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夢幻の書庫  作者: 入栖
23/25

23

「メルちゃんは山岳での戦闘ってしたことある?」

 朝食を食べようと口を開いたときに、声をかけられる。哨戒のため少し離れていた彼女は、弓をしまいながら隣に腰を下ろした。


「ああ、お帰りなさい。僕は斜面とか山岳での戦闘はあまりしたことがないですね」

 彼女はいつも料理担当のユーフェミアさんから朝食を貰うと、ありがとうと言って料理に口をつけた。

「おふぃ……ホントかよ?」


 返事をしたのはユーフェミアではなく、今日も大盛りフレデリカであった。彼女は口に料理を含みながら、続きを話す。

「まあメルなら大丈夫か。あたいらみたいな接近は傾斜じゃ戦いづれえの、ある程度平坦な場所に移って戦うのさ」


「相手は飛んでるからね、こちらの状況なんてお構いなしよ」

「ただでさえ登りで疲れてるっつーのに足場が悪いとなっちゃ戦ってらんねーわ」

 戦闘の段取りと食事を終えると、皆でテントを片付けその場を後にする。



 傾斜がきつくなってきたのは、歩き始めて一時間ぐらいした頃だった。

「頂上へ行きてぇ訳じゃねーんだがな……」


 彼女達紅のバラの目的は、ワイバーンである。確かに頂上付近によく出現するが、別に今居る地点だって出現するし、希にであるが野営をした渓流付近だって出現することもある。


「なんだか不思議ですわね。会いたいときに会えず、会いたくないときに会うような気がしますわ」

 物欲センサーなんて物があるのであれば、それは今まさに発動しているだろう。心理学とか確率とか勉強してれば、物欲センサーなんて鼻で笑ってしまうんだろうが。


 と、俺の索敵魔法になにかが引っかかる。それから数十秒程してイオさんとクローデットさんが何かを察知した。

「何か来る……」


 イオさんのつぶやきにフレデリカとユーフェミアは武器を手に取る。そして比較的足場のある場所へ移ると、あたりを警戒する。

 現れたのは数体のハーピィだった。それほど驚異でもないと話しながら一匹を狩ったところで、俺はあることに気がついた。


「あの、あっちに飛んでるのってワイバーンではありませんか?」

「マジじゃねーか。ってハーピィ狩ってる時に出てくるとか、空気読めよ!」

「あちらは気がついていないようですわ。どうされます?」

 とユーフェミアはクローデットに判断を仰ぐ。


「威嚇しましょ。メルちゃんも居るしなんとかなるわ。メルちゃん、ハーピィをお願い!」

 その言葉を聞くのと同時に俺は弓矢を放つ。風の魔法を受けた矢は一直線にハーピィを貫いた。残りは三匹。


「こっちは一人で十分なので、皆はワイバーンに集中してください」

 すぐに矢を継ぎ、風の魔法を付与する。そしてハーピィの脇腹を打ち抜いた。残りは二匹。

 彼女達は場所を少し移動するようだった。確かにこの場所は狭い。少し下った先にある岩場に行くと、ユーフェミアは魔法を、クローデットは弓で攻撃する。


 ワイバーンはこちらを無視してそのまま飛んでいく可能性もあったが、どうやらしないらしい。進路を変え、彼女達に向って降下してきた。

「さて、こっちも片付けないと」


 番えた矢から手を離し、勢いよく飛んでいく矢を見つめる。こちらに飛んでくる2匹のうち先行していた一匹を足から胴にかけてを突き抜け、そのまま彼方へ飛んでいった。残りは一匹。


 最後の一匹は俺が弓をつがえ終わるときには目の前に来ていた。慌てることなく弓を放つと、最後の一匹は俺の真横に墜落した。

 横に墜落したハーピィは、どうやらまだ息があるらしい。俺は杖を取り出すと魔法でしっかり息の根を止める。


 ワイバーンの方は現在戦闘中のようだ。

 クローデットとユーフェミアが遠距離でじわじわと体力を減少させ、降下しながら攻撃するはフレデリカが受け止め、イオが攻撃する。再び浮かび上がるとクローデットとユーフェミアが攻撃する。なんともバランスのとれたパーティだ。


