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夢幻の書庫  作者: 入栖
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「それでメル君は何しに来たんだっけ?」

 言われてみれば理由を話していなかった。それどころじゃない空気になって完全に忘れていたが。

「以前お願いしていた、人間族の通貨をもらいに来たんですよ」

「ああ、あれか。大丈夫、用意しておいたよ」

 そう言って彼は立ち上がると、自室へ入っていく。

「あれ、どこにおいたか。こっちだったような」


 バサバサバ、ガタン、ドパァ。彼の部屋の掃除は、青筋を浮かべたマルジョレーヌさんに任せよう、俺は知らない。

「あったよ。はい、豪勢しなければ1ヶ月分くらいの生活費になるはずだ」

 俺はお礼を言うとお金を受け取り、多次元収納袋へしまう。


「なに、君からはいろんな情報を貰ったからね。多次元収納袋だって貰ったし。お礼は不要だよ」

 そう言ってははは、と笑うエマニュエルさんが少し心配になる。

「一応、他言無用ですからね」


「メルちゃんは心配しなくても大丈夫よ。スキルのことも含めて、私たちは墓まで持って行くわ」

「あんなの吹聴したら、世界の魔法体系が変わるだろうしね」

 そういうと夫の言葉に同意したマルジョレーヌさんは頷く。

「まあ、いずれ来たる魔法世界だとは思うので、さわり部分なら話しても良いかもしれないですけどね」

 現に少し公表してるし、と俺がいうと、彼はにが笑いを浮かべた。

「でも私の口からは出さないことにするよ、もし世界に伝えるべき時が来たら、メル君から伝えるべきだと思う。まあ、何百年か先になるかもしれないけど」


「そうですね……あそこまで発展するのはいつになることやら」

「人間達の発展はめざましい。思ったよりも早くなるかもしれないね。と、そういえば人族の町へはこのまま行くのかい?」

「ええ、もうシルヴィの所には行かずに、そのまま行きます」

「戻ったら遠回りね」


 人族の町とシルヴィの家は真逆だ。わざわざ戻る必要はないだろう。

「まあ、その前に弓矢を新調しようと思っているので、買い物後に出発ですかね」

「今日は泊まっていくかい?」

「ええ。すみませんが、お願いします」


「ちょっと遠慮なんてしなくて良いの! メルちゃんはもう家族なんだから、ここも自分の家のように使って良いのよ。部屋だって余ってるし」

「そうだよメル君。気にしなくて良いんだ。そうだ、まず一杯飲もうじゃないか」

 そう言って彼は立ち上がり葡萄酒を手に席に座る。それと同時にマルジョレーヌさんがグラスを置いてくれた。


「そういえばメル君は聞いたかい? 人間族が勇者召喚を行ったそうだよ」

 思わず吹き出しそうになるのを堪え、口を布で拭く。

「……本当ですか?」

「本当さ、現に成功したらしいし。魔王対策の一環なんだろうけど、通用するのかは甚だ疑問だね」

 もし召喚される勇者が、俺や転生した人たちのように何らかの能力を授かれば、勝機はあるだろう。魔王の強さにも寄るが。


「通用すればいいですね」

「ふふ、君は相変わらず他人事だね。まあいい。勇者召喚もあっていくつかの国に動きが有るらしい。とはいえ個々の国々の思惑なんざ、私が知るところでもないけどね。研究さえ出来れば良い」

「エマニュエルさんは相変わらずですね。シルヴィそっくりだ」


「いや、姉さんは変わったよ、君のおかげでね。でなければずっとあそこで過ごしていただろうから。『仕事が終わったらメル君と旅行する』なんて聴いたとき、自分の耳が腐っているのではないかと真面目に心配したからね」


「それってよっぽどですよね。まあ気持ちは分かりますが」

 彼女は根っからの引きこもり気質だったからなあ。

 と話していると、マルジョレーヌさんがテーブルの上に皿を置き、エマニュエルさんの隣に座る。俺はすぐにグラスに酒を注ぐと、彼女は笑顔で受け取った。


「メルちゃん、ヴィオレット様はどうされるの?」

「ヴィオレットは合流したら僕と一緒に世界を回る予定です。なんでも龍達の会議なんて名ばかりの宴会が長引いてるらしいので、すぐには無理だとか。まあ、だからこっちから会いに行くんですけどね」

 俺はエマニュエルさんが皿の上にあったチーズらしき物を口に入れるのを確認し、自分もそれに手を伸ばす。泡を吹いていないし、多分大丈夫だろう。


 手に取ったチーズをそのまま口の中に入れる。

 上に白カビが付いていることから察するに、カマンベール系のチーズだろうと思っていたが、どうやらその予想はあたりだった。もっちりとした食感にまろやかな味わいのそれは、マイルドでかつフルーティなこの葡萄酒にはとてもよく合う。


「……すばらしいマリアージュですね、葡萄酒が進みます」

 チーズの後味がワインと結婚して、これ以上ない幸福感が口の中に残る。ああ、なんて素的な組み合わせだろうか。

「おいしいだろう! 最近妻と行った商店でたまたま見つけたんだ。次回は姉さんにも差し入れしようとおもってる」


「シルヴィはとても喜ぶでしょうね。僕もシルヴィのお土産におつまみなんて良いかもなぁ」

「姉さんは美味しい物には目がないからね、ただめんどくさがりやだからすぐ入手を諦めるけど」

 笑いながら俺はグラスを傾けると、マルジョレーヌさんは目を細める。


「ねえメルちゃん。ずっと気になってたんだけど、その指輪を以前はしてなかったわよね? もしかしてそれ……」

 思わず苦笑する。地球に居たときから思っていたが、どうして女性はこういった物にめざといのだろうか。いや、俺が無頓着なだけで他の男性だって気がつくのかもしれないが。


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