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夢幻の書庫  作者: 入栖
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 町を出る、と言ったところで、準備する時間はさほど掛からなかった。もともと宿に置いていた荷物はアイテムボックスを隠すダミーみたいな物で、あってもなくてもさほど困らない物である。

 もちろんしっかり回収はするし、ダミーみたいな荷物を持ってアイテムボックスを所持してないように見せるのも忘れない。


 ただ出るにあたって大変なことがあるとすれば、それは。

「メルお兄ちゃん元気でねっ!」

 メリーちゃんだろう。

「メリーちゃんもね」


 宿屋の娘という事で別れには慣れているのだろうか。こっちは張り裂けそうな痛みが体の中で起こっているというのに、そんな屈託のない笑顔を向けられるなんて。


「次の町でもしっかりすんのよ! メルはエルフなんだから、変なのに絡まれやすいことを忘れちゃダメさね」

「ご忠告ありがとうございます。気をつけます」


 ぶんぶん手を振ってくれるメリーちゃんと別れ、ギルドへ向う。


 次の町への移動方法は案外楽に決まった。どうやら町から町に定期便が出ているらしく、運賃を払えば乗せてもらえるらしい。すぐに財布をひらいて、担当者に頭を下げた。

 護衛はC・Dランクの冒険者達がしてくれるらしい。


「さほど強いモンスターも居ませんし、過剰戦力ですな、ああはっはっはっは」

 と、同行する商人が笑っていたから安全に町を移れることだろう。俺は馬車に揺られるだけだ。一応冒険者として最低であるFランクから一つ上がり、Eランクとなったおかげで、護衛任務として受けることも出来るらしかった。しかし今まで護衛なんてしたことがないし、されたこともない。そのため今回は様子見をかねてただの客となったが……それは正解だっただろう。


(まさかこんなにゆっくり読書できるとは思わなかった)

 集中して文字を見るから『酔うかな?』なんて思っていたけれど、幸いにもそんな事はなかった。また相席している神官服の男性が寡黙で、必要以外喋らないことも良い。


 彼は窓を見つめて小さくため息をついているが、もしかしたら暇なのかもしれない。俺はずっと読書して話しかけないし、読書を勧めようにも彼に酔うからと断られてしまった。

 そんなこんなで1日が経過し道中二日目。


 今日も動く馬車をBGMにゆったりとした時間が流れるものかと思っていたが、そうでもないらしい。

「魔物がいるぞっ!」

「武器を抜けっ!」

 読書を続けたいところだったが、緊縛した声に集中を乱される。ちらりと窓から様子を見るに、お相手は狼型の魔獣のようだ。


 自分としては外に冒険者がいるから、このまま馬車でゆっくりしたいところではあった。しかし隣の神官はそうでもないらしい。待ってましたとばかりに勢いよく馬車を飛び出した。

 隣の御者も驚いている。そりゃあそうだ。守られるべき乗客で有るにも関わらず、わざわざ魔物の前に飛び出していったのだ。それも笑顔で。


 そしてメイスを抜き放つと、高笑いしながらモンスターへ突撃していく。その笑みはどう猛な肉食獣が獲物を見つけたようなもので、先ほどの寡黙で神聖な面影は破片も見当たらない。

 お前、守られる対象じゃないのかよ。


 冒険者達も突然の乱入者に困惑気味だった。確認していたであろうフォーメーションは崩れ、暴走無双している聖職者を唖然と見つめていた。ただし、彼が数体倒したところで彼らは正気を取り戻し、すぐに加勢に向った。加勢が必要だったかは、分からないが。


 暴走の限りを尽くした彼は、魔物の中心で両手を掲げ高笑いする。そして手を合わせると、「おお、神よ」と言って何かに祈り始めた。


 邪神信仰者かな?


 馬車から降りると、俺は呆然と見守っている冒険者達に声をかける。

「ご無事ですか?」

「あ、ああ。彼は、君の知り合いか?」

「馬車が同じなだけです。昨日初めて会いました。それと乗る馬車を変えていただけたら幸いなんですが……」

「そうか、頑張れよ」


 変えてはくれないのか。荷台で良いから移してくれ。

 とりあえず、かすり傷と打撲を負った男性に回復魔法を使うと、馬車へひっこむ。少しして彼はやってきた。

「失礼」


 と一言言って、斜め前に座る。口数は前と変わらず少ない。しかし、どこか寒気を覚える薄笑いを浮かべていた。


 ……落ち着かない。


 彼は時たまメイスをにぎりながらヘヘッと笑う。読書とかいう雰囲気ではない。とりあえず武器はしまってほしい。

「お強いのですね」

「はは、お恥ずかしい」

 声をかけてみると、彼はそんなことを言って頭をかく。俺は疑問に思ったことをそのまま口にしていく。


「どうして魔物退治を? 神官と言えば後方で回復支援をするイメージだったもので」

「ええ、天啓があったのです。汝、メイスを取り破壊の限りを尽くせ、と。私は神の意志に従い動いているに過ぎません」


 邪神信仰者かな?

「そ、そうだったんですね」

 こんな時にどう会話を紡げば良いのかが分からない。書庫にあるだろうか。いや、ない。

 ニタニタ笑いながらメイスを拭く彼が気になって、読書は出来ずじまいだった。


 とてつもなく幸先不安であるが、今回の旅路は大丈夫だろうか。


第一部 完

この先は中途半端なところまでしか書いてなかったようなので、ここで打ち切り。

暇つぶしにでもなってくれたら幸い。


現在メイン執筆中のマジエロもよろしくです。

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