 とりあえず彼女達に近づこうと、傾斜を滑るように下る。

 ワイバーンはこのままではまずいと思ったのだろうか、陸地近くで何度も大きく羽ばたき風を起こす。すると辺りの砂塵が舞い上がり、辺りを灰色に染めた。

 被害を一番被ったのはフレデリカだった。近くに居た彼女はもろに砂埃を浴びて、目に砂が入ったようだった。


 彼女は己の武器で頭をガードするも、ワイバーンは攻撃しなかった。今度はワイバーンは浮かび上がり山の上へ上るとそこで風をおこす。


 クローデットの矢が当たるも、ワイバーンは意も返さずなお風を起こす。すると今度はガラガラと小さな岩達が斜面を転がってきた。続いてワイバーンは近くにあった大岩を尻尾で蹴飛ばすと、大岩も一緒に斜面を転がる。


 斜面で加速していく岩達はまるでパチンコだった。壁や岩に当たるたびに向きを変え、さらには岩が何かに衝突する度、衝突した岩が動き出す。彼女達に転がる岩が増え、もはや小さな土砂崩れだ。

「ワイバーンはコレが目的だったか……」

 小さな土砂崩れというのだろうか。


 クローデットはすぐさま杖を引き抜き魔法を唱える。イオがクローデットの後ろに来ると、魔法は発動した。

 土の壁。転がる岩を避けるためだろう。


 またユーフェミアはフレデリカを守るため彼女の元へ走って行くも、それは間に合わなかった。転がる岩に追いつかれ、フレデリカと分断される。彼女は仕方なくフレデリカの前に光の盾を作り出すと、自身の前にも作ろうと詠唱する。しかし小さな石が彼女の顔と手に当たり、詠唱が途絶える。

「ユーちゃん!?」


 クローデットの悲痛な声が辺りに響く。浮かび上がっていたワイバーンはチャンスだと思ったのだろう。初めフレデリカを狙って降下していたが、クローデットの方に向きを変えた。

 ユーフェミアは必死の形相で光の矢を放つもそれはワイバーンにとっては何ら意味はなかった。もしコレが対人戦だったら、効果はあっただろう。無詠唱という高速発動のため威力は弱いものの、それなりのダメージはあるし、けん制にもなる。しかし相手はワイバーンだ。そんな威力の光の矢なんて、避けるまでもなかった。


 ユーフェミアは杖で顔を守り目をつむる。それと同時に俺の構築した魔法は発動した。

 轟音。

 ワイバーンは目の前に突如現れた氷壁に阻まれた。魔力を過多に含んだその氷壁はワイバーンの爪をもろともしておらず、傷一つ無い。そして彼女に向って転がってきた岩石は、もう一つの氷壁によって弾かれた。


「ほぇ」

 音を聞いたユーフェミアは自分が無事なのが信じられない様子だった。間の抜けた声が口から漏れ、トロンとした表情で、それも口を半開きにし、透明な氷壁に阻まれるワイバーンを見ていた。

 俺はすぐにユーフェミアさんの前に立つと氷壁を消し、今度は鋭い氷塊をワイバーンに飛ばした。ワイバーンはすぐ浮かび上がろうとしたが、こちらの氷塊の方が早かった。

『gyayaaaaaaaa』


 片翼をもがれたワイバーンはバランスを崩し、落下。そして斜面を転がる。ちょうど転がる先に居たフレデリカさんが、ワイバーンの首を落とし勝敗は決した。

「大丈夫ですか?」

 俺がユーフェミアさんに声をかけると、彼女はハッと驚き俺を見る。そしてゆっくりはにかんだ笑みを浮かべると、

「ありがとう、メル君」


 そう言って俺の体を引っぱった。

 ふにょん、とこの世の物とは思えない柔らかで暖かなのものに包まれ、思わず体が硬直する。

 どうやら彼女に抱きしめられているらしい。身長差もあって、目の前はちょうど胸。

「メル君は本当に頼りになりますね」


 と頭をなでられる。

 俺はもうオッサンなんだが。まあ、悪い気はしないから別にいいか。と彼女の背中と腰に腕を回した。

 彼女の腰に手を回しながら、自分はまごうことなくエロフであることを実感した。

 


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