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夢幻の書庫  作者: 入栖
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 町に入ることに大きな問題は起きなかった。エルフの里で前もって準備していた身分証が効を成したようだ。ただ、町によっては効力を得ないことは聞いていたので、早急に代替の身分証が必要になる。

「おう、珍しいな。エルフの坊主か」


 腹にそれなりの脂肪を蓄えた男性は、俺の全身を見てそういう。

「こんにちは、ギルドカードを作成していただけませんか」

 俺はそういって自らの身分証を差し出す。


「ああ、登録か。その前に色々説明有るんだが、説明必要か?」

「不要です」

 そう俺が言うと、彼は俺の身分証を確認し、引き出しから灰色の紙を取り出した。そしてペンを手に取り、何かを記入する。


「文字は書けるよな? これにお前さんの事を書いてくれ」

 俺は渡された紙を見て、適当に記入していく。身分証に書いてあった情報はすでに書かれていた。先ほど書いたのだろう、書いてくれるのは嬉しいがもう少し綺麗に書く努力をした方がいい。

 冒険者ギルドだからか、問われることは戦闘に関する事が多い。使用武器、得意属性、流派。

「書き終わりました」


「おう、ちっとばかし作るのに時間かかっから少し待ってろ」

 そう言って彼は紙を持ち後ろにあった、無機質な箱にいれる。その箱はがたがたとその場で振動し、やがてチーンとまるでレンジのタイマーのような音と同時に、下に開いた穴から一枚のカードが出てきた。

「ほれ、魔力を通せ」


 俺は渡されたカードに魔力を通すと、カード上に文字が出現する。


 ■名

  メルヒオール

 ■使用武器

  弓

 ■魔法

  水魔法

  回復魔法

 ■ランク

  F


 内容を確認するも、特に問題があるようには見えなかった。なんだか情報が少ないようにも見られるが、カードに記載するならこれで十分なのだろう。

「おし、コレでお前の魔力が登録されたからな。なくすなよ」


 ※補足。本来はギルド登録のさいに本当にその属性の魔法が使用できるかのテストがあるのですが、メルはエルフの里で作った身分証に、使用できると記載されていたのでパスしました。

「ありがとうございます。それとお尋ねしたいのですが、この辺りで料理の美味しい宿をご存じであれば紹介いただきたいのですが」


「あー飯か……お前さんの懐具合にもよるが、『なかずの羊亭』が良いんじゃねえかな? 見た目はぼろっちいが、中は意外に綺麗だし飯も旨いぜ」

 彼に場所を尋ねると、お礼を言ってギルドを後にする。そしてローブに付いているフードを被ると、案内された『なかずの羊亭』へ向って歩き出す。


 なかずの羊亭はギルドから歩いて十分ぐらいだろうか。平民街の商店が並ぶ通りの隅っこに建っていた。確かに景観はお世辞にも綺麗とは言いがたい。石で出来たその建物は長年の雨風によって傷やすれた後があるし、立てかけられている看板は、隅の文字がすり切れ、一部文字が消えかかっていた。

 俺は看板から視線を外し、年季の入ったドアを押して中に入る。


「いらっしゃい。坊やは食事かい?」

 出迎えてくれたのは20歳後半くらいで恰幅の良い女性だった。俺はカウンターへ行くとフードをとり、宿泊ですと答えた。


「おや、エルフさんかい。すまないね坊や扱いして」

 どうやら彼女は俺の年齢を察してくれたようだ。

「いえ、気にしてませんので」


「それで、宿泊だったね。何日宿泊するんだい? それとウチは食事の時は別料金になるからね」

 ふむ、何日にしよう。

「ええと、1週間分払って、3日で宿を出る場合、余剰分は返していただけるのですか?」

「そうだね。8割は返金するさ。だけど1週間を超えても戻ってこないなら、荷物は倉庫に持って行くからね。それでさらに数日たっても戻ってこないなら、荷物を処分するからそのつもりでいなよ」

