5
名前
□▼×○
種族
シン・エルフ
年齢
25
スキル
夢幻の書庫
加護
弁財天の慈愛
なぜか名前の所が読めない。
「さて、見えたようだな。なんと書いてあったか読み上げてくれ」
俺は映し出された文字群をそのまま伝える。もちろん名前がバグっていることも。
彼女は嬉しそうにウンウン頷くと、
「うむ、やはり君が異常だということが決定づけられた」
満面の笑みでそう言った。
「ちょっと勘弁してください」
まあ彼女に言うべきことではないが、思わず言ってしまった。
「名前がおかしいという事は、君はこの世界においての名前がないのかもしれないな」
「名前ですね、ええと生前は…………あれ……うそだろう?」
自分の名前が思い出せない。あろう事か両親の名前も思い出せない。なんでだ? いや、そういえば女神が何か言っていたような……。
「落ち着きたまえ。私も転移に詳しくはないが、わざと消されているのではないか?」
「わざと、ですか?」
「なにか不都合が有るからあえて名前を消し去った。もしくはこっちで新たに名前をつけたいと女神に言った。いくつか候補が有るが、そのあたり女神と何か話していないのか?」
たしか……俺は女神に何かを…………。
「そういえば……地球の記憶はある程度忘却すると言われていたかも知れません。たしか故郷の事を思い出して、発狂し自殺する人がいるとかで。名前は、たしか地球の名前が目立つからといわれて……いやならそっちでつけろと……」
「なるほど。名前はこちらの世界に合わせてつけろということだな。君、名乗りたい名前は有るかね?」
いや急にそんなこと言われても……。
「特に無いです。この世界で普通の名前をつけたいとは思うんですけど」
こっちの世界の、さらにこの国で普通の名前って何ですか。
「うむ、ならば……稀代の魔法使いからメルヒオールというのはどうだろう?」
「メルヒオールですか?」
「ああ、メルヒオールというのは昔に魔法の発展に大いに貢献したエルフで、大賢者、大魔法使い、魔法王とも呼ばれていたのだ」
「ええっ。それ、目立ちそうじゃないですか?」
「エルフだけでなく人間でも多い名前だぞ? 君の世界では有名人の名前にあやかって名前をつけることはないのか?」
言われて見れば、確かにそうだ。有名人から名前をあやかることは多いかも知れない。そう考えれば大賢者の名前をつけたとしても、むしろ逆に気にされないのかもしれない。
「うん、メルヒオールで良いかなぁ」
「そうだな、私は君の事をメルヒオール、いやメルとよぼう。私のことはシルヴィーヌではなくシルヴィでいいぞ」
いま初めてシルヴィの正しい名前を聞いたような気がする。言われる前からシルヴィ呼ばわりしてたし。
「分かりました、シルヴィさん」
「まあ名前はそれでいいとして……一番の難題は『シン・エルフ』だな」
「そういえばシン・エルフって何ですか? というかエルフ自体が曖昧なのにシン・エルフなんてさっぱりなんですが」
そもそもこっちの世界の人間が、地球の人間と同じなのかどうかも危うい。さらにエルフとかこっちの世界での定義すらもわからんのに、シン・エルフとはなんだ。
「そうか、ならば軽く種族について話しておこう」
その後彼女に色々と解説して貰って分かったことは、魔法を除けば地球の人間とこちらの人間はあまり大差はないようだ。また人間が猿人系であるがエルフは妖精族の一種であり、根本的に違う種族らしい。ただし創造者である神が見た目と体の機能の一部を同じように作ったため、分類は別れるがほとんど同じとみて良いらしい。妖精族の一種と猿人の一種(人間)がほぼ同じって本当だろうか。子も出来るらしいから、ほとんど同じ、なのか?
ただエルフは美しい顔立ちで、基本的に魔力が多い、また人間族や獣人と比べ長命らしい。代わりに人間族は獣人に及ばないものの筋肉が付きやすく、身体強化の魔法が得意なのだとか。逆に言えば妖精族はあまり筋肉が付きやすい体ではないため、肉弾戦はあまり得意でないらしい。
「それでだな、私はエルフの上位種である『ハイ・エルフ』については分かるが、シン・エルフなんてものは聞いたことがない」
「え、聞いたことがない?」
「ああ。もしかしたらエルフより下の種族であるかも知れないし、エルフよりも上の種族であるかもしれん。今後種族で問題になることは間違いないだろう」
「やっぱり隠した方が良いんですね」
「それが無難だろう。ただ私の予想では『ハイ・エルフ』を超える力を持った種族だと思う。まあそれは後々解明していこう」
は? エルフ上位種のハイ・エルフを超えた存在?
「夢幻の書庫は……取り合えず最後にしよう。その前に加護についてだ。弁財天という者を聞いたことがないが、君は何か知っているか?」
「ええと、元いた国では福の神の一人で……ええと、音楽とか学問の神だったような?」
「ふむ、なぜ疑問系なのだ?」
「いえ、色々な神が進行されてた地域なので、いちいち覚えてないんです。俺は信仰心もなかったし。もしかしたらこっちに来る前に話した女神がその人かもしれません」
確かリュートのようなものを持って居た気がする。日本で見た七福神イラストも同じような楽器を持って居たし、可能性としてはあり得るよな。
「音楽の神、か……。音楽、ね。私が以前使用していた楽器であればあげても良いが、どうする?」
「え、本当ですか!? ちなみにどんな楽器ですか!?」
思わず前のめりになってしまったからか、シルヴィは驚く。
「ずいぶん食いつきが良いな」
「ああ、すいません。地球にいた頃はギターが趣味で、暇なときとかに良く弾いてたんです」
考え事をしていると無意識にギターに手が伸びていた辺り、依存症っぽくなってたと思う。
「ギター、か。それはどういった楽器だろうか?」
あれ、もしかしてこの世界にギターがない?
「ええと、弦楽器の一種で、張った糸を弾いて音を鳴らす楽器なんですが」
「ハープみたいなものかな、まあ少し待て」
ハープとはまた違うんだけどな……というよりハープはあるんだな。
すこしして彼女が自身の寝室から持ってきたのは、とても見覚えのあるものだった。その作りはギターに多少似ているが、指やピックで弾く楽器ではない。彼女が一緒に持って居る弓で弾く楽器、
「ああっ、ヴァイオリン!」
彼女が持ってきたのは小さなハープとヴァイオリンだった。
エレキヴァイオリン(エレクトリックバイオリン)であれば地球にいた頃所持していたし、ギターに比べれば雀の涙程度しか弾いていないが、それでも弾ける楽器があるのはうれしい。
「実は私はこの楽器が好きでな、昔は良く弾いていたんだ。楽譜もあるし、良ければ貸すぞ」
「え、うそ。本当にいいんですか!?」
「ああ……なんだかそこまで喜ばれると私も嬉しくなるな。今度デュエットしようじゃないか」
「ええ、こっちの曲をいくつか教えてください! すぐに覚えるので」
なんだかもう魔法とかどうでも良くなってきた、いえやっぱり魔法も気になります!
「そうか、楽しみにしている。まあ、とりあえず楽器は戻してくるよ……ふふ、そんな悲しそうな顔をするな、話が終わったらケースと一緒に持ってくる」
「よろしくお願いします」
そういうと彼女は頷く。
「さて、私が戻してくる間にもう一度自分のステータスを確認してくれ」
俺は言われたとおり自分のステータスを表示した。
名前
メルヒオール
種族
シン・エルフ
年齢
25
スキル
夢幻の書庫
加護
弁財天の慈愛