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ある日、僕は神様の子供になりました。  作者: tomo
樹海の秘宝
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第十一話 大狼 フェンリル

「戦士は武器を揃えろ!それ以外は教会に行け!!!」


 イユが広場の中心で声を荒げて指示を出している。その顔は何かに怯えているようだ。


 その怯えに感染したかのように、里の人たちの顔もイユのような顔になりあたふたと駆け巡っている。


「イユさん、これは?」


 アナとエレナが広場におりてきた。


「敵が来ます。あなたたち2人はアルツベンに戻りなさい。あそこならここよりは安全でしょう。それと協力の件ですができそうにもないです。すみませんね」


 イユが腰のポーチから転送魔術が施された魔術紙を2人に一枚ずつ渡した。


「イユさん、これは受け取れません。私たちにも手伝わせてくだ......」


「だめだ!!」


 エレナが後ろに一、二歩下がった。イユの気迫に押されてようだ。


「なんで.....港はどうなるんですか?そうだ。そのことで....。」


「諦めなさい」


 イユが冷たく、凍えるようなトーンの声でエレナに言い放った。


 エレナの顔がどんどんと青ざめ始め、膝をその場についた。


「イユ様!!結界、発動準備整いました。!!」


「待ちなさい。さぁ、早く行きなさい。結界が発動したらここから外に出れなくなってしまう」


「港は....」


「アナさん。エレナを連れて行きなさい」


「港は無理なんですね」


 イユが深く頷いた。


 私はそれを見ても何も感じなかった。つくづく私はひどい女だと思う。


 港のことなんてどうでもいいなんて考えている自分がいる。それに助けたいと思っている私が1人もいない。


 それもそうだ。ここで港がいなくなれば、もしかしたら私は、エレナの........。


「もしもこの里が残ったら使者を送ります」


「わかりました」


 私はエレナの肩を握った。それと同時に魔術紙を破いた。


 エレナとアナが光に包まれた。


「アナさん。エレナさんを死に物狂いで守りなさい。敵の狙いは彼女です」


「わかりました......。あ!オルは....」


「後で送ります」


 広場からエレナとアナが姿が消えた。


「結界を張れ!!」


「了解!!!」


「戦士たちよ!私に続け!!命をかけて秘宝を守れ!!!」


「は!!!!」


 イユを先頭に戦士たちが剣を携え里の門の前に整列した。


 開いた門の奥からは森がざわざわと揺れ地震が起きたかのように土が揺れる様子が伺えた。


「来た」


 そう言うとイユが腰の剣を抜いた。




〜〜〜〜〜




 オオォォォーーー!!!!!!!


 迷宮の中をミノタウロスの叫び声が壁と壁を行き来し響いている。


 そんな迷宮の中で港は1人その声を注意深く聞いているようだ。


「2、3メートルかな。始めるか」


 そう言うと港は手を床についた。闇の中にいくつもの赤い目が浮かび上がり、ギリギリと骨がこすれるような音がする。


 その音に反応したのだろう。ミノタウロスの足音が少しずつ、少しずつ、確実に港に近づいている。


 港はその足音のする方に松明を投げた。


 ミノタウロスが松明に照らされ、その屈強な肉体があらわになる。


「こいやクソ牛!!!」


 オオオオォォォォーーーーーーーーー!!!!!!


 さて、最後の勝負だ。だけどこれが一番大変だ。


「好きに動いていいぞ!お前ら!自由にしろ!!!!」


 そう言って僕は剣を抜いた。


 骸骨がいこつたちがまるで釈放された囚人のように嬉しそうに動き出した。半分はミノタウロスに反応し、半分は僕に反応して、一斉に襲いかかって来た。


 銃は使えない。たとえミノタウロスに流れ弾の一つでも当たったとしても致命傷にはならない。それに僕は絶対に勝てない。オーディンの話を聞く限りではそれは確定しているらしい。


 ならば第三者を用意するまでだ。第三者ならミノタウロスを殺すことができる。もしも殺すことができれば僕は死ぬことはないはずだ。だが骸骨たちを好きに動かすと言うことは僕も襲われるということだ。


 それまでに僕が死ななければいいが........。


 骸骨の攻撃が雨ように襲いかかってくる。それを1人ずつ冷静に確実に骸骨の脳天を叩き割る。


 しかし叩き割るたびに何度も骸骨が次から次に現れる。


 一方、ミノタウロスは一振りで5、6体は確実に殺している。


 このままいくと確実に押し切られてしまう。それに骸骨が全て僕の方に来るかもしれない。


 しかし、これ以外に方法がな......。

 

「ッ!!!」


 港の左肩に短刀が突き刺さった。一体の骸骨が港の背後に出たようだ。


 左側に思いっきり回転し、港が背後の骸骨の脊椎せきついを横に切った。


 しかし、その間に前の骸骨の大群が一気に押し寄せ、港を次々と切り刻む。


 服が裂け、所々に擦り傷が目立ち始めた。


 オオオオオォォ!!!!!


 まずいぞ。このままだと完全に押し負ける。


 港が一瞬、後ろに顔を向け、状況を把握する。


 やばい、逃げ道がなくなってしまった。左右に逃げる道がない、それに後ろに至っては壁で行き止まりだ。


「が!!!!」


 いつのまにかミノタウロスがすぐそこまで来ていた。


 港は後ろの壁まだで飛ばされた。


 しかし、港は壁に当たることはなかった。それどころか壁に吸い込まれるかのように壁の中に消えた。


「が!う!!ッツ!!」


 痛い、身体中が熱い。血が止まらない。


 息が、うまく、できない。


 まずいな。早く立たないと、ミノタウロスが.......あれ?

 

 ここどこだ?


 港は真っ白な部屋にいる。そしてそこには何も遮るものはない。だが......。


『おい、オーディンか?』


 あれ?なんか頭に響く。


『答えろ、オーディンか?』


「誰だ?」


『その息子か......』


 のしのしと足音が聞こえる。しかし、何も見えない。見えるのは灰色のモヤモヤしたものだけだ。


『我が名はフェンリル、神を喰らう大狼である』



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