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それぞれの帰り道

「それじゃ、また、明日ですっ……!」

「うん、また明日ねっ!」

「……また明日」

「大宮、暴走するなよ」


 授業が終わり、俺たちはスクールバス乗り場で別れの挨拶をした。大宮だけ自転車だ。


「暴走なんてしないわよ! 車道を法定速度ギリギリで走るだけなんだから!」


 自転車で四十キロ近く出せるこいつは、脚力と体力がありすぎる。最初の暴走のときもものすごい勢いだったからな……。競輪選手になれるんじゃないだろうか。


「んじゃねーっ!」


 大宮は助走をつけて自転車に飛び乗り、走り始めた。ちょっとスカートの中が見えてしまったが、紳士の俺は記憶から消去した。


 バスは左右二列ずつ席があるタイプだ。バスの真ん中あたりに雛子ちゃんと浦和が座り、俺は、ふたりの席の前にある降車スペースのところにある棒を掴んで立った。


 こうして、雛子ちゃんや浦和と一緒にバスに乗るというのも不思議な気分だ。一週間前には、絶対に考えられなかった光景。本当に、雛子ちゃんが無事学校に来ることができてよかったと思う。


「本当に……なんだか、夢みたいです」


 雛子ちゃんは俺と浦和の顔を見て、呟いた。


「……昨日まで、引きこもってたことが嘘みたいです……。みなさんと一緒に授業を受けて、ご飯を食べて、部活動に入れるなんて……本当に、びっくりしてます……」


 徐々に、雛子ちゃんの瞳に涙が滲んでくる。


「…………岩槻さんはよくがんばってる。えらい」


 浦和は雛子ちゃんの頭に優しく手を置いて、ゆっくりと撫でた。


「い、いえっ……本当に、みなさんのおかげですっ……雛子、みなさんがいなかったら、ずっと勇気を出せないままでしたからっ……」


 かなり無謀な訪問だったと思うが、結果として、うまくいってよかった。逆効果になる可能性だって、あったわけだから。


「ま、あまり気を張り詰めすぎずにな。流香先生じゃないけど、もっと肩の力を抜いて気楽に学校に来ればいいんじゃないか? まぁ、流香先生は肩の力抜きすぎだろうけど」

「は、はいっ……がんばって、肩の力を抜きますっ……」


 いつも一生懸命だからこそ、逆に深みにはまってしまったところもあると思う。でも、最初の一歩は踏み出せた。あとは慣れていくことだ。大宮や浦和と接するうちに、雛子ちゃんの肩の力も徐々に抜けていくと思う。


 バスがオオミヤ駅前の、デパートの傍にある停留所に止まる。そこからは徒歩で駅へ移動して、それぞれの路線で帰ることになる。


「それじゃ、気をつけてな」

「は、はいっ……ありがとうございますっ」


 俺と浦和はジェイアールなので、トウブ線の雛子ちゃんとは別々になる。ジェイアール改札に続く階段の前で、俺たちは別れを告げた。


「浦和も、また明日な」

「……ん。また、明日」


 浦和とも別れて、俺はひとりサイキョウ線の地下ホームへ向かう。


 明日は、サイタマスーパーバトルの授業もあるし、部室も使えるようになっているかもしれない。期待に胸を膨らませながら、俺は足取り軽く階段を下りていくのだった。



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