24
冒険者においてBというランクは、一人前を超し上位冒険者として尊敬されるレベルの冒険者である。F、Eランクが駆けだし、Dランクが一人前、Cランクがベテラン。多くの者はD、Cランクで冒険者を引退し、B以上に行くのは希である。そのためCランクが才能なしの限界と言われている。
Bランクパーティの『紅の薔薇』は若くして上位冒険者となった(一人アラエイティが混じっているが)才能溢れた期待のパーティである。実力も申し分ないし、見た目も良い。ファンがいるのも当然だろう。
しかし彼女達であってもただモンスターを納品するだけでは、ここまで人だかりは出来ない。ここまで人だかりが出来ているのは納品しているモンスターの影響だ。
ワイバーンと彼女達に群がる人、人、人。ギルド職員はおそるおそると言った様子でワイバーンの顎を開き、牙を確認している。後ろから大声で脅かしたら、彼は漏らすかもしれない。是非だれかやってくれないだろうか。
さて、見ている人は様々だ。がっちがちのフル装備戦士やら、真っ黒な黒衣をまとった魔法使いやら、別の場所で仕事をしていたはずの受付嬢やら、ただの町人だっている。いつも受付嬢を見守っている彼ですら、こちらでワイバーンを見学するレベルだ。近くに来ないでくれ。
よっぽどワイバーンというのは一般冒険者にとって厄介な存在だったというのが分かる。
たかがワイバーンでだ。
俺やヴィオレットからすれば、あんなのは空を飛ぶ肉の塊に過ぎない。肉の味はそれなりに良いため、結構な頻度でヴィオレットがお土産にもってきてくれる。それくらいの価値しかない。アイテムボックスにあまった肉が大量にいれられているぐらいだ。
今後ワイバーンやそれ以上の魔物を納品する際は、厳重に注意する必要がある。場合によっては今以上に目立つかもしれない。
「立派な牙だ……コレを素材に武器を作ったら……」
牙を確認した職員が感嘆のため息を漏らす。紅のバラの面々は皆誇らしげにワイバーンを見ていた。
しかし、ぎりぎり竜として認められる、竜種の中でもザコのワイバーンの牙があそこまでありがたがられるのか。
生え替わったから古いのあげる、とヴィオレットから貰った牙はどうなるのだろうか。絶対に見せてはいけないだろう。
どうやら彼女達は一部素材を引き取り、それ以外を競売にかけるようだ。必要な素材をあげるよとしつこく彼女達に言われたが、欲しいものは何一つとして無い。代わりにお金はしっかり貰った。おかげで次の町へ行くための資金が目標を達成し、いつ町を出ても良いぐらいになった。
ワイバーンの処理をギルドにまかせると、今度は彼女達の利用している宿でパーティである。参加費は無料と言われたが、一応払おうとした。が、その手は除けられた。そして
「メルちゃんパーティに入らない?」
と真顔でクローデットが言う。
「わたくしは大賛成です! ねえ、メルさん。一緒に行きましょう!」
「あん、メルがウチのパーティにか……。いい考えだな」
「どうでもいい」
反対意見はないようだが、紅のバラには大きな問題がある。
「いやいや、紅のバラは女性パーティじゃないですか。男性を入れないでくださいよ」
「えぇー別に女性だけで縛ってるわけじゃないんだけど……それにメルちゃんなら女装でもいけるんじゃないかな?」
止めろそれは記憶から抹消したんだ。
「ふふっ」
なんだか意味深な笑みを浮かべたユーフェミアに後ろから押さえ込まれるも、なんとか彼女から逃げ出し用意されていた席に座る。すぐにユーフェミアがさも当然のように隣に座り、その隣にフレデリカ、対面にイオとクローデットが着席する。そして元々彼女達は声をかけて居たのであろう、宿の人たちが矢継ぎ早にいくつも料理を運んできた。
「メルさん、お味はどうですか?」
ユーフェミアに問われ、すぐに美味しいです、と答える。
料理はとても美味しかった。この辺りで好まれて居るであろう濃い味付けではない。至って普通の味付けだった。
「やっぱりメルちゃんはこっちだったでしょ」
「ちっ、まあエルフだから、そーかもしんねーとは思ってたけどな……」
「私は濃い方が良い」
聞くところによると冒険者、都市間を移動する商人は塩を使った保存肉などをよく食べるせいか、濃い味付けが好きな人が多いらしい。対して町中の商人、貴族は薄味が好みで、エルフに至ってはさらに薄味かつ、自然のまま食べることもあるぐらい薄味を好む。
「ちゃんと宿の食事が冒険者向けか商人向けか確認しとかないと、後で後悔するわよ?」
とクローデットに言われるもののもう遅い。その宿を取ってしまった。とはいえ今更宿を変えるつもりもないし、ワイバーンのお金が入ったら龍の谷へ向ってこの町を立つ予定だ。まあ宿を変えない一番の理由は幼女の存在だが。
「勉強になりました……」
「フレデリカも前はよくやらかしてたわ。まあ、ユーちゃんと私は薄味の方が好きだから別に良いんだけど」
フレデリカを見つめうん、とうなづく。
「確かにありそうですね」
そういうとフレデリカは不満げな顔で俺を見た。
「だって、フレデリカって後先考えなそうというか、お転婆というか、猪突猛進ぽいじゃないですか」
と言うと彼女は肩をすくめ小さく首を振った。
「おいおい、確かにあんま否定できないけどな、ウチのパーティじゃ後先考えない一番はユーフェミアだろ」
「確実に……ユーフェ」
イオさんも真顔で同調したかと思えば、
「ユーちゃんね」
クローデットさんも笑いながら同意する。
「え?」
思わずユーフェミアさんを見つめる。彼女は頬を染め、恥ずかしそうにうつむいた。見た限りでは一番おしとやかそうだし、一緒に行動した感じでは一番おとなしそうだが。
「そこまで隠しては居ないんだけれど、吹聴はしないでね。実はユーちゃんはある国の大貴族で、家を飛び出して冒険者をしているの」
「ふぁっ?!」
ユーフェミアさんは顔を手で覆うと、
「お恥ずかしい限りです」
と小さく言った。どうやら事実らしい。
人は見かけによらない。
宴もたけなわになった頃に、珍しくできあがったユーフェミアさんは俺の頭をなでながら口を開く。
「メル君はこの後どうされるんですか?」
「ええ、そろそろ町を出て目的の場所へ行こうと思います」
彼女にあうために、この町からさらに東へ行った所にある、非常に標高の高い山を登らなければならない。その間にもいくつかの町を経由しなければならないし、ある程度の金が必要だ。もっともワイバーンのおかげで、予定していた金額の大半が確保出来たのだが。
「それはいったいどこでしょう?」
「龍の谷です」
と言うと彼女はカラカラと笑う。
「もう、お冗談が好きですね。そんな所にいったら死んでしまいますよ」
「そうですよね、ははははっ」
「ふふふふっ」
地球もこの世界も酔っ払いの相手は適当で大丈夫らしい。