 で有れば、少し多めに払っておこう。


「では十日分でよろしくお願いします」

 彼女にお金をわたし、ギルドカードをみせる。

「はいよ……ちょうどだね。部屋の鍵はコレ。メリー案内してやって」

 そういうとキッチンの方から少女が現れる。メリーは彼女の娘なのだろう。その赤い色の髪も顔かたちも母親そっくりだ。


「はぁい、わあエルフさんだ」

「こんにちは、お嬢さん。案内を頼むよ」

「任せて!」

 そう言って彼女は意気揚々と奥へ進んでいく。そして少し歩いたところで彼女は制止し、あははと笑った。


「部屋の場所聞き忘れたっ!」

 メリーちゃんは少々ドジ属性をお持ちらしい。可愛いから許す。


 

 案内された部屋は確かに外と比べればかなり綺麗である。壁は少し汚いが、家具は新調されているようで、特にベッドが綺麗だった。

「あー、やっぱり荷物、置いてくか」

 宿を利用していて、荷物をなにも置かないのは端から見れば不自然であろう。次元袋は所持していないように見せるためにも、どうでも良い荷物なんかを置くべきだ。

 そうと決まれば荷物を出そう。適当な着替えを置いておけば良いだろうか。後は予備の水筒でも置いていこう。


 荷物を置き終わり、少し休憩のため読書。そしてお腹が空いてきたので部屋を出る。少し早いが夕食にして良いだろう。

「おや、エルフさんは食事かい?」


 カウンター席に座ると、先ほど対応してくれた恰幅の良い女性に声をかけられる。

「食事です。それとメルの呼び捨てで構いませんよ、ちなみに奥さんはなんとお呼びすれば良いですかね?」


「あたしのことはマドレーヌとよんどくれ」

 と彼女が言うとカウンターから一人の少女が出てきて、俺の横に座った

「あたしはメリーっていうのよ!」


「メリーちゃんか、僕のことはメルって呼んでね」

「メルお兄ちゃん! ねえメルお兄ちゃんエルフのこと聞かせて!」

「こらっ、メリー。お客さんのお邪魔になる前に裏に……」

「いえ、マドレーヌさん、私は気にしてませんので。メリーちゃんお話しようか」

 彼女に聞かれるのはエルフ族について。初めはすらすらと答えられたが、まれに答えにくい事も聞かれる。


「人間とどうちがうの?」

「それは僕にも分からないな」

 首をかしげ、きょとんとするメリー。

「分からないの?」


「メリーちゃんがエルフをよく知らないように、僕が人間をよく知らないんだ」

「おや、メルは森から出てきたばかりかい?」


 そう言ってマドレーヌさんは僕の前に料理を出す。なんだか頼んだ覚えのない商品が一緒に出されているがそれは気のせいだろうか。

「なに、サービスだよ。メリーを見て貰ってるしね」

「ありがとうございます。里から出るのは初めてで、人間族について聞いても良いでしょうか?」

「いくらだって答えてあげたいとこだけどね、そろそろ常連さんが来る時間さ。忙しくなったら後まわしにするよ」


「ええ、それで構いません」

「ねえ、あたしがおしえるよぉ!」

 おもわず笑顔でメリーちゃんの頭をなでる。

「そっか、よろしくね。メリーちゃん」


 ずいぶん年若いけれど、彼女はしっかり看板娘をしているらしい。彼女目当てで来たくなるぐらいだ。

「やはり、エルフって珍しいんですか?」

 10年程シルヴィの家かエルフの里にしか行かなかったし、噂に聞くぐらいしか人間族をしらない。シルヴィ家族に、面倒ごとをさける為にもローブのフードを被っていった方が良いと言われていたから、注目を浴びるんだろうなとは思っていた。


