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夢幻の書庫  作者: 入栖
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 マルジョレーヌさんの良さと言えば、気立ての良さだと俺は思う。エルフで有るからとても美人だし(エルフから見れば普通らしく、シルヴィはエルフから見ても美人とか)、何よりも笑顔が可愛らしい。美人だともてはやされるのではなく、可愛いと可愛がられるタイプだ。

 対してエマニュエルさんはどうだろうか。頭が良く研究熱心では有るが、半引きこもりだ。また、いつどこで彼を見ても白衣を着ている彼は、ファッションに縁がない。多分さほど魅力は感じられないエルフではなかろうか。


「どうしたんだい?」

「いえ、どうしてマルジョレーヌさんがエマニュエルさんと結婚したのかなと思いまして」

 失礼なことをさらっと言ったが、エマニュエルさんは自分でも自覚しているのか、声を出して笑った。

「メル君。それはね魔法の真理を解き明かす以上に難しいことだと思っているよ」


 確かに女性の心を分かるやつは、どんなに時代が進んでもいないと思う。石器時代から現代まで無理だったのだ。とはいえ人の心を読む魔法がなければという仮定が付くが。

「幼なじみだったからですか?」

「うぅん、関係は有るかもしれないけれど、分からないな。私以外にも幼なじみはいた上に彼女はすごくモテてたし」


「確かにマルジョレーヌさんはモテそうですね」

「まるで私がまったくモテないといっているようではないかな? まあそのとおりだけれどね」

 二人で笑っているとマルジョレーヌさんが部屋に入ってくる。

「おまたせ、メル君」


 そう言ってマルジョレーヌさんは3つのカップをテーブルの上に置く。

「はいお茶をどうぞ。あたらしく茶葉を仕入れたのよ」

 ははは、と笑っていたが、出されたものを見て思わず笑いが消失する。

 何だろうコレは。お茶だと言っていたが、コレはお茶ではない。もしカップの底が見えない程、濃い紫色のお茶が有るならぜひ教えて欲しい。そして目の前で飲んでくれ。

「お茶菓子もどうぞ。今日は新作を作ってみたの」


 こちらは光輝く緑色のペーストだ。もし別の食べ物に例えるなら、抹茶シェイクに油を垂らして金粉を混ぜたような感じだろう。まるでソフトクリームのように螺旋を描いているそれは、すごく綺麗だし美味しそうに見える。


 思わずエマニュエルさんを見つめると、彼も同時に俺を見た。

「私は茶菓子から食べよう」

「僕は茶菓子からいただこうかな」

 またも同時だ。しかも目的は同じ。


「メル君、疲れているだろう。まずは水分補給からしたらどうだい」

「そうよ、メル君。それにね、新しい茶葉の感想が欲しいわ」

 すぐさま断ろうと思ったら、悪魔の追い打ちが入るではないか。可愛らしいエルフから期待のこもった視線で見られて、断れるヤツが居るだろうか。できることなら今すぐ断りたい。

「い、いただきます」

 天井を見て大きく深呼吸する。よし、いける。

 意を決して茶と向かい合う。臭いは、さほど感じないが、強いて言うなら何らかの草の臭いだ。悪くはない。目に掛かった前髪を手で払うと、こくりとつばを飲み込みカップを傾けた。

「あれ、意外に美味しい」


 ほんの少し少しクセのある味だが、蒸らし方を変えるか、時間を調整すれば味は良くなりそうだ。

「でしょう? 私も初めて茶屋で飲んだときはびっくりして、そのままお店の人に茶葉を譲って貰ったのよ。ただまだあのお店ほど美味しい味は出せないけれど、いずれ出せるようにしてみるわ」

 もう一度口に含む。どうしてこんな色をしているかは不明だが、味は悪くないどころか良い。

「じゃあ私もいただこうかな……」


 そう言ってエマニュエルさんは茶菓子に手を伸ばす。まるで生クリームのようなそれをスプーンで掬うと、口に入れた。

「うん、おいし……んがぁぁ」


 急にノドを抑えもがき苦しんでいる。そして彼は泡を吹いて倒れてしまった。慌てるマルジョレーヌさんの横で、俺は解毒魔法と回復魔法を唱えた。

 

 シルヴィ曰く、マルジョレーヌさんに欠点が有るとすれば、それは料理とのことだ。1週間に1度のペースで殺戮兵器を作り出す、と聞いていたが、残念なことにそれは本当だった。

「ごめんなさい、エマニュエル」

「そんな顔をするなマルジョレーヌ」

「また私失敗したのね……」


 笑顔の素的なマルジョレーヌさんが眉根を下げ、今にも泣き出しそうな表情をしている。そんなマルジョレーヌさんの手をエマニュエルさんは掴む。

「君の失敗なんて些細なものさ、僕なんて毎日失敗続きだ。でもね、その失敗の経験がいつか実を結ぶときが必ず来るんだ」


「でも、」

「私は楽しそうに料理を作るマルジョレーヌが好きなんだ。気にしないで料理を作って欲しい。それに私のプロポーズを忘れたかい? あのとき私は誓っただろう?」

「エマニュエル……」


 三途の川まで行ったような表情で泡を吹いていたが、そんな事を言えるエマニュエルさんはすごいと思う。いや頭のねじが外れていると思う。それにしても彼はプロポーズの時に何を誓ったのだろう。でも今ここで俺が口を出せる空気じゃない。 

「エマニュエル……」


 潤んだ瞳でマルジョレーヌさん達は見つめ合う。なんとなくだが二人は結婚した理由が分かった気がする。

「マルジョレーヌ……」

「ああ、エマニュエル……」

「ああ、マルジョレーヌ……」


 すごく雰囲気の良いところ悪いのだけれど、俺がこの部屋にいること忘れてないかな。茶菓子食べてないのに胸焼けがするんですが。

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