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夢幻の書庫  作者: 入栖
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結局眠ったのは本を読み終わってしばらくしたからだった。適当に取り出したのに、どうして面白い本に当たってしまったのだろうか。いや、途中で切り上げて眠れば良かっただけの話しであるが。

「おや、ずいぶん眠そうね。眠れなかったのかい?」

「ええとですね、本を読んでいたら目がさえてしまって」


「はははっ、なんだいそんなことかい! 宿の質が悪かったのかと思ったよ」

「完全に自業自得ですね……」

「今日はどうするんだい? なんなら寝ていても構わないよ?」

「いえ。一応冒険者なので、仕事をしようかと」


 昨日登録したばかりの初心者ぺーぺーです。ただ、お金は稼いでおかないと旅は出来ないからやらざるを得ない。

「そうかい、無理はしないようにね」

「はい、行ってきます」


 そう言って宿を出ようとすると、カウンターの奥からひょっこりメリーが現れる。そして彼女は、にまっと笑い、

「メルお兄ちゃん行ってらっしゃい!」


 といって手を振った。手を振り返すと彼女に背を向け宿から出る。

 どうやら今日は雨は降ることはなさそうだ。雲一つ無い快晴で、登り始めた太陽を遮る物はなにもない。

 暑くなる前にギルドへいこう。

 多分俺と同じ思考なのだろう、ギルドの中は喧騒に包まれていた。何人もの冒険者がカウンターに列を作り、今か今かと自分の番を待っている。さらに依頼票の前も混んでいて、依頼を見るだけで時間が掛かりそうだ。


 長い。とても長い。あまりにも長い。並ぶべきだろうか?

 一応お金ならまだある。回れ右して宿で惰眠をむさぼるのも良いかもしれないし、町を探索しても良いかもしれない。まだこの町に来たばかりだ。今日はゆっくりして明日はもっと早く来るのがいいんじゃなかろうか。


「あれ、メルちゃん?」

 その言葉に振り返ると、見覚えのあるエルフがこちらに手を振っていた。

「あ、お久しぶりです!」


 20歳前後にしか見えない、アラエイティの女性エルフはこちらに近づいてくる。確か狩人の一人で5年くらい前から見かけなくなっていたはずだ。名前は……なんだったろうか、年は覚えているのだが。

 彼女の後ろには、なぜか露出度の高い鎧の上にローブを着た女性戦士、杖を持った女性神官、短刀を背中にくくりつけた小柄な女性の3人が居た。


「メルちゃん、どうしたの? もしかしてケンカでもしてでてきたの?」

 どうしてそうなったのだろう。

「違いますよ、元々予定されてた旅です。後で合流しますし」

「そっかぁ、メルちゃんがフリーだったら私が立候補してたのに」


 そう言って赤茶色の髪をかき上げ、ウインクするエルフ。にっこり笑うその顔はエルフだけあって端正であり、非常に魅力的だ。アラエイティとは思えない。

「もう、からかうのは止めてくださいよ。それにしても、しばらく見ないと思ったら里を出てたんですか?」


「ええ、そうよ。すごく退屈だったから出ちゃった。里を出て冒険者になって毎日が楽しいわ、面倒な事もあるけどね……ってそうだ。私みんなを待たせてるのよ」


 そう言って後ろを振り返る。笑顔でこちらを見る彼女達に小さく礼をした。

「私そろそろ行くわ、メルちゃんも依頼を受けに行くんだよね。幸運を祈るわ。あ、いつか時間あるとき飲みに行こう」


「ええ、楽しみにしています。ではまた」

 彼女は小さく手を振りながら、仲間の元へ歩いて行く。

 彼女達を見送ってから辺りを見渡すと、なぜか周りから注目されている。彼女と話すときにフードを外したせいだろうか。まあ、どうでもいいか。


 さて、帰ろうかとも思っていたが、どうしよう。今は祈られたてまえ、何かしたい気分の方が勝っているきがする。どうせだし適当に何か仕事をしよう。

 記憶が確かなら、常に張り出されている依頼(常時依頼)はわざわざ受付に依頼票を持って行かなくても大丈夫だったはずだ。ならばそれでいい。並ぶことのなく仕事が出来るヤツにしよう。


「ねえ、お兄さん」

「あん、なんだ坊主」

 仲間を待っているのだろうか、腕を組んでじっと受付を見ている男性に声をかける。

「常時依頼で初心者向けの物を知っていたら教えていただけませんか?」

 そういうと彼は呆れたようにため息をついた。

「おいおい、自分で確かめろよ?」

「身長が足りないので見にくいんです」


 長身の冒険者でひしめく依頼板。バーゲンの主婦よりかはマシだろうが、進んで行きたくはない。

 彼はめんどくさそうにため息をつくと、いくつか依頼を教えてくれた。曰く薬草採取や食用の肉類の納品ならいつもあるし、初心者に向いているとのことだ。


「教えたぞ、じゃ対価をよこせ」

「対価ですか? こんな情報の?」

 男性は頷く。

「ああ、ちょっと聞きたいだけだからそんな身構えるな。『紅のバラ』とどういう関係か知りたかっただけだ」


「『紅のバラ』ですか? 何ですかそれ」

 聞いたことがない。ブタだったら知ってるんだけど。いや、この世界の人が知らないか。

「おいおい、お前さっきメンバーのエルフと仲よさげに話してたじゃねーか。あのパーティのことだよ」

 そう言われてああ、と納得する。


「彼女とはただの知り合いですよ、狩りの時に顔を合わせてたぐらいで。エルフ以外の三人はもはや初見です」

「んだよ、つまんねえな。まあ、んなこったろうとはうすうす思ってたけどな」

「それではお兄さん、僕は薬草採取でもしてくるので」

「ああ、いってこい」


 そう言ってまた腕を組み壁に寄りかかると、受付をじっと見つめる。やけに真剣だ。

「ちなみにお兄さんは何をしているんですか? 誰かを待ってるんですか?」

「まってるといやあ、まってるな。ずっと待ってるんだ、届くまでずっと、ずぅっっとだ…………まあ、俺のことは気にするな」


 そう言って彼は会話を切るかのように、シッシと手で払われる。

 俺はそのまま彼から離れる。そしてギルドを出ることはせず、出口に居た冒険者に彼の事を聞いてみた。

「あん? アイツはギルド受付嬢を一日中見つめる変態さ。めちゃくちゃ有名だぜ」


 彼はいろんな意味で危険人物だったらしい。彼が言っていた『届く』というのは彼の思いだろうか。一生届かないどころか、彼自身が鉄格子の中に隔離されそうだ。次から話しかけないようにしよう。


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