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主人公は丁寧に話すときに「僕」地をだすと「俺」を使います。僕、俺が混在していますが基本的に誤字ではありません。が、私が書き間違えている部分もあるので見つけた場合報告頂ければ幸いです。
俺の場合、自身の許容範囲を超えた現象が起こると、現実を直視出来ないらしい。もっともそれは俺だけで、他の転移者や転生者に当てはまるわけではないのかもしれない。
目をつむり「はぁ」と小さく嘆息する。そして心の中で数秒数え、祈りながらゆっくり目を開ける。残念なことに先ほど見た光景とは変わらないようだ。
「綺麗だなあ。ふふふ、泳げるかなぁ」
現実逃避もしたくなる。
目の前にあったのは湖だった。町ではない。人はいない。うっそうと茂る木々と植物に囲まれた湖だ。
変な場所にぶっ飛ばされることは、異世界物のネット小説ではおきまりの展開である。だがとばされてみて分かったが、マジでたまったもんじゃない。
ここは安全なのだろうか?
この湖の水は飲めるのだろうか?
ここらに食べられるものは有るのだろうか?
近くに町はあるのだろうか?
どこかに人はいないのだろうか?
「なんとかしないとな……」
尽きることのない問題を頭の中で羅列しつつ、ぼぅっと湖を眺める。穏やかな水面には波紋が広がることもなく、水泡が出来ることもなく、ただ日の光を反射して、てらてらと輝いていた。
「そろそろ行動するか……」
とりあえず自分の状態を確認してみようか。
自分を確認して分かったことは、追い込まれていることに何ら変わりないという、悲しい現状だった。
荷物、なにもない。もはや手ぶらといって良い。ナイフやメタルマッチやロープといったサバイバル用品なんて気の利いた物はなく、それどころか生きるために必要な水、食事すらない。まあ目の前の湖の水が飲めるならば、水は不要かも知れないが。
そもそもだが服がおかしい。なんでこんなうっそうと茂っている森に囲まれて居るというのに、半ズボンなのだろうか。そしてこの中途半端な腰巻きは何なのだ? 足隠れてないし。ブーツを履いているから多少は足を保護してるけど、それでも伸びた蔦とか草で足切るだろ、アホか。
「どうしよう」
当てもなく歩くしかないだろうか。人がいる方向が分かればそちらを歩くが、もちろん分かるはずもない。
「高い所を目指すか?」
しかしそれは一種の賭けのような気もする。確かに高い所から辺りを見渡せば、どこに何があるか分かるかも知れない。だが山の方に町は多分ない。わざわざ高所に町を作るわけないよな、普通平地に作る。となればこのクソ足場の悪い道を進んで登り、それでいて町の方向へ降りなければならない。だがそれは一番運の良いときだ。
運が悪ければ、町なんて見つからなくて、生い茂る草を見つめ絶望するだけかも知れない。
「いや、でも闇雲に歩くよりは良いのか?」
誰か教えてくれ……とはいえ誰もいねぇ。かといって女神から貰った能力じゃあ打開できる案をすぐに出せるとは思えない。いったいどうすれば?
と、思考にふけっていると、不意に大きな日陰が自分の前に出来る。それはやけに細長くて、ナルトのように渦を巻いていた。顔を上げると思わず口が開いた。
「なんだこれ……なんだこれっ」
開いた口がふさがらない。日差しを遮っていたのは雲ではなく、巨大なヘビだった。いや、角や手のような物が生えているヘビがいるだろうか?
漫画で見たことがある。アレは龍だ。
まったくもって意味が分からない。俺はドラ○ンボールなんて集めてないんだが。もしかするとコレがあの女神の言っていた魔物だろうか。
こんなことなら、神から魔法の才能を貰っとけば良かったのではないか?
いや無意味だ。たとえそれがあったとしても、突然この状況に陥っては対処できるとも思えない。
ゆっくりと降りてくる龍。白銀の体に、大型トラックさえ咥えられそうな大きな口。そしてその口から覗く真っ白で巨大な牙。そして美しい菫色の瞳でまっすぐ俺を凝視して、ゆっくり俺に近づいてくる。
もはや龍の顔と自分都の距離は数メートルだ。あまりに近いせいか龍の吐息がかかる。なぜか甘ったるくて不思議と良い臭いだ。
「ぼ、僕はおいしくない……ですよ…………?」
龍は何も言わなかった。表情一つ変えることもなかった。ただ掃除機のように、勢いよく風を吸い込んだ。
「ふぃえっ」
おもわず変な声が漏れる。さっきは臭いをかいだのか。龍は少しだけ口を開く。大きな牙の隙間から、透明な糸が引いた。
「ぼぼぼぼくは、おおおお、おいいくないい」
俺がそういうと、龍の目がほんの少しだけ細くなったような気がした。
『どうやってここに来た』
頭の中に声が響く。
「へっ?」
『どうやってここに来たかを聞いているっ』
「き、気がついたらここに居ました。僕のせいじゃありません、女神の陰謀です!」
『言っていることがめちゃくちゃだ、最初から話せ』
「は、はぃぃ!」
思わず女神のせいにしてしまったが一応間違いではない。