「たしかに珍しいけど、この町じゃそこまでじゃないね」

「わたしも、前にあったことがある!」

「ただ、この町に来る冒険者に聞くと、他の町では珍しいらしいね」

 ここはエルフの里が近いからだろうか。それに細々では有るが、エルフの里と交易しているらしいし、ある程度は見られるのだろう。


「まえにね、エルフを見にきたっていう、冒険者さんがいたよっ! おっきかった!」

 なにがおっきかったのだろう。考えるまでもなく身長だ。

「そうなんだ、だからたまに僕のことを見る人が居るんだね」


 と笑顔で言うと、彼女はにまぁと笑った。今思えばメリーもエルフを見に来た人であるんだろう。

「アンタぐらいの子供は特に珍しいかもしれないね。もちろん、あんたが子供じゃないのは分かってるんだけどさ、大抵のエルフはもう少し大きくなって来るからね」


 なるほど、来るとしても、もう少し成長したエルフなのか。一応エルフの里を出る年齢をゆうに満たしては居るんだよな。ただ周りと比べても成長が遅いだけで。

「なんだか僕はエルフの中でも成長が遅いらしいです。先祖の血の影響ではないかと言われているんですけど」


 といっておくが、シルヴィにシン・エルフの影響と断言されたんだよな。ハイエルフと同じくらいか、それよりも遅い成長らしいし。

「じゃあメルは結構年をとってるのかい?」

「今年で40になりますね」

「40かいっ!」

 と、彼女は両目を見開いて口をぱっくり開ける。そしてカウンターから身を後出して俺の全身を見つめた。

「あたしと同じくらいだと思ってたよ」

「はははっこの町に来る前に合った冒険者にも、そんな顔をされましたよ」

 どうやら俺はエルフというフィルターをかけても、かなり年若く見えるらしい。

「っと今日はずいぶんと早いね、常連さんが来たみたいだ。メリー」

「うん」


 そう言って彼女は厨房の方へ引っ込んでいく。

「すまないね」

「いえいえ、お気になさらずに。またいつか聞かせてください」

「あいよ、まかせな」


 そう言って彼女は背を向け、料理を作ってる旦那さんに話しかけた。

 さて、そろそろ本格的に料理をいただこう。出されたメインディッシュのお肉は味を考えるにイノシシの肉だろうか。上手く調理したのだろうか、臭みが感じられず美味しく食べられる。

 ただ少し残念な点を上げるとすれば、少し塩味付けが濃いだろうか。これはスープにも言える。キノコや山菜の入ったコンソメのスープは塩味が風味を壊しているような気がしてならない。

「やっぱこれだよなぁ!」


 後ろからそんな声がしたため、ちらりと盗み見る。筋肉質の冒険者は出された肉を、旨そうに、それも豪快に食べながら、エールを口に入れていた。その隣に座っているひげの濃い男性も同じように旨そうに肉を食べている。


 エルフと人間では味覚が違うのだろうか? エルフの里で食べた料理は普通だったのだが。

 食事を終えてマドレーヌさんにお礼を言う。彼女はにんまり笑って味を聞いてきた。

「あれはイノシシの肉ですよね。クセがほとんどなくてびっくりしました」

「なに、イノシシ肉の臭みの原因はだいたい血さ、丁寧に血抜きすんのがいい。それと塩水でもみだせばかなりの血が出てくれるよ」


「なるほど。血抜きはやはり大事ですね」

 うちで食べる肉はほとんどヴィオレットが取ってくるんだけど、ヴィオレットは血抜きをちゃんとしていたのだろうか。一応出来そうなときは血抜きは一応していたが、狩って時間がたっていることが多かったので、ほとんど出来ていなかっただろう。それでも味が良かったのは、肉の質が良かったからだろうか。竜とかの肉だし。まあ美味しかろうと、量が量で、食べきれずどんどん多次元収納袋にたまっていき、一時期ヴィオレットに持ち込み禁止を出すほどだったが。


「あとはにとか香辛料で味付けして気にならなくするか、それとも酒とかで消すか、色々方法はあるよ。ただうちの方法は教えられないね」

 そういって彼女はにんまり笑う。


「いえ、そこまで教えてもらえれば十分です」


 そう言って立ち上がり、メリーちゃんに挨拶して部屋に戻る。書庫から本を取り出すと、読みながら眠気がくるのを待った。


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[一言] 推敲 >あとはにとか香辛料で味付けして気にならなくするか ↓ 脱字
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