降霊術師 VS ヤンデレ!
「さあ、故人の思い出を語ってください。強いシンクロが故人の霊を現世に呼び寄せるのです」
アタシは降霊術師・宇曽月代。死者の霊を呼び寄せるのが商売。とか言ってるけど当然こんなのインチキ。カモから情報を聞き出しながら話を合わせるだけで何十万ももらえるんだからチョロい。黒い壁紙・家具に怪しげな札でデコレーションした、このいかにもな怪しい呪術的雰囲気の仕事部屋は、ハッタリが効いていて我ながら自慢の物件。
対面に正座している今回の倉井矢実子っていう依頼人は、最近彼氏に死なれたらしいいかにも不幸を背負ってそうな暗い二十代中盤の女。経験上こういう依頼人は金払いがいいし騙すのが簡単という優良物件。今夜はこいつの金で回らない寿司でも食うか。
「光さんは酒も賭け事もやらない真面目な人でした。将来も誓い合ったのに、車に轢かれ……ううっ」
あーあー泣き出したよ。とりあえず真面目クンね。車で轢かれたシーンも、もやっと再現したらOKってとこだな。
「ああ……降りてきました。降りてきました。……ここは? 矢実子? 矢実子なのか? たしか俺は車に轢かれて……」
「光さん! また話せてよかった……どうしても訊いておきたいことがあって」
えー質問とかめんどくさ。まあ適当に流すか。
「なんだい、矢実子」
「最後に会った日、光さんの服から別の女のニオイがしたんだけど」
ええ……浮気かよ。真面目くんじゃなかったんかい。
「あれは会社の上司だよ。近くの机で仕事してただけなのに、香水の匂いが移って敵わない」
「ウソ! 光さんニートじゃない! 上司なんているわけないじゃない!!」
やっちまったァー! 光の野郎ニートかよ! ヒモじゃねえか。ダメンズじゃねえかー!
「ああ、上司ってのはお袋の例えっていうかそういうのだよ」
苦しい。我ながら苦しい。でもここを切り抜けないと。
「光さんのお母さん去年死んでるじゃない!」
うっそでしょ死んでんのかよ! ってうわ!? なにこれ油くっさ! 何だこの女、いきなりバッグからク○5○6取り出してぶっかけてきやがった!
「浄化しなきゃ……。光さんは私の炎で綺麗になるの。大丈夫だから、ね?」
大丈夫だから、ね? じゃねええええ! 何○ャッカ○ン取り出してんだよ。頭おかしいよこいつ! やべえ、アタシは今マジで死が近寄っているのを感じている!
「助けてください! 演技なんです演技! 降霊術師とか真っ赤な嘘なんですッ!」
「ダメだよ光さん。他人のふりしてごまかしても無・駄。光さん本人だって私にはちゃあんとわかるの……」
ネタばらししても聞く耳持たず、表現し難いやばい表情で右手にスプレー、左手にライターを持ってにじり寄ってくる。タスケテ!!
「勘弁してください! お金なら返します! 許してええええ!」
受け取った金を差し出しても、無視してにじり寄ってくるゥ! 嫌アアアアアッ!!
「あ、あああああ……有り金も全部出しますので!!」
財布入りのバッグをひっつかんで床に投げるが、なおもこの狂人の歩みは止まらない。やつがゆっくりとスプレーとライターを眼前に構える。
ここはマンションの五階、窓からは逃げられない。この女の背後には唯一の出口。だったら死中に活ありと言ってたどっかの偉い人の発言にならうべしィ!
「うわああああああ!」
雄叫びとも悲鳴ともつかない声を上げながら矢見子に体当たりして部屋を脱出! そのまま夜の街を逃げ回り、あの悪鬼から命からがら逃げ切った。
◆ ◆ ◆
「うふふふー……」
ほっこり笑顔を浮かべながら、路地裏でインチキ降霊術師が置いていった財布の中身を金勘定。キャッシュカードのような足のつきそうなものはそのへんにポイ。
私の本名は阿久井みちる。詐欺師専門の強盗。こうやって男を失った可哀想な狂女のふりをして何人もの詐欺師から金を巻き上げてきた。
ああいう連中は警察に駆け込めないからチョロいなあ♪ 今夜はこのお金で回らないお寿司でも食べよっと。