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夢幻の書庫  作者: 入栖
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同じ系統の本をたくさん読めば、作者と読者が好むパターンを理解することが出来る。それは繰り返し使われ、当たり前のように定着する。いわゆるテンプレートだ。あまりに読み過ぎた人にとってはテンプレなんか朝に食べるテンプラと同じように胸焼けする物だというかもしれない。しかし逆にまたそれが良いと朝から油の塊であるテンプラを食べる者も居るし、テンプレを好む人も居る。


 どの本でも大抵出てくるありきたりなそれは、現実で起こるはずもない。そう思っていた時代が俺にも有りました。

「うそだろ……」


 もうすぐ森を抜ける、そんなときだった。仲間の名前だろうか、耳にとどく叫び声。アレス、アレスと女性が何度も連呼している。

 どうするか迷ったが、助けに行くことにした。


 弓を手に持ち足に魔力を込めると、地面を蹴る。森を抜けてすぐに彼らは見つけることが出来た。

 見たところによると彼らはオオカミ型の魔獣にやられているようだった。一人の女性が男性の肩を支えながら、期を見て逃げだそうとしている。また彼らの少し前には一人の男性が剣を持ち、6匹の魔獣と対峙している。


 メルは走りながら矢をつがえ、威嚇のためかうろうろしている魔獣に狙いを定める。そして魔力を利用して弓を引くと、魔獣の1匹に向かって矢を放った。

 当たる。

 放った瞬間に確信できた。横に吹き飛ぶ魔獣を見て彼らは俺に気がついた。

 すぐに矢をつがえ、2射目を放つ。今度は矢に風魔法を使ったおかげで早さが増している。回避は難しいだろう。


 2匹目を仕留め、さらに矢をつがえる。魔獣はこちらを危険と認識したのか、こちらに向って威嚇をする。気にせず第3射を放とう。

 しかしそれは避けられてしまう。オオカミ型とあって動きは速い。風魔法を矢に付与すべきだった。ただその隙を見のがさなかった男性冒険者は、剣で1匹の魔獣の首を落とした。なかなか良い腕だ。残りは3匹。


 今度はしっかり風魔法を矢に付与し、弓を引く。避けられる前に当たったようだ。

 不利を悟ったのか、魔獣たちは背を向け、逃げ出そうとする。一瞬追いかけて倒そうかと思ったが、彼らに声をかけようと思い、弓を下ろした。


 俺が彼らに近づくと、彼らは耳を見て少しだけ驚いたようだった。

「大丈夫ですか?」

「エルフの少年? 助かった、ありがとう」


 どうも、40超えた少年です。


「いえ、気になさらずに。それでそちらの方は?」

 そう言って女性が介抱している男性を見る。どうやら左手と右足を噛まれたようで、赤黒い血が流れていた。


「ごめんなさいエルフさん。急いでアレスを治療したいのっ! お礼は必ずするから!」

 そう言って彼女は足に布を当て、立たせようとする。どうやら誰も回復魔法は使えないようだ。

「失礼、お嬢さん」


 彼女達の前に立つと、杖を取り出し普段は使わない詠唱をする。そして回復魔法を彼に使った。

 痛みからか皺の寄っていた男性の顔が、だんだんと朗らになっていく。荒かった呼吸も落ち着いたようだ。

「回復魔法……うそでしょう、なんて効力なの」


 ついでに女性と剣を持って戦っていた男性にも回復魔法をかける。

「あ、ありがとう。どうお礼をすれば……」

 元気だった男性はそう言って俺を見る。たしかアレス君だったか。


「いえ、お気になさらずに。魔獣の素材はお持ちいただいて結構ですので、死体の処理をお願いします。では私はこれで」

 俺はすぐに杖をしまうと、弓を背中に背負う。そして彼らから離れようと背を向けた。

「待ってくれエルフ」


 ただそれはすぐに止められた。男性が俺の肩を掴んだからだ。

「なんでしょう?」

「きちんとしたお礼がしたい。町でおごらせてくれ。それに魔獣の素材で得た金もお前に渡そう」

「いえ、若人にそこまでは求めてないので」


 そういうと彼らは苦笑する。そして女性が口を開いた。

「若人って……ねえ、エルフさん。エルフは成長が遅いとは聞いたことはあるけど、それでもあなたは私たちより年下でしょう? 少なくとも18歳を超えているように見えないわ」


 彼女は日本で言うと高校生くらいの年齢にしか見えない。ただ怪我を負っていた彼18を超えているだろう。ならば二人足したところで俺には足りない。エルフ、というよりシン・エルフの影響で若く見えるのは分かっていたが、それでも若く見られすぎだ。


「いえ、僕は今年で40歳ですよ。お嬢さん」

 開いた口がふさがらないというのは彼らのことを言うのだろう。呆けたように口を開く彼女らの口にマスタードを突っ込んでみたい。


 それにしても効力の高い回復魔法を使ったことより、年齢の方が驚かれるのはなんだか納得いかない。大人に見えるように変装でもした方がいいだろうか?



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