます……命が惜しいので」


 さっき助かったばかりの命を粗末にするわけにはいかない。

 と、そこで――保健室のドアがノックされる。続いて、「刀香だ」という、流香先生と似た声。


「ん、どーぞー」


 そして、室内に入ってきたのは目の前の流香先生と瓜二つの女性だった。

 違いと言えば、流香先生が髪をお団子にしているのに対して、刀香先生は後ろで結んで下げている。

 そして、のんびりした雰囲気の流香先生と比べて、刀香先生からは鋭さと厳しさを感じさせる剣豪のようなオーラがあった。そもそも、着ているものが剣道の稽古着だ。


「ふむ、お前たちが私のクラスの新入生どもか。初日からずいぶんと派出にやってくれたものだな」

「す、すみません……!」

「で、でも、この変態が……」


 謝る俺だが、この期に及んでも女の子は言い訳をしようとする。


大宮美也おおみやみや


 刀香先生は、女の子に向かって厳かな口調で言う。


「は、はい……」


 女の子は、背筋を伸ばすようにして答えた。

 なぜなら、刀香先生の目が、けっこう怖かったからだ。オオミヤミヤというのは……女の子の名前だろうか。噛みそうな名前だ。


「妹の弓香がちょうど校舎から君たちのことを見ていた。話を聞いた限りでは、まずは君が前をよく見ずに自転車で暴走していたそうじゃないか」

「うっ、そ、それは…………」

「そして……与野待人」

「は、はいっ……!」


 今度は俺のほうを見ながら、名前を呼んでくる。俺も、背筋を伸ばして返事をした。


「着衣で飛び込まなかったのは、よい判断と行動だった。知識として頭にあっても、いざそういう場面に遭遇したときに、迅速に実行できるものではないからな。それと、弓香の証言では、飛び込んだときには、ちゃんとトランクスを履いていたみたいだ。おそらく、飛び込んだときに破れてしまったんだろう」


 よかった。目撃者の証言があれば、誤解もとける。入学早々、全裸変態男のレッテルを張られたらたまったもんじゃない。


「というわけで、今回の件は終了だ。体調に問題がないようなら、一緒に教室に行ってもらう。自己紹介はクラスの皆が揃っているときのほうがいいだろうからな」


 そうだ。これからクラスメイトとの大事な初顔合わせがあるんだ。そんなときにふたりそろって教師と一緒に教室に入ることになるとは。目立ちまくりじゃないか。

 ちなみに、クラスで支給されるはずだったジャージを、俺と女の子――大宮はすでに着ていた。大宮は自分で着替えたらしいが、意識不明だった俺はおそらく誰かに着替えさせてもらったのだろう。


「……与野っち、意外といい体してたわねー♪ 細マッチョってやつ?」


 犯人は、流香先生らしい。しかも、いきなりフランクなあだ名をつけられた。


「大丈夫、与野っちのフランクフルト、あんまり見ないようにしたから♪」


 ……あまりにもフランクすぎる保健教諭だった。というか、マジでもうお婿にいけない。


「ふえっ? フランクフルトって……――っ!?」


 遅れて、大宮は流香先生の言わんとすることを理解したようだ。絶句して、顔を赤くする。というか、さっき池の前でわざわざアピールしてから見せつけることになってしまったからな……。わざとではないとはいえ。もはや、トラウマだ。


「……もう、最悪だわっ! 記憶から消し去りたい!」


 俺も同感だ。なにが悲しくて夢と希望に満ち溢れたサイタマスーパースクールでの学園生活初日に、女性二名に己の股間を見られないといけないんだ。


「ちなみに、助けたの弓香だから目撃者は三人ね♪」


 ……マジでお婿にいけない。せっかく入ったサイタマスーパースクールなのに、登校初日から不登校になりそうだった。


「ふふ、ほら、そろそろ行かないといけないんじゃない?」


 俺の精神をえぐっておきながら、助け船を出すのも流香先生だった。刀香先生に促す。


「む、そうだったな。クラスの連中をいつまでも待たせるわけにも行くない。体調は大丈夫だな? それでは、私についてくるんだ」


 もう教室に行かずにこのまま保健室登校したいぐらいの気持ちだったが、せっかく入ったサイタマスーパースクールだ。重い足を引きずりながら、そして、蹴られた鈍痛を頭部に感じながら、刀香先生についていく。


「……うぅ、最悪だわ……」


 大宮も俺のあとから、フラフラと続く。


「んじゃ、またねー♪ またいつでも来なさいねー♪ 青少年の相談に乗るのも私の役目だからー♪ 青春がんばりなさいよー♪」


 能天気な流香先生の声を聞きながら、俺たちは保健室をあとにした。



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